1844年弘化元年から梅と共に生きる酒蔵の話 「麹造り」

今回は「麹づくり」の作業工程を
「カンタン」に説明をしていきます。

杜氏や蔵人の間では
よく
「一麹(いちこうじ)、二酛(にもと)、三造り(さんつくり)」と言われます。


「良い麹ができれば酒は七割できたも同然」
という杜氏や蔵人もいるくらいで、
酒造りの根本として重要視されています。

何をしているのか?と言えば

そもそも麹とはカビの一種である 「麹菌(こうじきん)」 を繁殖させたもので、米のデンプンを糖に分解する役割を担っています。
麹の持つ αアミラーゼとグルコアミラーゼといった糖化酵素 がデンプンを糖に分解することにより、はじめて酵母のアルコール発酵が可能になります。
また麹にはタンパク質をアミノ酸に分解する酸性プロテアーゼや酸性カルボキシペプチダーゼなどのペプチダーゼ類の酵素も多く含んでいます。

アミノ酸は旨味やコクの元にもなりますが、増えすぎると雑味につながります。そのため、麹造りにおいてはこれらの酵素をバランス良く含むように杜氏さん、蔵人さんが技術を磨いています。

作業は

精米したお米の一部は、洗って

蒸した後、

「麹」を作るために「製麹」の作業に入ります

「製麹」の過程では、床もみ、切り返し、盛り、仲仕事、仕舞仕事、出麹という作業が行われ、お米が麹へと変わっていきます。


目指す酒質によって、麹造りには以下のような方法があります。
(写真は全て 佐藤酒造店の酒づくりの写真です。)

蓋麹法(ふたこうじほう)は、主に吟醸酒かそれ以上の高級酒のための方法であり、麹造りに要する時間は丸2日以上、だいたい50時間で、おおかた以下のような順番で作業が行われます。


1. 種切り
35℃近くの蒸し米を薄く敷き詰め、篩(ふるい)から種麹(たねこうじ)、すなわち粉状の黄麹菌を振りかけていく。終わると米を大きな饅頭のように中央に集めて布で包む。

2. 切り返し
種切りから8 - 9時間経つと、黄麹菌の繁殖熱により水分が蒸発し米が固くなっているので、いったん広げて熱を放散させたうえで、ふたたび大きな饅頭にして包む。

切り返しとは、麹菌が繁殖して米粒どうしがくっついた状態から、米粒を切り離す作業です。

床もみの工程が終わり10~12時間寝かされた米は、表面が少し乾燥し、米粒どうしがくっついた状態になっています。麹菌のさらなる繁殖を促すために、麹菌に酸素をあたえる必要があります。米粒どうしを切り離してかき混ぜる「切り返し」は、麹菌に酸素を与えて繁殖を促すための作業です。

また、蒸米のかたまりでは、温度や水分量の偏りが出てきます。「切り返し」をして全体をかき混ぜることによって、お米の温度や水分量を均一化する目的もあります。切り返しは、複数回繰り返す場合が多いです。

重労働の「切り返し」

まだ水分量の多い蒸米をかき混ぜることは、かなりの重労働です。麹室は30度前後に温度管理されているため、蔵人たちは汗だくになりながら切り返しの作業を行います。

大変だからといって切り返しを怠ってしまうと、麹菌がうまく繁殖しない”ハゼ落ち”と呼ばれる状態になります。切り返しは、睡眠時間を削ってさえ行わなければならない、重要な工程です。

3. 盛り

まず朝に盛方(もりがた)という作業をします。
盛りとも言います。ざっくり言えば麹を床(とこ)から別の場所に移してあげる作業、といったところです。

1日目に引込を行った床の麹の塊をほぐして温度ムラを無くし、空気を供給します。別の蒸し米が入ってくるので、蒸しが終わるまでに床を空け渡さなければなりません。だから、床ではなく別の所に移す必要があるのです

翌日あたりになると黄麹菌の活動が盛んになり、米の温度も上昇が著しくなります。

そこで大きな饅頭を解き、麹蓋(こうじぶた)またはもろ蓋と呼ばれる小さな箱に米を約1.5kgから2.5kgずつ小分けにしていき、この箱を決められたスペースに積み重ねて管理します。麹蓋に米を盛りつけることからこの工程を盛りと呼びます。


4. 積み替え
盛りから3 - 4時間経つと、ふたたび米が熱を持ってくるので、麹蓋を上下に積み替えて温度を下げます。

5. 仲仕事(なかしごと)
ふたたび熱を散らすために米を広げて温度を下げます。

6. 仕舞い仕事(しまいしごと)
また熱を散らすため、米を広げる。これで米の熱を散らす作業は終わりという意味から仕舞い仕事と呼ぶのですが、実際上はこれが最後ではありません。

