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異国の地で招き猫になった話 〜アメリカライブツアー5日目(余談多め)〜

2024年11月11日。
12時頃に目をさます。この日は完全オフだ。

今日はのんびりするのかなと思いきや、みんなでどこかに出かけるらしく、結構慌ただしく身支度をする。

まさか急遽ライブが決まったとか?個人的には1日何本やってもいいけど(ベースの調子だけが心配)。

メンバー4人とツアーマネージャーのデービットとロバートで12時40分くらいに出発。車に揺られること20分、着いたのは大きくて高級そうな建物だった。

ここは「Chama Gaúcha」というブラジル料理を提供するステーキハウスらしい。中に入ると、男性が1人待っていた。

デービットとロバートが男性と挨拶を交わす。男性は2日目に急遽演奏を頼まれたライブハウス「Jandros Garden Patio」のオーナーさんで、急な出演オファーに応えてくれたお礼に食事をご馳走してくれるらしい。詳しい経緯は2日目の記事に書いてあります。

中に入ると丸テーブルに案内される。店はほぼ満席で人気店のようだ。

ウエイターさんが白い飲み物を注いでくれる。初めは「牛乳?」と思ったけど、飲んでみたらラッシーだった。

たぶんカクテルなんかによく使われるんだろうけど、お酒が飲めないので存在は知っていても飲んだことは一度もなかった。

夏の部活帰りに買ったヨーグルトジュースみたいな味で、懐かしさと美味しさにちょっと和んだ。

「Chama Gaúcha」。後で調べたらブラジル料理の高級店らしい。

高級わんこ肉に大いに満たされる

続いてウエイターさんが店の仕組みを説明する。何を喋っているかはわからないけど、高級店らしい所作なのでイメージで言葉遣いも丁寧な印象を受ける。

自分の言語能力レベルで要約すると…
・サラダ食い放題!
・メインは肉!
・手元の札が緑色の時は果てしなく肉を出すぞ!
・もういらない時は札を裏返せ!
ということらしい。

早速、サラダバーに野菜を取りに行く。この旅の間、野菜はハンバーガーの中に入っているものを食べたくらいだった。

スーパーに行けばお惣菜コーナーにサラダはあるけど量が多い。日本だったら4〜5人前くらいな大きさで、とても食べ切る自信がなかったのでずっと買わずにいた。

探せばちょうど良いサイズもあったのかもしれないけど、英語を喋れないアジア人が店内をぶらつく時の不安は意外とエグい。やっと適量の野菜が食べられて嬉しい。

サラダバーから戻ると、早速ウエイターさんが鋭利な刃物に刺さった鈍器のような肉の塊を持ってくる。「食べますか?」と訊かれるのでお願いすると、適量を削いでお皿に盛ってくれる。

いろんなウエイターさんが取っ替え引っ替えいろんな肉を持ってくる。結構高級そう。そしてシンプルに旨い。白ごはんがほしくなるけど、炭水化物はパンだけだった。

ただ、お皿に乗っている肉の量に関係なく「お肉いかがすか?」とひっきりなしにウエイターさんがやってくる。

食べても食べてもやってくる。

「いらん」と言ってもやってくる。

牛とか羊とかの種類や肉の部位によって、それぞれ担当者がいるんじゃないかってくらいやってくる。わんこそばならぬわんこ肉。

そうだ、いらないなら札を裏返すんだった。急いで手元にある札をひっくり返すと、肉攻めは終わった。

とてもとても美味しくて満たされた。本当にありがとう。ごちそうさまでした。

おごってくれたオーナーさんにお礼を言うと、メダルを1枚くれた。メダルには店の看板にもある鹿の絵が描かれていた。店の名刺代わりのようなものらしい。

気軽に人に配るものにしては重厚感があり高級そうなメダルだった。旅のお土産がやっと一つできて嬉しかった。

黒の帽子をかぶっているのが、ご馳走してくれたライブハウスのオーナーさん。ありがとうございました。
この札で肉がほしいか、もういらないかをアピールする。

アメリカでも発動された「招き猫体質」

店を出てオーナーさんと別れると、そのまま家に戻ってダラダラする。わんこ肉を消化しようと思い、一人で散歩に行くことにした。

外に出ると、11月も中旬に差し掛かるというのに暑い。夕方だけど28℃くらいあって、Tシャツ1枚で十分なくらいだ。でも、カラッとしていて過ごしやすいし、茜空の色もなかなかいい感じ。

特に行ってみたい場所はないけど、コンビニには寄っておこうと思ったので、地図アプリで検索。「サークルK」が1kmくらい先にあるみたいだ。日本にもあったけど、今はどこかと統合されちゃったんだっけ?

