イカの話
秋田から羽越本線に乗り、酒田という駅で唐突に下りた。
街なかを歩くのはつらい、かといってタクシーには乗れない。
タクシーに乗れない理由は目的地を持っていないからだった。
考えた末、駅前のレンタサイクルの店で電動自転車を借りて光が回り込み忍び込む間延びしたグレースケールのような写真の街を疾走した。
取りあえず目的地を酒田港と頭の中に入力した。
地図を見るのはめんどくさい。 太陽の位置と風の匂いと日本地図を頭の中に描きそのイメージで方向を定めて港を目指した。
酒田港で水揚げされるイカの看板が目に入る。
どうやら日本海でとれる新鮮なイカが名産らしいということがわかる。いったんイカが脳裏に入り込むともうイカなしではこの先の旅を続けられない気分に支配される。
生姜醤油で食べる捌きたてのイカ刺、 それさえあればもう何もいらないという気分になった。
過ぎゆく街並みがグレースケールからモノクロームになり、やがてイカの白だけが眩く光り出した。
イカと和解する時が来ていた。