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焦げ茶色の憂鬱
北海道のほぼど真ん中で道に迷った。美瑛から滝川経由旭川まで道路標識に従い車を走らせたのだが道が一本ずれたようだった。きちんと整備されたアスファルトの道。緩やかに登っているのを感じた。周囲はほぼ原野。路肩には雑草としてのラベンダーが計ったように行儀よく咲いていた。
Uターンする場所もなくただ進んだ。時折、対向側から来る車は威圧感漂う装甲車。
ナビを見ると自衛隊の施設と書いてある。なるほど。
ナビゲーションを道案内として使うのは便利だが地図として使うのは実に不自由だ。
自分の位置がわからないのと目指す街や施設との位置関係、距離感が頭の中に描けない。アニメーションの中を彷徨っている感覚になる。
欲しいのは1/4000縮尺程度の紙の地図。欲をかくと知らない場所への旅はできれば現地の友だちが書いた手書きの地図がいい。道に迷ったらその適当な地図、友だちのせいにすればいいからだ。
方向転換するスペースはなく、きっと次の曲がり角を左折すれば旭川方面に復活できるだろうと高をくくる。
道のアスファルトは一気に終わった。
その向こう側に重たい樹木に囲われた木々が林道を覆っている。緩やかに登っている。
その絵画のような薄暗いその道先からセダンの車が必要以上の速度で降りてきた。
ぼくは狭い側道に車を寄せその対向車を交わしたのだが、その運転手は窓をあけることなく両手でぼくにバツを示した。そして窓越しに何かを叫んだ。ぼくはその口の動きから全てを察した。
その車は風のように走り去る。ぼくの脈拍は自身に緊急事態を知らしめた。
追い打ちをかけるようにスマホの電波がないと言う事実もそれに拍車をかける。
狭い幅員。枯れ葉に埋もれた脇道。何度ハンドルを切り替えしたのだろうか。道の脇は大きな窪でありハンドル操作を誤ったら脱輪間違いなし。
ことなく方向転換したぼくはアスファルトの道を確認してから後ろを振り返ると先のカーブに生体と思われる焦げ茶色の塊を視認した。そして必要以上の速度でその林道への入り口からアスファルトの道を退避した。
広い道に戻ったときにさっきのセダンはどこへ行ったのだろう、何故にあの道から降りて来たのだろうか、と激しい念に駆られていた。あの車が来なければぼくは間違いなくあの林道に突入していたのだ。