子どもって、ホントに減ってるの?
最近、新聞やテレビでも少子化、少子化と耳にする事が多くなったと思いませんか?
今年の1月には政府も「異次元の少子化対策に取り組む」なんて事を言い出すくらいだから(でも、その割に、具体的に何をするのか、一向に見えて来ないけれど)、なんとなく「子ども、少なくなっているのだろうなぁ」とは思えても、その事を実感している方はそれ程多くないのではないか。
これまで、小児科医として主に小さく生まれてくる赤ちゃん達のために働いてきた。この仕事を選んだ頃、すでに「少子化」が問題になり始めていて、同級生や先輩たちから、小児科なんて将来性がない仕事をどうして選ぶのか、なんて随分と言われたものだ。
あれからまもなく40年。子どもが生まれてくる現場のそばにいると、今でもそこまで子どもの数が減っているなんて、チョット信じられないくらい、毎日赤ちゃんは生まれて来るのだが、それがここにきて、チョット様子が変わりつつある。コロナ禍の数年を経て、肌感覚と言うか、「子ども、減っているんじゃない?」と言う事がジワッと感じられる様になったのだ。
日本では今、1年間に何人くらいの赤ちゃんが生まれてくると思いますか?
記録に残る中で、日本の出生数が最も多かったのが1948年(昭和23年)の約270万人。太平洋戦争の終戦から2年ほどたった1947年から49年は、後に「第一次ベビーブーム」と言われるほど生まれた赤ちゃんが多かった。1950年以降、出生数は緩やかに減り始めたが、それでも1960年代の半ばまではおおむね毎年160万人以上の赤ちゃんが生まれていた。
そんな中、1966年( 昭和41年)に出生数は突然130万人台に減少する。この年は干支(えと。十干十二支)の巡りで言うところの「丙午(ひのえうま)」に当たっていた。60年毎に巡ってくる丙午の年には、その年生まれの女性の性格についての迷信から、昔から生まれる赤ちゃんの数が少ない事が知られている。それにしても、「迷信」の威力は想像以上に強く働くらしい。急減した出生数が翌年の1967年には190万人にまで回復しているのは驚きだ。その後も出生数は大きく変わらず推移して、1971年から1974年まで年間出生数は200万人以上を記録し、「第二次ベビーブーム」と言われる事となった(ちなみに、次の「丙午」の年は2026年。再び「迷信」の影響は現れるのかどうか……)。
しかし、1974年をピークにして、これ以降日本の出生数は一転して減り続け、やがて少子化と人口の減少が次第に現実味を帯び始める事となった。中には、第二次ベビーブームの時期に生まれた子ども達が結婚適齢期に達する2000年前後に、再び「第三次ベビーブーム」がやって来て少子化に歯止めがかかるのではないかと期待する声もあったが、それも虚しく空ぶりに終わり、むしろ少子化はスピードアップしはじめる。
2010年以降になると出生数の減少はさらに加速し、2016年に100万人を割り込むと、2019年には90万人を、そして2022年には80万人も割り込んで、ついに70万人台にまで落ち込んでしまい、どこまで減り続けるのかもはや予測もできないところまで来てしまった。
思い返せば、年間の出生数が100万人を割り込んだ2019年あたりから、赤ちゃんの数の減少が肌感覚として感じられ始めた様な気がする。
この様な数字の羅列を見ても、なかなか実感は湧かないかもしれないが、少し想像してみてほしい。
昨年生まれた赤ちゃんが77万人しかいなかったと言う事は、18年後の2040年に18歳を迎える人が77万人しかいない……と言う事。昭和3・40年代には、一学年8クラス、10クラスも珍しくなかった小中学校も、今や都会でも学校の統廃合が進んだ上に、1学年1クラスしかない、なんて光景が珍しくなくなっている。ここに来て、タクシー運転手が足りないとか、地方では運転手不足でバス路線が廃止されたり電車の運転本数が減らされた事が報じられている。これらの出来事は、いよいよ少子化の影響が日常生活にまで出始めた、と言う事だろう。
2030年代の半ば以降は、日本の総人口そのものも大きく減って行く事が予測されているが、これまでは単なる統計上の数字として新聞やテレビなどで見聞きするだけで実感の伴わないどこか「他人事」だった少子化が、今後は生活のあらゆるシーンで「人が足りなくなる」、「未曾有の人手不足」と言うカタチで実感される様になってゆくのだろう。
ここに来て国もにわかに慌てはじめた様だが、少子化の流れを振り返ると、どうやらこの事態を回避する事はかなり難しそう、と言うか、はっきり言ってもはや手遅れなんじゃないか。必要なのは政治家任せの「異次元の少子化対策」ではなく、すでにこの国の少子化が「異次元」レベルにあると認め、自分ごととして「じゃあ、どうするの?」を真剣に考える事だろう。
生まれてくる赤ちゃんの数から想像できる未来。
さて、皆さん、この現実をどう考えますか?
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