【読み切り短編小説】仕返し
山田がたまたま立ち寄ったラーメン屋の大将は、約15年前、つまり中学生の頃に、彼がイジメていた同級生の竹原だった。
竹原の左手の甲には、痛々しい火傷の跡がいまも残っている。
山田は竹原に対して、特に苛立っていたわけではなかった。むしろ、いまこうして再会するまでは、竹原のことなど忘れていた。無関心。
だからこそ、竹原の作るラーメンを食べたくないなどとは思わなかった。不快にも思っていないからだ。
竹原が山田のことを憎んでいるのなら、毒の一つくらい盛られていても、おかしくないとは予感したが。
「お待たせしました! 豚骨らーめんです!」
竹原は気づいていないのか、それとも気づかないフリをしているのか、他の客に接するように、愛想よく注文したラーメンを提供した。
山田は恐る恐る割り箸を持つと、覚悟を決めた。
ラーメンをズルズルとすする。
豚骨スープが絶妙に絡んだバリカタ麺が、口の中いっぱいに旨みを運んだ。
「うまいっ!」
山田は無意識に、独り言を呟いた。いや、もしかしたら竹原に伝えたかったのかもしれない。
追加で餃子とチャーハンを頼んだ。それらも例外なくおいしかった。
山田は竹原の作る料理の虜になった。
お腹いっぱいになった山田は、竹原に会計を頼んだ。
「ごちそうさま」
「ありがとうございました……山田くん」
「竹原、お前気づいていたのか!?」
「もちろんさ。忘れるはずがないだろ」
山田は、お釣りを差し出した竹原の左手の、火傷の跡が目についた。
「仕返しは、させてもらったよ」
「お前もしかして、毒なんか盛っていないだろうな!?」
「ふん。馬鹿だね。君がこれまで僕にしてきたことを思い出してみなよ。そんな軽い罰で済むと思っているの?」
「な、なに……」
「君は僕の料理の虜さ」
「確かに。もう、お前の料理なしでは生きていけない舌になっている。そ、そうか…...」
毒を盛るなどといった、そう、山田が竹原にしてきたような汚い手ではなく、愚直においしい料理を作ってもらって感動させられることが、屈辱的で、最高(最低)の仕返しであった。
「ちなみに言っておくけど、これはラーメン修行をしていた頃に、湯切りを失敗したときの跡だよ」
そうして竹原は、左手の甲を山田に見せた。
「えっ……」
「君が僕に煙草を押し付けていたのは、右手だったからね。いまはもうほとんど跡は残っていないけど」
「…………」
「この右手で作られた料理は、おいしかったかぃ?」
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