誓剣よ、血の掟を断て
僕らは剣を振るった。金属同士が擦れる音と、瞬く火花。数手打ち合った後に、煌めく軌跡がカルロの首をなぞる。血飛沫。崩れ落ちる肉体。その後ろから迫るマッテオとルイーギ。双方の手には片手剣。
返す刃で剣の付け根を打つ。〈シチリア人〉の象徴であり、圧政の暴虐から民を守る矛であり盾。それは今の組織を表すように容易く折れた。手首を捻り、刃で弧を描く。僅かな動きで描かれた銀の閃光は再び二人の首筋を捉え、赤黒い鮮華を石畳に咲かせた。
曇天から雨の雫が降る。足音のように単音から複音へと変化する。血の花や背広をしとどに濡らしてゆく。水煙が上がり、ゆらぐ彼方には背広と剣を携えた過去の仲間たちが殺気とともに得物の鋒を僕に向けている。
その後ろには、傷跡とシワが刻まれた青白い顔面を顰める組織の老人達。その先頭には上等な背広と一際精緻な模様を刻まれた剣――組織の頭たる証――を持つ一人の男。
僕が殺さねばならぬ、唯一無二の男。
「何故なんだ、フレデリック」
彼は僕の名前を心底惜しそうに呼んだ。
「それはお前が一番理解しているはずだ。アメデーオ」
僕は、彼の名前を呼んだ。
「血掟に従い、組織に徒なす者は全て消す。それがアメデーオ……お前でも」
〈シチリア人〉でもない者が!という罵声と共に剣襖が迫る。自身めがけ走る剣閃を弾く。刃が我が身をつんざく。血が石畳に散る。構わず剣を振るう。肉を裂く手応え。悲鳴。手首を斬る。首筋を断つ。臓物を貫く。悲鳴、手首、首、臓物、悲鳴――。
長く短い逡巡ののち、雨で洗い切れないほどの血で地が濡らされる。横たわる死体たち。慄く生き残り共。
アメデーオはなんの感慨も無く醒めた視線と銃口を向けていた。禁制の銃。お前は剣士の誇りすら……
火薬反応の光、硝煙と鳴り響く音。
僕の胸に、紅黒いシミがじわじわと拡がっていく。
《つづく》