商人の目、技師の目。
スタートアップスタジオquantumのクリエイティブ担当役員、川下です。
新規事業開発を成功させるには、「未来の物語」を書けるか否かが鍵を握ります。
なぜ未来の物語が必要なのか。そして、未来の物語を書くためにわたしたちが実践する「ABC手法(Ad to Biz Creative手法)」とは何か。ここまでに紹介してきました。
「ABC手法(Ad to Biz Creative手法)」とは、シンプルに言えば広告の創造技法を新規事業開発に応用するというものです。しかし、広告制作の方法をそのまま事業開発に適用すれば、プロジェクトがうまくいくわけではありません。わたしはこれまでに広告創造と事業創造の両方に携わってきましたが、両者には似たところがある反面、大きく異なるところがあることを学びました。今回はそのうちの1つ、「商人の目、技師の目」について書きたいと思います。
広告制作でも、事業開発でも、まだ世の中に存在しないことを想像し、そのイメージを目に見えるものにしていくという点は同じです。一方で、広告としてつくる静止画や動画は、それ自体が「表現物」という最終アウトプットであるのに対して、わたしたちが事業開発に際してつくる静止画や動画は、これから築きたい未来の「設計図」になるものであり、最終アウトプットではない、という大きな違いがあります。
つまり、静止画・動画という形態は同じでも、制作目的がまったく異なるというわけです。
広告は人目を引くためにつくる静止画・動画でもあるので、びっくりするようなSF映像や現実離れしたファンタジーの世界を描くことも少なくありません。その一方で、事業開発を目的とした静止画や動画の制作においては、現実離れした映像をつくってもそれが実現できなければ意味がありません。
そこで、「商人の目、技師の目」が必要になるわけです。わたしが事業開発において未来の物語をつくるときは、まず未来の脚本を書きます。そして、その脚本に沿った世界観をデザインします。ここまでは、広告制作の方法と大きく変わりません。しかし、事業開発においては、静止画や動画を絵空事にしては意味がないので、事業として成立し得るかどうかを目利きする力が必要になります。
そのための1つの目が「商人の目」です。もちろん、これが100%的中すれば新規事業開発は苦労しませんが、プロが目利きをすることで、少しでもビジネスとして成立する確度を高めることはできます。quantumにおいては、ベンチャーアーキテクトというビジネス開発担当者がその役割を担います。
もう1つの目が「技師の目」です。ビジネスとして成立しそうなアイデアであっても、技術的に実現可能なものでなければ、事業を世に送り出すことができません。もちろん、技術的にもチャレンジすることは大切ですが、開発にかけられる期間やコストをある程度イメージしてから実際にできるかどうかを判断しなければなりません。ここでは、エンジニアの視点が頼りになります。
このように、事業開発における未来の物語(静止画・動画)を制作する際には、妄想をふくらませるクリエイティブな視点に加えて、リアリティを追求する厳しい視点を注ぐことが大切になると考えています。
広告クリエイティブと事業クリエイティブとの間には、もう1つの大きな違いがあるのですが、それについては次の記事で紹介したいと思います。
過去記事はこちらから↓
イラスト:小関友未 編集:木村俊介
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