現場主義を貫く: Street Smartになりたい
我が家にはいわゆる“開かずの間”がある。それは地下室。竜巻の多いアメリカ中西部ではほとんどの家には地下室がある。建面積の半分くらいを占めている。アメリカ人の多くはここを綺麗に改装してファミリールームや寝室として使っている。我々というと、将来使う可能性はゼロに近いけれど捨てる勇気がない物の拭きだめとして使ってきた。
子供たちも巣立ち、我々夫婦は地下を改造して寝室と風呂場をつけることを決意した。残り少ない人生、22年前に買った築62年の家で快適に暮らすために。友人や家族を呼んでパーティーもしたい。宿泊も可能だから心配なく飲める。
1年前に地下の改築専門の業者に設計を依頼。彼らは、建築業者、配管業者、電気工事会社などに仕事を依頼して工事は行われる。先月半ばについに工事が始まった。
工事の数日前に現場監督のマットが我が家を訪れた。最近初孫が生まれることがわかり上機嫌なアメリカ人だ。彼は4−5個の現場の監督を同時進行で進めている。いわゆる工事現場のプロ。地下の階段を降り、持ってきた設計図と我が家の“開かずの間“を見てこう言い放った。
“この設計図の下水配管ではダメだ。下水の配管がだめならどんな美しい建物もゴミだ!”
しかしすでに工費は双方で同意して署名している。私はどうしてこんな初歩的なことに設計段階で気づかないのか?と聞いた。彼はニコッと笑って“これに関してはノーコメントだ。でもこの件、俺に任せろ。”と言ってフォードの大型SUVで去って行った。数分後電話のベルが鳴った。運転中のマットからだった。
“配管をやり直すと更なる費用が発生するが、差額はこちらが負担するので心配するな”、と。
彼は典型的なStreet Smartだ。Street Smartとは実際の現場で揉まれ、修羅場を潜り抜けて賢くなっていくタイプの人間。この対義語はBook smart。受験エリートを馬鹿にした表現としてよく耳にする。設計図を引いた人々はおそらくBook smartかな。彼らは一度も我が家に来ていない。マットが現れると現場は急に明るくなる。現場の雰囲気を好転させる方法はもちろん本のどこを探してもない。彼は現場で学んだのだろう。私も妻も彼の大ファンだ。
我が家の“開かずの間”のお披露目は本年10月末を予定しています。
私が学んだ教訓:Street Smartになるには現場に足を運ぶしかない。