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それがあなたを幸せにするなら 〜アメリカライブツアー2日目〜
2024年11月8日。
激動のアメリカツアー1日目がなんとか終わり、安堵感と時差ボケのせいで起床は16時。たぶん10時間くらいは寝ていた。
今日のライブは前日に続いて州都オースティン。距離にして100kmほどだ。身支度をして17時30分頃にサンアントニオを出発する。
帰宅ラッシュの時間ということもあって、高速道路はかなりの交通量。ちなみにアメリカの高速道路のほとんどが無料なのは、こっちに来てから初めて知った。だからフリーウェイって言うのね。
その代わり、ガソリンにかかる税金が日本よりもかなり高い。その税金を財源に高速道路の保守などに充てているらしい。
道を進むにつれて交通量は徐々に減り、途中休憩なども挟んで20時頃にオースティンのBUDAという街に到着。今日は「Meridian」というコーヒーショップ兼ライブバーでの演奏だ。
建物は結構広く天井も高い。中はバースペースと雑貨屋スペースに分けられていて、内装もとても綺麗だった。
自分たちの前に演奏するバンドがセッティングをしていて、楽屋などはないので楽器類はいったん車に入れたままにして、店内でまったりする。
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テキサスの夜によみがえる「箱バン」の記憶
程なくツアーマネージャー2人に呼ばれ「隣の店の裏で弾き語りをやっているから観に行こう」というので、みんなで外に出て隣の店の裏に行った。
隣にはこじんまりとしたバーあって、その建物の裏の外にアコースティックライブくらいならできそうな小さめのステージがあった。テーブルと椅子が置いてあって、それもまたオシャレだった。
ステージでは20代〜30代前半くらいの女性が一人で弾き語りをしていた。知っている曲もあれば知らない曲もあったけど、どうやら基本的にはカバー曲を歌っているみたいだ。もしかしたらそこに専属でレギュラー出演している歌い手さんかもしれない。
今はほとんどなくなったかもしれないけど、昔は日本でも専属のバンドが常駐しているミュージックバーのようなお店があった。お客さんが歌いたくなると、バンド(通称:箱バン)がリクエストに応えて生演奏するシステムだ。
そういう店で演奏しているベーシストの知り合いがいて、20年くらい前にちょくちょく代打で演奏しに行ったことがあったのを思い出した。知っている曲ならともかく、知らない曲を演奏するのは大変だったな。
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「気さく」という名の警戒?
自分たちが店の裏にいることに気がついたバーの店員さんがやってきて「何か頼む?」と訊いてくれたので、少し肌寒かったこともありホットコーヒーを注文した。
「今日は冷えるもんね〜」っぽいことを言われたので、隣の店で演奏することを告げると「じゃあ指を冷やすわけにはいかないね!」と気遣ってくれた。
まだアメリカ2日目だけど、この国で何かを買うたびにほぼ会話のキャッチボールが何往復かある。それも「袋は要りますか」とか「あたためますか」なんてレベルじゃない普通のおしゃべり。その気さくな感じになかなか慣れない。
曲が終わると、歌い手の女性がステージ上から「あなたたちはどこから来たの?」的な感じで話しかけてきた。
ツアーマネージャーが「オレたちが連れてきた日本のバンドだよ。この後、隣で演奏するんだ」みたいなことを言うと、「じゃあ後で見に行くね!」と言ってくれた。やっぱりこの国は気さくにも程がある。ある意味、警戒の裏返しかもしれないけど。
その後もビートルズとかマイケル・ジャクソンとか、色んなアーティストの曲を弾き語りしていくが、自分たちが演奏する場所の音響が気になったこともあり、少しその場を離れて隣の店に戻った。
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この旅2度目の「え、今日やるの?」
こちらの店では黒人の女性がそれはそれはソウルフルな声で歌っていた。バンド編成は、ボーカル、ギター、ベース、キーボード兼サックス、ドラムの5人編成。こちらもカバー曲が中心のようで、ギターがリチャード・ギアみたいなイケオジだったのが印象的だった。
曲によってはお客さんが席を立って踊り出す。ライブを一緒に見ている奥さんを旦那さんがエスコートして、まさに「Shall we dance?」。こんなシーンは映画でしか見たことがない。音楽に対する感性が日本人とは遺伝子レベルで違うのかもしれないと思った。
そんな光景を見ながら演奏を聴いたり、音響などを確認したり、また外に出てぼんやりしていると、ツアーマネージャーがやってきてこう言った。
「サンアントニオの知り合いのライブハウスで出演バンドがキャンセルになったらしい。ここでのライブが終わったらすぐにサンアントニオに帰って、もう1本ライブするぞ」
昨日に引き続き、「え、今日やるの?」が発動された。
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それがあなたを幸せにするなら
程なくして、そろそろ準備をすると言うので車に楽器を取りに行くと、さっきの弾き語りのお姉さんがシェリル・クロウの「If it makes you happy」を歌っているのが聴こえた。ちなみにこれは自分の中でもトップクラスに好きな曲。最初から聴けなかったことを少し悔やんだ。
イケオジ率いるソウルフルなバンドのステージが終わったのは22時頃。早速準備を始めて、22時30分頃にjohannのライブが始まった。日本的なライブハウスと違って、客層がロック好きな感じではあまりなさそうだと判断して、セットリストは比較的わかりやすいメロディアスな曲を並べることになった。
