世界中の人に味わってほしい」 日本の梅酒に中国・香港・台湾が酔う
世界中の人に味わってほしい」 日本の梅酒に中国・香港・台湾が酔う 元記事
グラスに注いだ琥珀色の液体をひと口。爽やかな甘さと酸味、そしてウメの香りが広がる。焼酎やブランデーなどのアルコールにウメを漬け込む梅酒は、日本人にとっておなじみの味だが、ここ数年は海外への出荷が増えているという。いったいなぜなのか。(藤崎真生)
段ボール箱から出されたウメが、ベルトコンベヤーに似た機械へ次々とほうり込まれ、水で洗われながらタンクへ運ばれた。「チョーヤ梅酒」(大阪府羽曳野市)の大阪川向工場(同)で5月31日に始まった今年の梅酒の漬け込み作業。金銅俊二専務(62)は「世界中の人に味わってほしい」と語った。
■70カ国・地域へ
外国人に大人気の梅酒
梅酒は日本の伝統的な果実酒。
梅酒の製法は江戸時代中期に確立しています。
四季のある日本で梅と梅酒はおいしさを増していきます。外国人には「プラムワイン」と呼ばれることもありますが、梅はプラムやアプリコットとは別種類のものです。
またワインのように発酵させません。そのため、海外でもそのまま「UMESHU]と呼ばれる事が多いのです。
日本人にとって意外かも知れませんが、梅酒は外国人に高い人気があります。
ある調査結果では、外国人観光客が日本で選ぶ飲料系お土産の人気第2位が梅酒となっています(第1位が日本酒で第3位が焼酎)
私たち日本人が飲むアルコール類で梅酒の割合は1割程度と言われていることを考えると、梅酒がいかに外国人に高い評価を受けているか分かります。
大正3年創業と100年以上の歴史を誇る老舗。梅酒最大手として国内シェア約30%を占める一方、いまや約70カ国・地域に出荷するグローバル企業に成長している。平成28年に発売したブランド梅酒「The CHOYA」を、翌29年から海外でも本格販売。高級品種の紀州産南高梅を厳選して100%使用し、食事中でも飲みやすいよう甘さを抑えた味にした。
これが当たった。同社の過去5年間の梅酒の売上高をみると、26~29年は110億円台で海外の占める割合は約20%だったが、30年は約124億円と急に伸び、海外比率も約25%まで高まった。主な出荷国・地域は中国、台湾、米国、シンガポールの順という。
裏を返せば、国内の梅酒市場はすでに「成熟」した段階にあるといえる。
80社でつくる「日本洋酒酒造組合」(東京都)などによると、梅酒(非発泡性)の出荷量は平成15年から増加の一途をたどり、23年には約3万9140キロリットルでピークを迎えた。20~30代の女性を中心に消費が増えたためとみられる。
ところが、それ以降はチューハイなど酒類の多様化が進み、若者の酒離れも相まって出荷量は減少。昨年は約3万2420キロリットルにとどまった。
■注目はフランス
紀州産にこだわった王道の梅酒に加え、緑茶やはちみつを加えたユニークな“カクテル梅酒”を手がけてきた中野BC(和歌山県海南市)も、事情は同じ。梅酒の売上高に占める過去5年間の海外比率は右肩上がりといい、29年10月~30年9月は約18%を占めた。
主な出荷国・地域も香港、中国、米国、台湾の順で、傾向は似ている。一方でこれから注目する出荷先が、フランスだ。ワインの国で知られるフランスでは現在、日本酒がブーム。梅酒は日本酒やワインとも度数が近いことから、味や香りを引き立てる料理と酒の組み合わせ「マリアージュ」の広がりが期待できるというのだ。果汁などをブレンドしない「本格梅酒」が好まれる傾向にあるという。
ウメ収穫量が日本一の和歌山県は、行政も海外販売を後押しする。昨年11月に香港で開催された酒類の国際見本市に、県として初めて出展。2社の梅酒とクラフトビールを並べて好評を博すと、今年の参加も早々に決まった。
香港ではほかにも、料理教室の「ABCクッキングスタジオ」と協力し、梅酒造りの体験教室を開いている。県の担当者は「海外のバイヤーと商談の機会を設けるなど、地道な活動で海外進出をサポートしたい」と意気込んでいる。
■「本格梅酒」定義は
フランス人が好むとされる「本格梅酒」には、きちんとした定義がある。ウメと糖類、アルコール(酒類)のみを原料とする梅酒のことだ。日本洋酒酒造組合が27年1月に業界の自主基準として定めた。
梅酒の出荷量が増えていた14~23年、ウメ農家にとって驚くべき事態が起きていた。和歌山県などによると、梅酒の出荷量は約2倍になったのに、梅酒造りに使われたウメの量は14年の約5880トンに対して23年は約6370トンと、約1・08倍にしか増えていなかったのだ。
その要因が、ウメと糖類、アルコールに加えて酸味料などの添加物を使用した商品が、梅酒として流通していたこと。添加物によって、少量のウメでも梅酒の味は再現できてしまう。梅酒ブームは、ウメの需要拡大につながっていなかった。
こうした事態に対処し、梅酒の品質を守るとともに消費者の誤解を防ごうと、県が国に働きかけるなどした結果、「本格梅酒」という名称で業界の基準が定められた。
チョーヤ梅酒企画広報推進部の森田英幸課長(50)は「徐々にだが、海外でも『本格梅酒』が梅酒人気を支える力のひとつになっている」と話している。
【プロフィル】藤崎真生(ふじさき・まお) 大阪総局南大阪担当。酒は日本酒、ワイン、ビール、チューハイなど分け隔てなく飲んでいる。今回は取材を通じて梅酒の魅力と奥深さを再認識。ロックで味わうことが多いが、暑い夏は濃いめのソーダ割りがおすすめだと感じている。