サークルKを目指してダラダラ歩くと、通り過ぎる車の運転手のほとんどが自分をガン見する。そりゃ目立つよな、こんな住宅街にアジア人がトボトボ歩いてたら。

途中に高校らしき建物があって、グラウンドでアメフトをやっている。スコアボードらしき大きな電光掲示板も見えたので、強豪校なのかなと思った。ちなみに自分は学生時代、野球部だった。ただ所属していただけで、特筆すべきエピソードは何もないけど。

交差点で信号待ちをしている時も全方向から視線を浴びる。さすがにここまでジロジロ見られると、そのうち連れ去られるんじゃないかと心配になる。

家を出て15分、お目当てのサークルKを見つけた。ガソリンスタンドが併設されているけど、車は1台も停まっていない。お店自体も日本のコンビニをちょっと小さくしたくらいの小ぢんまりとしたサイズだ。

心なしか薄暗いし、中の様子も見えないので営業しているのか不安だったけど、店に入るとおじいさんがレジにいた。開いててよかった。

お客さんは誰もいなかったけど、商品を選んでいる間にどんどん人が入ってきて、レジに並んだら自分は6人目だった。しかも、アメリカ名物・お客さんとのおしゃべりもあり、レジはなかなか進まない。

余談だけど、日本には「招き猫体質」という迷信がある。空いている店にこの体質の人が入ると、その店にどんどんお客さんが入ってきて混雑し出すという現象だ。海外にこのジンクスがあるのかどうかは知らないけど。

実はこのジンクスに取り憑かれているのが自分。

空いている店に入ると高確率(体感としては8割くらい)で混む。ひどい時は駅のトイレの小の方でさえ並び出す。

いろんなアーティストやバンドをサポートしてきたけど、リハーサルの合間に行った飲食店や打ち上げで行った居酒屋などで、この現象を目の当たりにした関係者は少なからずいる。そしてちょっと気味悪がられる。

ランチタイムも終わってお客さんゼロの牛丼屋とかラーメン屋に1人で入ったら、後からお客さんが10人以上入ってきて「今日はどうなってんだ!?」「やばいやばい!」「〇〇さんごめん!休憩やめてこっち入って!」と厨房からスタッフの悲鳴が聞こえることもザラだ。

どうやらこのジンクスがアメリカでも発動したらしい。その後も客足が絶えない。外に目をやると給油レーンも満車だった。

学校らしきグラウンドでアメフトをやっていた。
散歩の道中、行き交う車の運転手全員に見られる。

(ちょっと脱線)子供の霊に間違えられた幼少期のお話

このジンクスは子供の頃からあって、最初に発見したのは、当時住んでいた家の近所にあったスナックのママさんだ。

どうして気がついたのか、きっかけまでは知らない。ただ「今日は全然客が来ないな〜」と渋い客足に困ると我が家に来て、自分を店に連れて行く。そこでメロンソーダをご馳走になりながら、ふかふか過ぎてバランスの取りづらい椅子にちょこんと座るのがお決まりのパターンだ。

10分くらいすると昭和のサラリーマンたちがどんどん店に入ってくる。その景色は今でも鮮明に覚えている。5歳から7歳くらいの頃の話だ。ネオン街に単身で出入りする5歳児。今なら大問題だ。

ママさんも接客をしなきゃいけないから、連れてきた近所の子供のことなんて放置。こちらも邪魔しちゃいけない世界らしいという自覚は子供ながらにあったので、誰とも喋らないしぐずることもしない。ただ座っているだけだ。

大人たちのカラオケを2時間くらい聴いて、店が落ち着いたり売上の目処が立つとお小遣いをもらって解放される。経緯を知っている常連のおじさんからお小遣いをもらうこともあった。

