0506
パタン。朝十一時。ようやく2時間に渡る長編ものの恋愛映画を見終えてパソコンを閉じる。
窓の向こうでは家々の隙間から陽光が差す。今日は晴れのち雨らしい。
製薬会社に勤めるセールスマンの主人公が若くしてパーキンソン病を罹った女性に恋をする。付き合いはじめ、順調に愛情を深めていく一方で彼女の病状は悪化していく。手足に麻痺の症状が表れ、カップにコーヒーを注ぐことも出来ない。
容姿端麗で仕事も出来る彼の将来を案じて、別れを切り出す彼女。一度はそれを受け入れるもどうしても忘れられない彼。バスで街を去ろうとする彼女を追って、男前の主人公は、自前のポルシェで道路を爆走する。おそらくこの後、永遠の愛を叫んでから優しく彼女を抱きしめて、めでたしめでたし、といった所だろう。まさに感動のクライマックスだ。
しかし、このシーンを観ている僕は全く別のことを考えていた。
「あ〜、もう早く外に出て、友達とドライブ行きてぇ〜。いつになったら」(見苦しいので以下省略)
この生活になってからはや1ヶ月、ちょうど今日で緊急事態宣言が終わる。わけがないことはNewseveryを見ている人なら、わかりきっていたことだ。でも改めて延長と言われると、流石に少しへこむ。誰だよ、GWとか作ったの。外に出て思いっきり叫びたい。「ガチで、ワック安倍政治」
このまま廃人として学生最後の1年間を棒に振るのか。
なんてことは、まるでない。
人間とは不思議なものでどんなに生活環境が変わろうと最初こそ苦労するものの、徐々にその暮らしに順応していく。冷蔵庫とパソコンの液晶画面を往来する毎日でも自分なりの希望を見つけ、生きる意味を見出す。ズーム飲み会で渾身のボケが大スベりしようが、アベノマスクが一向に届かなかろうが、実際にそれで死ぬなんてことはありえないのだから。
この生活になってからなにも悪いことばかりではない。今朝観た映画は正直イマイチだったけど、心を打つ名作には沢山出会えたし、Amazonが次観るように推してくる映画も的確に自分の趣味嗜好を捉えている。
数々の著名人の訃報。それでも別れがあれば、再会もあるのが人のめぐり合わせというものだ。
先月中旬からは、それまでほとんど連絡を取っていなかった幼馴染と散歩中偶然出会った。そこから彼とは毎夜トレーニングに励んでいる。明日は幼稚園の頃の友達とzoomで話す予定だ。
日記はずっと書き続けているし、料理にも手を出し始めた。読書、英語の勉強、本気で探してみればやる事は山ほどある。何より心にいつも余裕がある。それは単に暇だからに他ならないが、時間に追われていない分、好きなことをじっくり楽しめている、気がする。
大学の総長から授業料の減額をしないという趣旨の言い訳じみた長文メールが届いても心は終始穏やかだ。正直、自分が恵まれているだけだろうと思う。一歩自分の暮らしを抜け出せば、もっと過酷な状況を強いられている人はごまんといるはずだ。先月辞めた焼肉屋さんは大丈夫だろうか。
ピコン。午後四時。LINEの通知音が鳴った。おそらく彼女からだろう。根拠はない。でもなんとなく、そんな気がする。最近では「コロナ別れ」が増えてるとか巷で噂になっている。彼女とは随分会っていないし、なんなら今は喧嘩中だ。でも俗に言う嫌な予感はしていない。今日の山羊座の運勢は好調だ。
まあどんなメッセージだろうとすぐに車に飛び乗って、会いに行けばいい。僕の場合、小さな軽自動車だけど。
そんな風にお気楽に構えていたら、昭和の親父のような理不尽で暴力的な雷雨が急に僕の街に降り始めた。明日は晴れるらしいけど、日本の行く末はお先真っ暗だ。
なんてことは(以下省略)
終わり
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