平均値で考える、宝くじで期待できる当選額の話
みなさんは宝くじを購入したことはありますか?
宝くじを買おうとするとき、人はどのような気持ちでしょうか。
「当たったら何に使おう?」
「今回は当たる気がする!」
「3億とは言わずとも●百万円くらい当たらないかな…」
など、何かしらの期待をする人がほとんどだと思います。
また、「宝くじは買わないと当たらない!(だから買う!)」という言葉を聞くこともあります。確かに、当選するにはまず買う必要がありますね。
でも、購入したところでそうそう当たらないのが宝くじ。
実際、宝くじではどのくらいのリターン(手元に戻る利益)が期待できるのでしょう?
この記事では「平均値(期待値)」の考え方を用いて、宝くじに投じた資金に対して、手元に戻ってくる見込み金額はいくらなのかを考察します。
期待値ってなんだろう?
期待値とは平均値(平均)の一種で、「ある行動の結果、得られる数値の平均値」です。宝くじに言い換えれば「1枚宝くじを買って得られる当選額の平均」ということ。
少し数学的な話になりますが、宝くじの期待値を求める公式は以下のようになります。
文字で書いてもイメージしづらいと思うので、具体的な例を見てみましょう。たとえば、こんなくじがあったとします。
この場合、期待値は以下のように計算します。
期待値は300円。つまり「1回くじを引いて得られる当選額の平均」は300円です。参加費は300円ですから、期待値で考えれば「損もしないし得もしない」くじだと言えます。
では次に、こんなくじはどうでしょう。
先ほどと同じように計算してみましょう。
期待値は146円になりました。「1回くじを引いて得られる当選額の平均」は146円です。
参加費は300円ですから、
期待値で考えれば「146円は返ってくる」くじ、
逆に言うと「154円損をするくじ」だと言えます。
「くじでお金を減らしたくない」と思う場合、確率で①のくじを選ぶ方がよいということになります。
宝くじの期待値はどのくらい?
2019年(令和2年)の年末ジャンボ宝くじを例に見てみましょう。各賞の当選金額と本数は以下のとおりでした。
(表は宝くじ公式サイトを参考に筆者作成)
この宝くじは2000万枚でひとつのユニットとして作られており、この時は23ユニットが販売されました。つまり、1等は23ユニット全体で23枚。1ユニットでは1等は1枚となり、当選する確率は「1/2000万」となります。
これをもとに確率を計算すると以下のようになります。
(クリックすると拡大します)
計算の結果、期待値は「149.495円」となりました。「1枚宝くじを買って得られる当選額の平均」は約149円です。
宝くじは1枚300円ですから、
期待値で考えれば「1枚買うごとに149円は返ってくる」、
逆に言うと「1枚買うごとに151円損をする」と言えます。
法律で決まっている宝くじの還元率
2019年の年末ジャンボくじは「300円の購入に対し、149円が返ってくる(還元される)」という計算になりました。これを比率で表すと(還元率)、49.6666…%となります。
実は、日本の宝くじの還元率は「当せん金付証票法」という法律で定められています。
宝くじの当選金額は、還元率が50%未満になるように計算された上で作られているということです。2019年の年末ジャンボ宝くじだけでなく、どの宝くじを計算しても還元率は間違いなく50%未満です。
以下の図は、宝くじ公式サイトに掲載されている、令和元年度(2019年度)の宝くじの売上金額の使いみちです。
(引用元:宝くじ公式サイト 収益金の使い道と社会貢献広報)
年末ジャンボ以外の宝くじを含めた金額ではありますが、やはり還元率は50%未満。当選金として購入者の手元に戻ってくるのは、全購入額の半額以下なのです。
期待値がマイナスなのに、なぜ購入してしまうのか
前述の通り、宝くじは期待値上、損をするようにできています。それでも買ってしまうのはなぜでしょうか。
最初に例として挙げた2つのくじに戻ってみましょう。
期待値は、くじ①は300円(損も得もしない)、くじ②は146円(154円の損)です。
この期待値を知っても、くじ②を選びたくなる人もいるかもしれません。
そこには2つの理由があります。
ひとつ目の理由は「自分はあたるかもしれない」と思っているから。
ふたつ目の理由は、参加費が300円だから。
しかしこれらの理由は、どちらも危うさをはらんでいます。
「自分はあたるかもしれない」でも実は、たくさん買うほど…?
