音楽レビュー：「くればいいのに」KREVA

　KREVAの「くればいいのに」は、私の学生時代、行きつけの某有名書店で、よく流れていた。

　その曲には、スピッツの草野正宗が参加している。

　私は、ラップには詳しくないのだが、草野さんの歌声によって、その曲は強く印象に残っていた。

　最近、スピッツの曲をよく聴いていたので、その一環でというか、久しぶりに「くればいいのに」もYouTubeで聴いてみた。

　あの頃の個人的な感覚と、その時代の空気とが、たちまちのうちに甦ってきた。むかしの音楽には、それらが付随されているものだな、と改めて思ったりした。

　それら、いわゆる思い出補正を除いても、かなりいい曲だと感ぜられた。

　草野さんの透明感のある声はもちろん、歌詞もすごく良い。歌詞の内容もさることながら、何かその文章の見た目すら美しいのだ。「いい楽曲の楽譜は見た目が美しい」と聞くけれど、それと同じことなのではないだろうか。

　KREVAさんのパートと、草野さんのパートとの対比が格好良かった。すごくメリハリが効いていて。

　YouTubeで、ミスチルの桜井和寿が「くればいいのに」を歌っている動画を見つけたので、そちらも聴いてみた。

　ap bankとKREVAさんとのコラボだった。桜井さんが、草野さんのパートを歌うというものだ。

　初めは違和感があった。というのは、自分のなかで、草野さんの印象があまりに強過ぎたためだろう。

　が、もう一度聴き返してみたら、不覚にも号泣してしまった。自分でもびっくりするくらいに。桜井さんの歌声が理由だった。

　桜井さんの歌声は、喩えがアレだけれど、スルメみたいなものだなと思った。聴き込めば聴き込むほど、味わいが出てくるのだ。

　今更みたいだけれど、「桜井さんの声は変わったよなぁ」とも思った。そのきっかけは、今の奥さんとの結婚だったのだろう。

　草野さんの哀愁のある声も好きだけど、桜井さんの少年のような声もまた好きだ。草野さんの歌声は、メディアに録音された曲のように、完成されたものに合っていて、桜井さんの歌声は、ライブなどの即興性のあるものに合っているなとも感ぜられた。

　しかし一方で、「くればいいのに」は、やはり桜井さんのための曲ではないな、とも思った。これは草野さんのための曲なのだと。