
致知2024年10月号「対談 人間の可能性をこうして花開かせてきた」を読んで

脳神経外科医として世界初の「脳低温療法」を確立、さらに脳科学を生かして多数の五輪メダリストを育成してきた林成之氏。専門外から幼児教育の道に入り、大人でも難しい古典・名文を園児がすらすら読みこなす、卒園児の平均IQが120という稀有な幼稚園をつくりあげた小泉敏男氏。
大学を卒業して後、父親と共に幼稚園を創設し、幼児教育の道へ入り、そのまま現在まで50年歩み続けている小泉氏の原点には、学生時代に運営していた塾において、勉強のあまりできない教え子にむきあった体験があった。真面目でいい子でも、国語力がなければ、なかなか前に進むことができないことを目の当たりにした。
私にも、同じような体験があった。学生時代、片手間で、家庭教師のアルバイトをしたことがあり、一人の中学生の勉強を見ていた。中二の途中から、中三の受験前までかかわった。時間がさほどなかったため、その日にやるべき学校の宿題か、家庭教師の派遣元から生徒が購入していたテキストにランダムに取り組むというスタイルで、毎週手探りで、繋がっていかない。だんだんと、少しでも机に向かう習慣をこの時間で身に着けて欲しい、という程度の目標に落ち着きつつあることだった。宿題の問題は、和文の短い文章に対応する英単語の選択肢があり、選択肢を並び替えて、英作文をつくるというよくあるパターンの問題だった。英語の文章をつくたせようと、日本語の文章を示して、「この文の主語はなに?」と問うた。和文の構造を理解して、英語の構造に捉えなおして、英作文をつくるということをやりたかった。問題の主旨はそうである。しかし、到底主語ではない単語の回答が返ってきてしまい、大いに困惑した。そして、色々なことが繋がった。その子は、「主語」が何を意味しているのかわからなかったのだ。そこから先は、中学生の問題を進めるのを諦め、本棚に残っていた一番優しいレベルのテキストとして、小学校の国語を引っ張り出し、それをメインに時間いっぱい取り組んだ。結果としては、限られた時間で、大きな学習効果を得るまでには至らず、悔しい想いが残った。はっきりと刻まれている体験だが、これを原体験に教育の道を進むことは私にはなかった。小泉氏と比べるまでもなく、当時の熱量、想いも半端なものであったのだろう。
信念を曲げずに、道を歩み続けていれば、林氏のような理論的裏付けと出会い、サポートが得られる。本氣ですれば、誰かが助けてくれるのである。何よりも一番の支えになったのは、素直に育っていった子ども達であり、子ども達のその後を確認することで、なおも確信を得ていったことだろう。我が家でも、3人の子がおり、小学生になる上2人は、致知とのご縁もあり、幼児期に古典や名文の音読をする習慣にたどり着いた。そして、名文をすらすらと音読している姿を見ていると、両氏の考え方に共感、共鳴する。この話を大きくとらえ、対談において言う「潜在能力を発揮する結論」を思うと、「人の為になる原点に従い、本氣で、全力投球する」という「美しい本能を発揮する」ように、仕組みづくりをしていくことが私にとって大切なことだと理解する。
私たちは、仕事を通じて、地域の活性化、すなわち子ども達の未来づくりをするという大義を強調し、シンプルで具体的な行動の一つとして、身の回りをきれいにする、整えることを大切にしていくと決意する。