ジャック・バーンズ
『正義は必ず勝つ!この勝利を妻のアマンダと娘のヴィクトリカに捧げます』
車内テレビから、アメリカン・ヒーローのインタビューを見る。マスクの下からでも判る歓喜の表情が、次には凍りつく可能性がある。
『目標を発見しました』
ベントレー・コンチネンタルに搭載された戦術支援AI『A.I.G.I.S』が慇懃に告げる。わたしはサングラスをかけて、ギアを入れる。
輸送機の後部ハッチが開放され、減圧が開始される。バックミラーに映る美しい蒼穹。ここは天と地の狭間、ロサンゼルス上空2000メートル。
『幸運を。エージェント・バーンズ』
猛スピードで、空中へとバックする。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ゴールデン・ゲート・ブリッジを走るSUVにに押し込められたヴィクトリカは、武装した男たちに毅然といい放つ。
「あなたたち、悪いひとね。パパがこてんぱんにやっつけちゃうんだから」
下卑た嘲笑と、AKのガチャつく音。だがヴィクトリカは怯まない。父の薫陶が胸に生きている。正義は必ず勝つ。そう、必ずヒーローが──
刹那、SUVのサイドミラーが、上空から降下するベントレーを映す!車体下部からバーニア噴出、着地!猛スピード追跡!
SUVからの射撃!しかしベントレーの防弾装甲には傷一つつかない。
SUVが緊急停止。武装した男たちがRPG片手に飛び出す。ベントレーはスピードを弛めない。ルーフが展開し、オープンカーへと変形。サスペンションが撓み──
RPG射出と共に、ベントレーは大きく跳ねる。縦に回転し、ロケットを回避!バーンズは運転席からパルスガンを撃ち、男達を気絶させる。A.I.G.I.Sの軌道計算により華麗に着地!
スピンするベントレーから、上品なストライプスーツの男が滑り降りる。SUVから残りの男たちが銃を構えて出てくる。
「誰だテメェ!」
スーツの男は、サングラスを投げ捨て、片眉と口の端を吊り上げる。
「バーンズ。ジャック・バーンズ」
【つづく】