死にたがりの君に贈る物語

読了して本を閉じた後に真っ先に感じたのは「安堵感」だった。
それは出版業界冬の時代の今でも「物語が人の心を動かす力、人の志を動かす力」がいささかも衰えてはいない事への、である。
古来から物語というのは、人の心の琴線に触れ、ある時は活性した生への導きになり、ある時は前進への原動力となり、またある時は生を終わらせる程の力にもなり得るものであった。
が、いつしかその力を得る対象は書籍に綴られる物語ではなく、映像という、より自分自身が想像力を働かせる必要のない媒体に取って代わられ、書籍は衰退の一途を辿ると言われるようになった。

しかし、諸君、見てみたまえ。
この作品の力強い事を。
むしろ作中に登場する人間たちの「脆さ」ばかりが印象に残るではないか。
作者は我々読者に「物語を信じよ、物語に抱いた夢を信じよ」と語りかけてくる。
それは作中の作品「swallowtale waltz」が読者の生き死ににまで影響し、果てはその作者自身の人生をも揺り動かす姿からも受け取られる。

かつて一日が過ぎるのも忘れて読み耽った作品があった。
あまりの感動に、布団を被って嗚咽を漏らした作品があった。
胸の奥が「ツン」と痛くなる切ない思いに打ち震えた作品があった。
文章にこれらの力がある事を、物語の世界で描き切った「死にたがりの君に贈る物語」。
久々に幸せな出会いをさせて頂いた。
感謝である。

#読書の秋2021  
#死にたがりの君に贈る物語

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