キングスマン・ファーストエージェント感想(ネタバレあり)
■キングスマン誕生の物語■
国家に属さない、独立した諜報組織
「キングスマン」の誕生を描いた今作。
第一次世界大戦という未曾有の惨劇のうらで暗闘するスパイという絵図は、今までの「昔ながらのスパイアクション」とは一味違う、ドラマ性の強い作品となった。
過去のキングスマンシリーズと比べると、ロマン溢れるガジェットや外連味溢れる展開にアクション、カタルシスは薄く物足りなさを感じる「すました優等生ヅラした坊や」みたいな作品になっているが、テーマとしてはマーク・ミラーやデイブ・ギボンズが手掛けたコミック「The Secret service:KINGSMAN」の系譜を正しく受け継ぐ、正当ならぬ『正統』なキングスマンであったと思える。
■"導く"のではなく"縛る"父親
話はボーア戦争時、赤十字の一員として、英国軍のキャンプにオックスフォード公爵夫妻と嫡男のコンラッド、執事のショーラが物資を輸送してきたところから始まる。
ボーア戦争は泥沼の様相を呈しており、民間人か敵兵か判らぬ現地人ゲリラの対応に英国軍は苦慮しており、しかも英国の暴力的で卑劣な戦略がフィルムに収められ世界へと配信されたため、帝国主義への反感が高まる時勢。
オックスフォード公もキャンプに捕らわれた現地人の扱いに対して指揮官のキッチナーへ苦言を呈するに至る。
そんななか、キャンプはゲリラの襲撃を受け、結果オックスフォード公は脚に被弾し、妻エミリーを喪う結果になる。
エミリーは遺言として、「息子コンラッドに争いのない世界を見せて」とオックスフォード公へ言い残す。
オックスフォード公は妻の遺言を守り、コンラッドを危険な目に遭わせまいと、過保護に接するようになった。
今まで擬似的な父子としてハリーがエグジーを導いてきたところに対して、オックスフォード公は息子を、自分を縛り付ける。
英国貴族と呼ばれる自らの祖先は、暴虐と冷酷さによってその地位を築いた。騎士道精神や紳士という概念が持て囃されたのは、最近になってからだ──と。
自身も大英帝国の兵士として、他国を虐げ、命を奪った経験もあるオックスフォード公は、暗い世界の暴力は正当化されることはないと、コンラッドへと言い聞かせる。
しかしコンラッド自身は、自分と同じ年代の若者が国や人々を守るために死んでいくのに、自身が安穏としている状況に耐えきれない。ショーラと戦闘訓練を積みつつ、折を見て父親や軍将校へ「従軍したい」と持ちかける。貴族の義務というよりは、自分の命を以てしても何かを証明したいかのように。
二人の父子は表面上は仲良くしているが、肝心なところでギクシャクしていた。
そんな中、1914年、サラエボでのオーストリア皇太子暗殺事件に巻き込まれた父子は否応なしに、世界を巻き込んで英国を焼き尽くさんとする陰謀との戦いへと身を投じることとなる──。
■他人のために「命を尽くす」ということ
今作ヴィランである陰謀団の一員をロシアで下したあと、オックスフォード公は「これで武勲は十分だろう」とコンラッドを諫めるが、コンラッド自身は未だ続く戦争で若者が死んでゆくなか、やはり自分は安穏としていられないと従軍の道を選ぶ。
息子をどうあっても止められないと悟ったオックスフォード公は従軍を認める。英国王ジョージ五世と息子の無事を祈りながらシャンパンを酌み交わすオックスフォード公。しかし、コンラッドの思いとは裏腹に、培った戦闘経験のおかげか、あるいはジョージ五世らがオックスフォード公を慮ったか、コンラッドは士官にまで昇進し、前線から遠ざかった。
どうしても国のために闘いたいコンラッドは下士官のアーチー・リードと入れ替わるという大胆な策で前線へと参戦する。
そして飛び交う銃弾の中、敵陣のドイツ軍のなかから飛び出してきた英国側のスパイが吹き飛ばされる様、スパイが所持している機密文書を回収する危険な任務に志願し、夜の闇のなか、仲間とともにドイツ側の文書回収部隊と白兵戦を行うなかで仲間が簡単に死んでいく様、放たれた銃弾により、暗闘に気づいた両陣営からの砲火やフレアに曝されたことで、父の言葉が正しかったこと、入隊時に述べられた、「国のために身命を尽くす」というラテン語の格言の虚しさを知ることになる。
しかし逃げ込んだ先で、文書を回収したスパイが片足を失いながらも生存していた。
スパイはコンラッドに文書を託す。これがこの無慈悲な戦争を終結させ、数多の人々が救われるのだと。
コンラッドはここで自らが闘う意義を見いだしたと思える。
コンラッドはスパイを見捨てることは出来ず、彼を担いで戦地を走る。日は登り、射線に身を曝し、砲火で土が爆ぜ、弾丸が身を掠りながらも、「命を救うために力を尽くす」という一心で、戦地を走る。
