音楽は銃よりも強し? 〜アメリカライブツアー7日目〜
2024年11月13日。
朝8時に目がさめる。目まぐるしくシーンが変わる面白い夢を見たので、忘れないうちにスマホのメモ帳に打ちまくる。クレイジーすぎるメモで人には見せられない。
昨日から泊まっているこの家、どうやら裏庭があるようなのでちょっと外に出てみる。広々としたウッドデッキにテーブルと椅子が置いてある。シンプルに素敵でうらやましい。
今日はここオースティンから西へ約1000km先のエルパソという街までの大移動。泊めてくれた友達にお礼を言って9時には出発した。
出発してすぐガソリンスタンドで燃料を入れたり、ドーナツショップで朝ごはんを買って長距離移動に備える。ドーナツはミスドにもありそうなものだったけど美味しかった。なお、Googleの口コミは4.6。納得。
車の中ではPodcastが流れている。内容はわからないけど単語の節々から察するに政治的な話っぽい。でも、10秒に1回くらいはFワードが聞こえる。女性の出演者も結構平気で使っている。
日本人にはわからない境界とか許容範囲みたいなのがあるんだろう。だって、気がついたら道もこんなに真っ直ぐで広くなってるし、時々両脇に現れる岩山も大きいのか小さいのか認識できないくらい視覚がバグってるから。
自分の尺度だけで物事を感じるのではなく、そのスケール感や人の寛容さをひたすら受け止めようと思う。そのくせ食べ物の文句ばっかり言ってるけど(笑)。
メキシコとの国境の街、エルパソに到着
12時頃にちょっと休憩
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また同じ景色の中を西へ移動
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15時頃に2回目の休憩と給油
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またまた同じ景色の中を西へ移動
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16時半くらいに3回目の休憩
他に表現のしようがないくらい、ひたすら西へ西へと移動。アメリカ人がストレートに感情を表現する理由がわかった気がした。語彙力なくなるもん、こんな世界。運転も本当に大変だと思う。頭があがらない。
移動も終盤に差し掛かると、景色は砂っ気の多い荒野に変わってきた。日が暮れ始めると同時に車の交通量もだんだん増えてきた。目指す街はもう近い。
今日の目的地であるテキサス州最西端の街、エルパソに入ったのは17時頃。帰宅ラッシュの時間ということもあり、街の中心地に近づくにつれてハイウェイはどんどん渋滞する。
今日の会場である「MONA」に着いたのはちょうど18時。ロバート、運転お疲れ様でした。
近くにはメキシコとの国境がある。国境の目と鼻の先にある大学に向かってメキシコ側から銃が発射されたこともあるらしい。
「こっち側にいる分には安全だから安心しろよ!ハッハッハ!」とロバートとデービットが言っているそばから、数台のパトカーがサイレンを鳴らして猛スピードで何かを追いかけていった。安全とは?
街の名誉のために補足すると、エルパソでの凶悪犯罪の発生率は全米平均より約3割低いらしく、全米の人口50万人以上の都市の中では最も安全と報じられたこともあるそうだ。この日はたくさんサイレンを聞いたけど、オイタが過ぎたヤンチャな子がたまたまいたんだろう。そう思うことにする。
イベント開始まではまだ時間があるそうなので、会場に隣接するレストランバーへ移動。ここでもハンバーガーを注文して、食べ終わったら会場に戻って機材を車から出したり、ライブハウスでぼんやりしながら自分のテンションをアイドリングした。
銃と比較される
開場は20時。1バンド目の人たちがセッティングしている。その間、会場ではPAさんセレクトであろうBGMが流れている。
時折、日本のバンドの曲もかかる。大変お世話になった先輩のバンドの曲も流れたりして、海を越えて支持されていることに嬉しくなる。そういえば海外ツアーの話もよく聞かせていただいたっけ。
1組目の演奏が始まったのは21時頃。地元の3ピースのインストバンド。まあ指が動く動く。初っ端から技術力の高さに驚いて「この後やるのか…」とちょっと落ち込みかけた。
この次がjohann。自分たちで機材をセッティングするとベースアンプから音が出ない。あらら…ベースかな?アンプかな?
最初のバンドさんのアンプを借りたら問題なく音が出たので、今日はそれをお借りすることに。
こういう状況下で1週間もライブしていると、無事演奏が始められたという安堵感だけですぐにエンジンがかかってスムーズに体が動く。
johann目当てで見にきてくれたお客さんも多かったようで(インスタを見て来た人が多かったらしい)会場はパンパンだった。ライブも盛り上がったけど、セッティングで自分がもたついたせいで予定していた最後の1曲はできなかった。申し訳ない。
その後は、アメリカのインストポストロックのインディーズシーンで頭角を現しているらしい「Rob ford explorer(ロブフォードエクスプローラー)」と「Floral(フローラル)」が続けてパフォーマンス。
2組ともギターとドラムの2ピース編成だけど、ベースレスを感じさせない圧とグルーヴで客席を大いに沸かせる。ちなみにこの2組とはツアー中にあと2回共演する予定だ。
特に「Rob ford explorer」のギターさんは、終わってから話しかけてくれて、あんなに上手な人なのにこんなおじさんを褒めてくれた。
「君こそめっちゃ指が動いてすごいじゃん」って言ったら、「俺は銃の規制が緩いネバダ州の出身なんだけど、初めて銃声聞いた時よりお前のグルーヴに驚いた」と言っていた。
ジョークなのか褒めてるのか、おじさんにはもうわからない。寛容さを受け止めるんじゃなかったのか、自分。
家の近所が国境ってどんな気持ち?
日付が変わって1時頃に車に乗り込む。ただ、他のメンバーさんがなかなか入ってこない。どうやらこの店の別の階(地下って言ってたかな?)にお化けが出るらしく肝試しに行ったらしい(笑)。
この街は寒暖差が結構あって車の中にいても寒い。毛布にくるまって待っていると30分くらいでみんな帰ってきた。お化けには会えなかったみたいだ。お化けも寒かったんだよ、きっと。
その後、タコスの専門店で夕飯を食べて、ライブハウスのスタッフさんの家へ。小高い丘を登った住宅街にあるアパートに今日は泊めさせていただく。
シャワーを浴びてリビングから窓の外を見ると、丘の向こうにメキシコの街が広がっていた。隣の国が陸続きという日本では体験できない景色に不思議な気持ちになる。
「家の近所が違う国ってどんな気持ちなんだろう?」と思いながら横になる。子供の頃、当時のソ連がなくなった時に「明日から自分の国が違う国になるってどんな気持ちなんだろう?」と感じたことを思い出した。
朝になったらこのツアーの拠点であるサンアントニオに帰ってライブ。約1000km移動のおかわりです。
<続く>