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「おばさん/BBA」は何故、罵倒語として成立するのか。若さと美しさと性的魅力と、あなた。
「女」と言われて、あなたが思い浮かべるのは何歳くらいの人だろうか。
分類としては、生まれたばかりの乳児から高齢者まで全年齢の人が「女」であるはずだが、社会で使われる「女」という言葉にはどこか「若い女性」という影がついてまわる。
ネットスラングに「BBA」という言葉がある。意味はおおむね「ババア」。
その含意は何だろうか。
・容姿が美しくない
・発言者の恋愛、性的対象でない
・年齢が10代半ば、または発言者よりも高齢である
・雑に扱うことで逆に親愛感情を表している
いやまぁ、どの意味を含んでいても、よくそんなことを他人に言えるね?恥ずかしくないの?という感想に尽きるんだけど…
容姿に対するジャッジは鏡見てろよと思うし。あなたの恋愛/性対象になるかは心の底からどうでもいいし、自分の性癖さらして露出狂かよ、という感じ。雑に扱うことで親愛を~というのもDVですかとしか思えない。
容姿については、「劣化」というゴミみたいな言葉もあるんだけど、それはほんとにただのゴミなので語るまでもない。
ババア、という言葉で面白いのは
「うるせぇ、ババア」という台詞が、反抗期の男性の台詞としてテンプレート化していること。
つまり、ババアという言葉には母親に向かっての罵倒語としてのイメージが定着しているということ。
母親が自分よりも高齢であるのは明らかだし、恋愛や性対象でないのも自明のことであって、血縁者であれば容姿は自分も受け継いでいるし、この場合は甘えは含んでいても親愛感情の表現とは言い難い。
つまり、この場合の「ババア」には中身がない。
単に母親を「お母さん」とか「ママ」といった親愛感情のこもった呼称を使いたくないために、また女性一般への罵倒語としてババアが成立しているために、ババアという言葉が選択されていると見て良いと思う。
女性自身が、自らを「おばさん、ババア」と言う場合は、容姿が若い時と変わったり、気力体力が衰えている、加えて、恋愛や性対象ではないことの表明が含まれているのは興味深い。
逆に、美魔女と言った時には、実年齢以上に若く見える、同年齢の人に比べて美しいなど、容姿に限定した言葉になっている。
さて、ここまで考えてみると、若くて美しくて性的魅力のある人が「女」で、それが1つでも外れていれば「ババア」という罵倒語が使われているようだ。
いやほんと、お前何様なんだよという話なんだよね。
「昔は子どもを産む道具、今は性を楽しむ道具」
この言葉の強さにぎょっとすると同時に、どこかで納得している自分もいる。
日本社会における「女性の価値」は、このセリフのように過激に言い表さずとも、上記を見てもそういった傾向があるのは確かだろう。
そもそも何故、女性には「価値」が求められる場面が多いのか。
別に女性は資産として所有されるものではないし、投資対象でもなければ、売買されるものでもない。けれど、ネット上の記事はもちろん、女性向けと思われる婚活の広告でも、女性誌の企画でも、「女性の市場価値」みたいな見出しが簡単に書かれている。ただし、この2,3年に絞ってみると「男性の市場価値」という言葉もぐっと増えている。
例えば、女性のセックスワーカーについても、あなたが買っているのは彼女の時間と技術であって決して彼女自身ではないですよ、という話にも少し似ている。
会社が労働者に対して、本来は労働時間の売買をしているのに、労働者自身を使い捨てにしている非人道的な現状、を例えにすると分かりやすいだろうか。
人を見た目でジャッジするのはものすごく失礼なことだし、若くなくても美しくなくて性的魅力がなくても「女性」だし、人間を売買してはいけない。
「女性の権利」とか、「女性の人権」、「フェミニズム」もそうかな、そういうと男性の加害を攻撃しているだけのように聞こえて防御体勢をとってしまう人は結構いる。
ただ、よく考えてみて欲しいんだけど、人口の約半分は女なんだよ。
半分の人間が不当な扱いを受けている社会は、全く健全じゃない。
それは、もう半分の人間を圧迫するし、強制するし、人権を軽んじる。だってもう社会の半分の人間の人権を軽んじてるんだから。