建築・都市学生が考える”アーバニスト”とは?2024
1.この文章の背景
古巣(前職)の芝浦工業大学での年一回の講義も3回目。「都市計画概論」という大層なタイトルの講義、最初のコマが僕の様な亜流(?)で良いのだろうかと悩みつつも、教員であった訳でもなく(変なポジションの職員でした)、現在は都市プランナーとも言い難い(でも都市計画家のNPO理事でもある)僕に貴重な機会を与えていただいていることには感謝しかなく、ちょっと昔の話だが都市のプランニングで学んだこと、大学コーディネーターとしての経験、シティラボ東京/アーバニストとして現在の思いなどを交えて話をさせていただいている。
この講義の主な対象は「建築・都市計画」を専攻する修士1年生。毎回、下記3つの設問を設定し、受講後に提出してもらっている。今年は約40名の受講生、中には1問に対して複数のアイデアを書いてくる学生、図を入れたり長文で詳細を書いてくれたりする学生も…。
あなたが地域デザインに興味を持ったきっかけはなんですか?できるだけ個人的な体験から教えてください
これからの地域デザインにとって大事だと思うことはなんでしょう?その理由、望ましい方向性などについて教えてください
あなたがイメージする“アーバニスト”(になる可能性がありそう)な人、組織などについてアイデアをください
決して「ビッグ」なデータではないのだが、統計とは異なる価値のある情報だと思うので(とはいえ個人情報もあるので抽象化はしているが)、シェアしておきたい。なお、昨年度の成果については過去noteに整理してある。
2.建築・都市学生が考える”アーバニスト”とは?2024
①地域デザイン興味きっかけ
昨年と大きく傾向が異なる訳ではないのだが、地元での生活や親族の影響といった日常生活に関わる個人的経験、旅に代表される非日常的な個人的経験がやはり多い。地元での体験に関しては、再開発で街並みが変わってしまった寂しさを感じる人も居れば、便利になった、きれいになったというポジティブな思い出がきっかけになっている人も居る。
旅については、幼少時から親に色々なところに連れてもらったといううらやましい環境もあるが、初めて一人旅をした時の経験も大きいようだ。
あと、回答者属性によるところも多いが、大学の講義や演習で地域と触れた体験、大学ではないがボランティアや学生サークルなど課外活動も貴重な体験となっていることが感じられる。
②地域デザインこれから大事なこと
地域コミュニティを重要視する、その手段としてのエリアマネジメント、官民連携、地域性の発見、地域のコーディネート…など、地域デザインを学ぶ学生としては至極真っ当な答えが多くを占める。その裏側には、背景にコロナ禍や資本主義的な開発によって都市の均質化が進んでいるという問題意識もあるようだ。
また、昨年度よりサステナビリティに関する記述が多かったことも印象的(ここは、僕の講義で色々と連呼していた影響もあるかもしれない…)。
ちょっと興味深かったのは「さまざまな機能を取り入れつつむやみに混同させない計画」という回答があったこと。ちょうどパターン・ランゲージに関する本を読んでいる中で参考になりそうな言葉(※)があった。多義性を内包しながらもシンプルな計画、よいプランナーになってほしい。
③あなたの考える”アーバニスト”
今年度は41の意見を収集・整理。赤字になっている箇所は昨年度と比べて「ちょっと新しいかも」と思ったカテゴリー。黒字の中にも貴重な意見はあるので、全体像を掴みたい方は(昨年noteも含めて)眺めていただければ幸い。
▼公務員
今年度の回答では「地域起こし協力隊」という回答が挙げられた。自分の専門分野やバックグラウンドをふまえた問題意識や課題解決能力を持ち自発的に地域へ貢献する態度、また、直接ハードなまちづくりを行わなくても、新たな店舗や雇用を創出することで地域の産業の担い手、にぎわいづくりに貢献するという内容であった。
公務員は、本来的には全員アーバニストであってほしいと思うところであるが、やはり組織や公平性の中で「個人」が見えづらい状況があり、自治体の中でも専門職・特別ミッションを持つ地域おこし協力隊は、確かに公務員アーバニストの最前線としてわかりやすく認識されているのだろう。
そういえば、僕の職場(シティラボ東京)では最近自治体パートナーが増えているのだが、実際の窓口は「東京事務所」であるケースが多い。彼らも(自治体により多少役割は異なるとはいえ)、自治体の尖兵としてキャラが立っている人たちが多いように見える。ちなみに、昨年は警察官や消防士、小学校の先生などが挙げられた。
▼生活者/生活者以外
生活者がアーバニストとしてのポテンシャルを持つことは言わずもがなで、当然ながら今回も最も多くの回答が挙げられた。その中でもちょっと新しかった回答として下記2点。
「マイノリティ」という視点が初めて挙げられた。具体的には、パキスタン人ムスリムの妻となった日本人の女性がイメージされていた。日本の中でムスリムが少数派である上に、実はムスリムの中でも女性はモスクに足を運びづらい風潮があり、それが結果としてムスリム女性の社会的な孤立につながっているらしい。この女性は、モスク建設やモスクを利用した勉強会などを通して、その状況に一石を投じているとのこと。文化的多様性、社会的包摂といった現代的なイシューだし、様々な
「マイノリティ」の視点から都市を考える必要性を示唆する、横展開の可能性を持つ視点だ。
上記と少し重なるところもあるのかもしれないが、地域住民とは異なる視点で物事を見ることができるという点で、観光客や移住者など「生活者以外」にアーバニストとしてのポテンシャルを見る意見もあった。確かに、都市は必ずしも居住者だけのものではない。特に都心部では重要な視点だろう。
▼都市専門家
まちづくりに関わることによって禄を食んでいる人であり、このジャンルがアーバニストでないと、都市としては未来がない(…のだが、都市プランナーだけどアーバニストではない人…ってのも居そうだよね)。今さらここで取り上げる必要もないかとも思うが、ちょっと気になったカテゴリーを少し紹介。
エリアマネジメント団体やプレイスメイキング集団など「エリマネ」に関わる職業カテゴリーについては、実は、今年度に初めて挙げられた。都心部・大資本だけでないエリマネが一般化してきている裏返しだろうか?