7. 最高積み替え
仕舞い仕事のあとも米の温度はさらに上がります。
温度が最高になったときに、最後の温度調整のために麹蓋の上下積み替えを行います。
温度が最高になったときに行うので最高積み替えといいます。この後も何回か米の温度を見て、適宜に積み替えをして温度を下げる作業が続きます。

8. 出麹(でこうじ)
50時間ほど経過した頃になると、栗を焼いたような香ばしい匂いがしてきます。これが麹ができたサインとなる。こうなったら麹室から麹を出します。

本当に大変な作業なのです。


箱麹法(はここうじほう)は、
蓋麹法から「3. 盛り」以降を簡略化する手法で、麹蓋の代わりに米を約15kgから30kgずつ麹箱に盛る。
一枚に盛れる量が増えるため省スペース、省力化になる。


●床麹法(とここうじほう)は、
麹蓋や麹箱を用いずに、麹床(こうじどこ)などと呼ばれる、米に黄麹を振りかける台で米の熱を放散させて造る方法である。普通酒を中心とした酒質に用いられる。


機械製麹法(きかいせいぎくほう)は、
機械を用いて麹を大量生産できる方法。

手間がかからず生産コストは抑えられるが、できる酒質には限界があるので、高級酒には適さないとされる。
普通酒を中心とした酒質に用いられる。


最近では若い杜氏の小さな蔵での少量高品質の酒用への取り組みが注目されている。
人の手が入ることによる雑菌混入が引き起こす酸度の予期せぬ上昇を抑えるというメリットがあり、少ない人員でより効率的に麹の生育状況を厳密に管理できることに加え、同時にデータの収集・蓄積も出来る。今まで経験頼りでムラのある作業ではない、正確無比な狙い通りの麹が造れることから、積極的に小規模な機械製麹機によるプレミアム日本酒造りが行われている。


麹からは糖化作用のためのデンプン分解酵素のほか、タンパク質分解酵素なども出ており、これらが蒸し米を溶かし、なおかつ酒質や酒味を決めていきます。

あまり酵素が出すぎると目指す酒質にならないため、米の溶け具合がちょうど良いところで止まるように麹を造る必要があるのです。

それを見極めるのに着目されるのが、
米のところどころに生じる破精(はぜ)。

ちょうど植物が土中へ根を生やすように、コウジカビが蒸米の中へ菌糸を伸ばしていくことを破精込み(はぜこみ)

その態様を破精込み具合(はぜこみぐあい)とい言います。

「破精」とは、麹菌の繁殖形態を指します。
麹菌が米の中へ菌糸を伸ばしていく状態をいいます。

麹菌が繁殖する形態・程度を示す「破精込み具合」は、麹の品質の管理指標となります。
杜氏は破精込み具合を念入りに確認しながら、製麹の各工程のタイミングや温度をはかっています。
麹は、破精込み具合によって

●突破精型(つきはぜがた)

突破精型は、コウジカビの菌糸は蒸米の表面全体を覆うことなく、破精の部分とそうでない部分がはっきり分かれており、なおかつ菌糸は蒸米の内部奥深くへしっかり喰いこみ伸びている状態。
強い糖化力と、適度なタンパク質分解力を持つ理想的な麹となり、淡麗で上品な酒質に仕上がるため、一般的な傾向としては吟醸酒によく使われる

●総破精型(そうはぜがた)

総破精型は、コウジカビの菌糸が蒸米の表面全体を覆い、内部にも深く菌糸が喰い込んでいる状態。糖化力、タンパク質分解力ともに強いが、使用する量によっては味の多い酒になりやすい。濃醇でどっしりした酒質に仕上がるため一般に純米酒に好んで使われる。

●塗り破精型(ぬりはぜがた)

塗り破精型は、コウジカビの菌糸は蒸米の表面全体を覆っているが、内部には菌糸が深く喰いこんでいない状態。糖化力、タンパク質分解力ともに弱く、粕歩合が高く、力のない酒になりやすい。

●馬鹿破精型(ばかはぜがた)に分類される。

馬鹿破精型は、前の工程、蒸しの段階で手加減を間違えたため、蒸米が柔らかすぎて、表面にも内部にも菌糸が喰いこみすぎ、グチャグチャになった状態。こうなると雑菌に汚染されている危険もある。酒造りには通常使えない。

いかがでしたか?麹菌の繁殖はただ進めばいいというものではなく、適度な破精具合で繁殖を止めなければいけません。

「一麹、二酛、三造り」という格言
の最初に麹がある理由が少しわかる気がしますね。

杜氏さんの腕の見せ所は「麹づくり」だけではない
のですが、それでも「麹」は本当に重要な作業なのです。

それは佐藤酒造店の酒づくりでも、変わりません。

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