確かに、「期待値146円」というのはあくまで数字の話。現実には、1円も戻ってこない人もいれば、3000円があたる人もいます。この幅を考えれば、3000円への期待感は魅力的です。
しかし「高額が当たるかも」と考えて宝くじを買う時に知っておいてほしいのは、「宝くじはたくさん買うほど損である」ということです。
字が細かくて恐縮ですが、この表はくじ②を同時に購入したときの
「当選額が一番高い組み合わせ」と
「当選額が一番安い組み合わせ」をまとめたものです。
そして、この一覧をグラフを表にまとめると以下のようになります。
1枚だけ買えば最大3000円の可能性があった1枚当たりの当選額の幅=ボラティリティが、たくさん買うほど146円に収束(金融用語で「収斂(しゅうれん)」)する様子が見て取れると思います。
1枚だけ購入して1等が当たれば、それはとてもラッキーです。
でも実際に宝くじを買う場合は、高額当選を目指すほど「10枚」「30枚」とたくさん購入したくなるもの。なのに現実には、たくさん買うほど1枚あたりの当選額は146円に近づいていきます。
上記のグラフは「くじ②」の場合で作成したので、実際の宝くじと詳細は異なります。しかし、宝くじの場合もおおむね同じ形で推移します。
期待値がマイナスなのに買ってしまう、もうひとつの理由「300円だから」
もう一度、くじ①と②を出してみます。
期待値がマイナスでも②を選びたくなるのは「参加費が300円だから」、具体的に言えば「300円なら失ってもいいと思えるから」ではないでしょうか。
もしも、このくじ②がこの1万倍、「参加費300万円」「1等は3000万円」だったらあなたは参加するでしょうか。300万円が0円になってしまうのは避けたいという人が多いはずです。
しかし、よく考えてみればおかしな話。
「300円は失ってもいい」わけはありません。300円があれば、そして300円の積み重ねがあればあれば、行けた場所・経験できたこと・食べられたものがあるかもしれない。世の中で活躍する人たちはみんな、ちいさなことを大切に積み重ねてきた人です。
・・・という話をすると、もしかしたらこんな意見が返ってくるかもしれません。
「宝くじは、はずれても社会貢献につながるからいいんです!」
ここでもう一度、令和元年度(2019年度)の宝くじの売上金額の使いみちをみてみましょう。
詳細は「宝くじ公式サイト 収益金の使い道と社会貢献広報」を見ていただければと思いますが、公共事業・社会貢献に使われているのは約40%。残りの60%は、当選金と販売にかかるお金に使われています。有名なタレントやキャラクターが出演するテレビCMも、このお金からつくられています。
300円で購入した宝くじは、120円を社会へ寄付、180円は誰かの当選金と宝くじの販売費にあてられるわけです。
それなら300円、もしくは120円を直接寄付した方が有意義と言えます。
(100円あれば、途上国の子どもが1日生きられます)
300円の宝くじ、「夢がある」の言葉で終わらせていいものでしょうか。
ギャンブルと投資を分けるもの
「投資なんてギャンブルだからやめなさい」という人がたまにいます。しかし、投資とギャンブルは別の物。
投資は「投じて資する」と書き、お金(時には時間など)を投じて相手の役に立つ(資する)ことを投資と呼びます。この視点はギャンブルと異なります。
また、株式投資の期待値は、市場全体で見ると+5~10%と言われています。元手が300円だとしたら、315~330円が返ってくる計算。50%を切っている宝くじとは大きく異なりますね。
もちろん、株式投資もやみくもにお金を投じるだけではギャンブルと大差ありません。しかし、仕組みを学んだり投資先をしっかり選べば、期待値は上がってきます。
期待値やお金の仕組みを知っていれば、ギャンブルなのか投資なのかも判断できるようになるのです。株式投資と宝くじの違いは、「ゲーム理論」という考え方でも言い表すことができます。
全参加者の利益の合計がマイナスになる宝くじは「マイナスサム」、合計がプラスになる株式投資は「プラスサム」と呼ばれます。株式投資の利益は、他の参加者(投資家)の損失から得られるのではなく、起業の利益や業績から生まれるため、参加者の利益の合計がプラスになりえるのです。
やるなとは言わないけれど、ほどほどに
以上、宝くじの当選額について考察しました。
宝くじが好きな人の楽しみを奪いたいわけではないのですが、宝くじで人生の一発逆転を目指している人を見ると心配になってしまいます。(宝くじをきっかけにギャンブル依存症になってしまう方もいるのです)
好きでいるのはいいけれど、仕組みを知ったうえで、ほどほどに楽しんでほしいなと思います。
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