お客さんも初めは急に現れた日本人バンドに驚いた様子だったけど、だんだんお客さんもノッてきて体が動く人が増えていく様子がわかった。ステージ横が店の出入り口だから、始める前は「帰ってしまう人を横目に演奏するのはちょっとさみしいかも…」なんて思っていたけど、ほとんどの人が最後まで見てくれていたと思う。
演奏時間は30分〜40分。ライブが終わった後も物販が賑わっていたので、手応えは悪くなかったみたいだ。弾き語りのお姉さんもライブを見てくれていたようで、「awesome」と「amazing」だけはわかったので褒めてくれたんだろう。せっかくそんな風に言ってくれているんだから、こちらも気さくとまではいかないまでも、それがあなたを幸せにするなら(If it makes you happy)と思って「シェリル・クロウがもっと聴きたかった」と伝えると喜んでくれた。これで警戒は解けたはず。
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情熱が手を組む音が聴こえた瞬間
物販が落ち着いたので急いで片付けと搬出を済ませて、すぐサンアントニオに戻る。時刻は23時50分。急いで戻ったとしても着くのはまあまあの深夜だけど。
途中で事故があり、2台の車がそれぞれかなり離れた場所で大破して横たわっていた。猛スピードでぶつかった分、飛距離が出たんだろう。アメリカは事故り方もダイナミックだ。
サンアントニオのライブハウス「Jandros Garden Patio」に着いたのは午前1時頃。この店の周りには似たようなライブハウスやバーが密集していて、色んな音楽がこのエリア全体に響き渡っている。防音対策をしっかりする日本のライブハウスではあり得ない光景だ。
挨拶もそこそこにすぐにセッティングが始まる。お客さんはまあまあいるけど、ライブがないとあまりお客さんが入らないのか、ややまばらな印象。
でも、マネージャーの2人もたくさんライブをさせたいと思っているはずだし、こちらも来たからにはできるだけたくさん人前に立ちたい。人がたくさんいるに越したことはないけど、それ以上に大切なのが、このツアーに臨む双方の情熱。それがガッチリ手を組んだ音が、この日のこの場所で聴こえた気がした。
どんなプロジェクトも、そこにいる人たち全員の熱量の共有っていうのは大切なんだなと改めて思う。この熱量に差が出た時に、メンバー脱退のお知らせなんて情報がタイムラインに流れるんだろう。もちろん、個々の人生の事情もあるから、よっぽどのトラブルでもない限り、それが悪いことだとは思わない。また違う場所に熱量が移るだけ。まさに熱伝導。
このツアーでは立場的にはサポートミュージシャンだけど、その熱量を維持・上昇するための立ち居振る舞いもまたサポートの一環。低い音を出すだけでいいなら打ち込みを使えばいいんだから。自分の演奏がメンバーさんやコーディネーターを幸せにするなら。これもまた「If it makes you happy」だ。
ちなみに、このライブハウスにはベースアンプがないらしく、車に積んであるアンプを引っ張り出す時間もないので、DIだけでPAに直接つないでその音を返してもらって演奏することにした。これもまた熱量のなせる技。これを書いている今もこの経験は印象的で、環境に動じないマインドと学びを得たと思っている。
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バンドも店も攻める攻める
店の営業時間が午前2時までらしいので、20分ほどでセッティングを終わらせて、そのままパフォーマンスに突入する。急遽決まったライブということもあり、やっぱり初めはお客さんの「なんだなんだ!?」感がある。
さっきやったお店と違い、ロック色のあるお店ということもあり、セットリストは結構攻めた感じ。心なしかボリュームもこっちの方が大きいような気がする。
それもそのはず、お店としてはなんとかお客さんを呼びたいから、店の扉は開けっ放し。「ウチで今、バンドが演奏してるんだぞ!」ということを外にいる人たちにアピールしたいようだ。バンドに負けじと店も攻める攻める(笑)。
確かに演奏を始めると、少しずつ人が入ってきて様子を見ている。決して大人数ではないけど、入ってきた人たちは好意的で最後までいてくれたように見えた。
2時前くらいにライブが終わると、メンバーさんが急いで物販を並べてお客さん対応。楽器のセッティングで手一杯だったもんね。急な出演にも関わらず、結構売れたようで良かった。
お店のオーナーらしき人も喜んでくれていたし、PAさんにベースの音の様子を訊いたら「足元でしっかり音がつくってあったから操作しやすかったよ」と言ってくれた。ノイズも今のところ大丈夫そうで良かった。
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噂に聞いていたハンバーガーとの出会い
3時前くらいにお店を出て、近くにあるハンバーガーチェーン店「WHATABUGER(ワタバーガー)」で遅い夕飯。アメリカ南部ではかなりのシェアを持つ大手ハンバーガーチェーンらしく、アメリカツアーをしたミュージシャン仲間からもかなり強めにオススメされていた。ファストフードは結構好きなので抵抗なく食べられたし、味も好み。もう何回かお世話になりたい。
4時過ぎくらいに旅の拠点に戻って、ダラダラしたりシャワー浴びたり、翌日の準備をして6時くらいに寝る。
2日目にして得たものは大きかった。明日以降もきっとワチャワチャするだろうけど、よっぽどイカれた事情じゃない限り、前向きな経験になればいいなと思う。
<続く>
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