また、道路や橋梁など各種インフラを設計する主に土木の「エンジニア」が挙げられたことも考えさせられる。そう、なんとなく生活者やデザイナー、なんならプランナーとも対峙させてしまうことが多いエンジニアだが、近代土木遺産などを見てもわかるように、デザインマインドを持ったエンジニアがまちの景観に与える影響は大きい。近年だと、構造物のデザインや建設時だけでなくメンテナンス活動も通したシビックプライド醸成などの事例もある(出島表門橋「はしふき」ほか)。
▼パフォーマー
アーティストやクリエイターとしてのアーバニストは、地域の魅力を独自の視線から再発見・再編集したり、それをわかりやすく市民に伝えるという点で貴重。昨年度も挙げられたし、書籍『アーバニスト』でも1章を割いている。
今年新たに挙げられたのは、なんとバンドの「くるり」が主催を行う京都音楽博覧会での「資源が“くるり”プロジェクト」。単に地域を盛り上げるだけでなく、コンポストによるフードロスの堆肥化や古着回収など、地域サーキュラーエコノミー化の先鞭を切るものとなっている(アドバイザーはその道の第一人者、安居昭博さん)。
そういえば20代の頃、なんとなく「まちづくりアイドル」ってできないかなと考えたことがあり、当時はそのイメージが明確にあったわけでもないのだが…、こういうことだったのかもしれない。
▼ビジネス
アーバニスト的には、「生活」と並ぶ暮らしの大きな柱である「働く」という行為を、いかに都市に結び付けられるかが大きなテーマとなる。当然ながら、地域の日常生活を支える飲食店、小売店をはじめとした「地域サービス」は重要な担い手で、生活者と並び多数が挙げられるカテゴリー。昨年度に「おっ」と思ったのは、インフルエンサーのような「情報サービス」分野で、こちらは前述のパフォーマーとも重複するところがあるのだが、もう少し個人事業主というか、ネット社会前提というか、まぁ一言で言うならばYouTuberが代表例。
今年度、新たなカテゴリーとして挙げられたのは、「リゾート産業」、「創業支援サービス」、「コミュニティ運営」といったところだろうか。リゾート産業は、地域の文化や歴史の体験を提供するだけでなく、星野リゾート(長門湯本温泉)の様に観光まちづくり計画まで展開している例がある。創業支援サービスについても、シェアキッチンや物件仲介などを通したローカルビジネスの支援は「アーバニストを増やすアーバニスト」という中間支援組織的な立ち位置が興味深い。
中間支援組織といえば、コミュニティ運営が挙げられたのも今年度の特色。一つは古民家改修や里山づくりを通した地方型のコモンズ(鴨川市・小さな地球)。もう一つは、自分の活動で気恥ずかしいが(決して回答を誘導した訳ではありません)、都心部でまちづくり×サステナビリティ×ビジネスを考える共創拠点(シティラボ東京)。中間支援の体制や活動が充実するということは、アーバニズムが経済・文化的に定着してきた一つの指標…になるかもしれない。
最後に、シティラボ東京でも着目している「スタートアップ(ベンチャー)企業」。もちろん、従来型企業の変革も大事なのだが、尖った新しいビジネスが生まれることによる社会的インパクトは、単に企業の規模を超えた価値があるのではないかと思っている。
今回嬉しかったのは、地域の課題解決と経済価値を両立する「ローカルベンチャー」に加え、環境やSDGsに関する問題に取り組んでいるベンチャー企業が、今後の地域デザインで大きな課題となる環境問題に対し、新たな視点と具体的な解決策を提供してくれるのではないかという期待も挙げられたこと。特に、後者の様な視点が「建築・都市計画」を専攻する学生から提示されたこと、ある意味で自分たちの専攻の枠を自ら壊しながら新しいアーバニズムを切り開いていこうというマインドを感じられたことが、なんとも言えず頼もしい。
以上、昨年度に引き続き2回目となる「建築・都市学生が考える"アーバニスト"とは?」の備忘メモでした。累計サンプル数は計80名程度、専攻が限られているというデータ上の制約はあるものの、毎回新鮮な発見をもらい、ついつい回答を読みいってしまう(仕事が回らない…)。