やがて砲撃が二人を巻き込むが──爆風で英国軍側の塹壕に吹き飛ばされ、コンラッドはスパイの命こそ喪うものの、彼が命がけで回収した機密文書を英国へ持ち帰ることに成功した。
──が、成り代わったアーチー・リードの友人がコンラッドが「アーチー・リード」だと名乗った瞬間を見咎め、懐から取り出した機密文書入りのケースを見、コンラッドをドイツ側のスパイと誤解、周囲の制止虚しく、コンラッドは頭を撃ち抜かれ、死亡する。
コンラッドの制服に身を包んだリードから仔細を聞かされたオックスフォード公は、最愛の妻だけでなく、最愛の息子すら死に追いやってしまった自分の判断に絶望し、静かに慟哭する。
コンラッドの葬儀の際、ジョージ五世も参列するなか、オックスフォード公は「国のために身命を尽くす」といううわべだけの美しさに彩られた残酷さを、自らに噛み締めるよう語る。
悲しみに暮れて酒に溺れるオックスフォード公を訪問するジョージ五世。
彼はコンラッドが持ち帰った情報──アメリカの第一次世界大戦参戦を妨害していたメキシコ、その裏で糸を引いていたのはドイツだという確たる証拠──を、アメリカ側に伝えても、アメリカ側は未だに参戦に対して及び腰であり、このままでは泥沼化した大戦はさらに拡大し、英国すら滅亡の危機に瀕すると語る。
英国もお仕舞いだと自嘲するオックスフォード公に、ジョージ五世はあるものを見せる。
コンラッドへと捧げられたヴィクトリア十字章。
戦場において、最も『勇気ある』行いをしたものに捧げられる勲章である。
召使であるポリーからの叱咤。そしてヴィクトリア十字章を見てオックスフォード公は悟る。
「国のためや名誉の為ではない、他人の命を助けるために自らの力を、命を尽くすこと」
妻エミリーもそうだったこと、息子もまた、世界へいる数多の命を救うために力を尽くしたことを理解したオックスフォード公は、自らを縛る「平和主義者」の戒めを解き放った。
英国だとスパイというのは、一種の騎士のように考えられている面がある。もちろんスポーツよろしく騎士道精神に則った戦いをするわけではないが──、ダニエル007や裏切りのサーカスなどで描写されたように、騎士道精神に則った振る舞いや、自らの命を尽くして任務に殉ずるという振る舞いがあるのだ。
決して、自らの名誉ではなく、誰かのために。
コンラッドの勲章とは、ただの煌びやかな飾りではない。義人たるコンラッドの信念と勇気が形を為した、命の証なのだ。
■去り逝く者への『敬意』こそが、『キングスマン』■
こうして息子の犠牲を払いながらも、黒幕を打倒し世界大戦終結への一助を担ったオックスフォード公達。
彼らはテーラー・キングスマンを買い取り、裏で独自の情報網を有した、国家に属さない独立した諜報組織として新生した。
オックスフォード公をアーサーとした、円卓の騎士達『キングスマン』。
冒頭で幼きコンラッドは、ショーラへと宣った。
キングスマンが円卓の騎士を模したのは、命をかけて世界を救った亡き息子、コンラッドへの『敬意』からだった。
よく他のブログやなんかで「コンラッドの死は必然なのか」とか「戦闘技術のあるショーラがなぜ物資調達を担うマーリンなのか」という疑問が噴出してるが、必然性はそこにあった。
そもそも第一作「キングスマン」において、ハリーがエグジーへ「キングスマンという組織は第一次大戦で後継ぎを失った貴族らが、世界平和を担い、嗣子へ受け継がれるはずだった財産を投じて設立された」と語っているため、コンラッドの死は暗示されていたのだ。
オックスフォード公とコンラッドの立場が逆であれば、ゴールデンサークルより盛り下がっていたと断言できる。いやマジで。
オックスフォード公が「我が友」とまで呼ぶショーラがマーリンになるのも、アーサーを支える立場にあるからであり、さらにエリートエージェントある円卓とは別に、リクルート達を教導できる力量があるショーラがマーリンに指名されたのも道理である。実際、コンラッドの戦闘技術はショーラの指導の賜物だった。
上座のない円卓にあって、事情を知るジョージ五世やアーチーらが初代エージェントとして列席するのも妥当だ。
そして、オックスフォード公らは妻や息子、数多の命を救うべく殉じた戦士らへと、ナポレオン・ブランデーを献盃する。
「The King's man」
王(アーサー王、あるいは神、あるいは信念のために闘って散った人々へ最上級の敬意を込めた呼称)に仕えるもの達はこうして誕生した。
そういった理由で、「キングスマン・ファーストエージェント」はキングスマンサーガの「正統」な始まりであると結論付ける。
また見たいなー。
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