老いてからでも遅くないー命のメジャー 1.物差し(メジャー)を持つ
#有料記事書いてみた
繰り返しが生む自分だけの命の物差しの話
今からちょうど10年前の夏に ‘ヨガレッチ’(ヨガ+ストレッチの略) を始めて絶え間なく毎日継続してきた。
30分の足指回しと、30分のヨガとストレッチを組み合わせた自己流朝の時間を毎日、出張先でも続けてきた。
それぞれの足指を引っ張る、右回し、左回しをそれぞれ100回がベースになっていて、夕方はその6割くらいの、ダブルコースをやる日も多い。
指の動きは数千回になる。
大学時代に学んだ ‘辺境の理論’ ― 次の時代はその時代の辺境の地、僻地から生まれる。
一番血流が届きにくい、辺境の足の指を活性化すれば、全身に良い影響があり全体が元気になる。人の体でも日本国でもそれは同じだという信念で地方にエネルギーも投入してきた。
今は30分かけてやっている足指回しが、いずれ寝たきりになっても1日かけてできればいいと思い、継続することで私の生きている物差しとなったと言い聞かせている。やがて回す時間が長くなって、いずれできなくなって、さよなら、という私にとっての’生命のメジャー’だ。
夜早く目覚めてしまったときにはこれを黙々とやると二度寝がスムーズにできる。
横たわっていると、自然に腹式呼吸になっている。そして足と手の先が少しピリピリして、ああ、細胞分裂しているな、となにか納得する。
しかし不思議なのは、手のピリピリ感の方が大きいことだ。
最近になって、足指回しは同時に手の指にも、いや足指よりも多く刺激を与えているのだと気が付いた。指が不自由になってはできないことだから、手がより重要なのだ。そして手先の運動は脳の刺激にもなるというではないか。
わが師匠にして奥会津のマタギである猪俣昭夫さん。
その体力有り余ると思っていた「師匠」が2年前、雪の中での鹿狩の後、脳梗塞で倒れた。懸命のリハビリをされて、1年半後に念願の自宅に帰られた。
翌日から会津は大雪になった。猪俣さんが狩りをする福島県金山町は3メートルの積雪は珍しくない。11月から2月半ばまでの熊猟解禁の、ちょうど雪が始まった時期に倒れた。
少し前になるが、一緒に「奥会津日本みつばちセミナー」を主宰していた頃、宮沢賢治の「なめとこ山の熊」の話になった。少し酔っていた猪俣さんが、あの話の様に「自分の最後は熊に殺されて、でも山のたくさんの熊たちが自分の葬式をやってくれる」ことだと話したことがある。本では猟師の小太郎が大きな熊を撃ち倒そうとすると、その熊が、自分にはあと2年どうしてもやらなければならないことがあるから見逃してほしいと頼んで小太郎は見逃してやると、ちょうど2年後に熊が家の前に倒れていたという話がある。熊を撃ちながら、熊も小太郎のことを、自分たちの理解者として尊重しているという世界だ。
木の花に実を豊かにするのは日本ミツバチの仕事、その実を食べて遠くまで運び、森の木々の多様性を豊かにするのが熊の仕事という話で、猪俣さんの熊に対する尊敬の念が感じられる。だがその熊が少子化、高齢化の影響で耕作破棄地が増え山から里にテリトリーを広げ、特に福島県では放射能汚染の影響でイノシシやシカ、熊肉の流通ができず獣が増殖してしまった。
これらの原因は人間が起こしたことで、その結果、彼らを駆除しなければいけない事態には、猪俣さんも悩んできたところだ。
2019年12月に米国シアトル熱中小学校で授業をやっていただいた時、授業の中で「森の木々は毎年その生育、花や実の付け方が違うために、どうしても動物の餌のバランスが変わり、頭数が違ってくる。その獣や動物たちのバランスを保つために、マタギは狩をしてそれで自分達の命もつながせていただいている。マタギは森の調整役だ」と話していた。
人の集落にたびたび出現するような獣による人的被害を減らすためにハンターになる人を増やしながらも、命をいただくという敬虔な気持ちを持ってほしいと猪俣さんは訴えているのだ。
これから6回にわたって、’命のメジャー’とそれを破壊する大災害について書いてみよう。