ただ、これのせいか子供の頃から夜更かしに慣れてしまい、大人になった今でも寝付きは良くない。背も伸びなかった。

その後、自分がその街から引っ越してまもなく、ママは店を畳んだそうだ。だいぶ後になって聞いたら「あの店には子供の霊がいる」と噂になっていたらしい。

事情を知っている常連さんもいたわけだから、そんなわけはないと思うけど、もしも出入りしている子供の自分を元ネタに、近隣の同業者が意地悪な噂をでっち上げていたんだとしたら、本当に申し訳ない。

そして、この現象は今でも続いているが、例えば知り合いの店に行って、相手もそのジンクスを期待していると効果は発揮されない。大人になってからは、利害関係があるとダメになってきたようだ。

だから、サポートするアーティストの動員にも貢献はできない。あくまでフラットな気持ちでフラッと入った場所で起きる現象。

もっとも、こっちは普通にお金を払うので、メロンソーダをタダで飲めたこと以外に得をしたことは一度もない。せっかく空いていると思って入店しても、結局人が多くなってしまうので、むしろ落ち着かない。

頼んだものが来ないとか、店員さんがテンパってミスをしたり、他のお客さんの機嫌が悪くなったりクレームが起きたり…なんてこともあって、それが自分のせいかもと思うこともあるので、正直この現象は好きじゃない。

おしゃれなビアガーデンと、人の優しさに酔いしれる

話を戻す。
散歩から戻った後も、家の中やテラスでダラダラしたり、ネットを見たりして過ごす。結局お腹は空かず、この日の夕飯はなし。ツアーマネージャーのデービットとロバートは、地元で行われるNBAの試合を観るために出かけてしまった。

夜10時過ぎくらいに彼らが帰ってくると「みんなで散歩に出かけよう」と言う。機嫌が良いからひいきのチームが勝ったのかもしれない。

外に出ると全然寒くないし、夜風も気持ちが良い。一人歩きは場所によっては危ないらしいが、地元を知り尽くしたツアーマネージャーの2人がいるから安心だ。ただ、アメリカ人は歩幅が大きいのか、歩くのが速い。

街を南北に割るように流れるサンアントニオ川に差し掛かり、川沿いの遊歩道をみんなで歩く。川はところどころライトアップされていて、とてもおしゃれな雰囲気だ。犬の散歩やウォーキングをしている人もいた。

サンアントニオ川沿いの遊歩道。

川沿いをしばらく進むと、お祭り会場のような明るいエリアに入った。中に入るとそこはビアガーデンだった。

花と緑のデコレーションが綺麗で、テーブルとベンチだけでなく、ブランコやハンモックもある。ハンモックの近くでは若い男女のアメリカ人たちがおしゃべりをしながら飲んでいる。時折ハンモックに身を預けては、バランスが保てずにキャッキャしているのが微笑ましい。

川沿いのおしゃれなビアガーデン。
花と緑がキュートな店内。

ビアガーデンには猫が一匹いた。ちょっと絡んだり写真を撮っていたら店員さんが来て名前を教えてくれたので、通りすがりの野良猫ではなくマスコット的存在なんだろう(名前は忘れた)。

マネージャーたちやメンバーさんは先にオーダーを済ませて提供されるのをレジで待っていた。猫と戯れて遅れをとっていた自分は、列の後ろで一人で待機。前にはビル・ゲイツをさらに縦長にした感じのスマートな男性が並んでいる。

すると「彼らは君の仲間だろ?先に並びなよ!」とビル・ゲイツが順番を譲ってくれた。今のところ、どの街に行ってもアメリカ人は本当に気さくで優しい。

お礼を言って「どこから来たの?」「日本だよ」みたいな会話をちょっとしたら順番が来た。メニューがとても豊富で何を選べば良いか迷ったので、メンバーさんと同じものをオーダーした。

お酒が飲めない自分にはちょっと刺激が強めのクラフトビールだったけど、味は美味しかった。後半、手足がジンジンしたけど飲み切れた。

ビアガーデンのマスコット猫。
くつろぐメンバーさんとコーディネーター。

閉店間際の0時頃までまったりして、みんなでおしゃべりしながら家に戻る。0時半頃に着いて、横になったらそのまま眠ってしまった。お酒が効いたのもあるけど、だんだんこの街にも慣れてきたんだろう。

明日からはまた毎日ライブだ。

<続く>

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