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アジアンドキュメンタリー沼にはまる① 「マザーランド 世界一いそがしい産科病院」

アジアンドキュメンタリーズが配信しているアジアのドキュメンタリー映画にハマっている。
フィリピン恋しの私にはフィリピン映画が充実しているのもうれしいし、
まだ行ったことがないほかのアジアの国の社会の様子もわかって面白い。

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というわけで、月額見放題に登録した今月はできる限り、映画について書こうと思い立った。

(なお、2月28日までアジアンドキュメンタリーズで配信されている映画を視聴すると 495円(単品視聴料の全額)が日本赤十字社に寄付される。映画を見て医療を支えることができるしくみだ)

1本目は「マザーランド 世界一いそがしい産科病院」


フィリピン、マニラのドクター・ホセ・ファベラ記念病院では一日平均で60人の出産があり、ピーク時には24時間以内に100人もの赤ちゃんが生まれるという。
この病院はマニラ市内のなかでもいわゆる貧困エリアといわれる場所にある。100年以上も前に、刑務所だった建物を使って開かれた病院らしい。

その映像に息をのんだ。

超「密」な産科病院


ストレッチャーの上で分娩体制をとった女性たちがずらりと並び、子宮口が開いた順に次から次へと分娩が行われる。
それだけでも驚きだが、無事に出産を終えた母と子は、一つのベッドをほかの母子とシェアしている。手を伸ばせばもう一組の母子に届いてしまうような状態で、授乳も食事もおこなう。
つねに超「密」な状態だ。
保育器も足りないため、未熟児は一日中母親が胸に抱いて、体を温めてあげなければならない。

そんななかでも、生まれたての赤ちゃんの映像は、ただただ愛らしい。
けれども母親や家族には、赤ちゃんの誕生を手放しで喜べない事情がある。

一度も検診を受けず、この病院で出産した女性は、出産してはじめて子どもが双子だったことを知り、途方に暮れる。その夫は交通費がないため、見舞いにも来ない。
まだあどけなさの残る17歳の高校生は彼氏との間にできた子どもを出産した。やはり、彼氏は一度も病院に来ない。
7か月で生まれた未熟児の父親は、まだまだ小さな我が子に「うちに帰ったら電気がないよ。水もないよ」と、話しかける。

それでもこの映画を重苦しく感じないのは、オムツや母乳を分け合ったり、冗談を言い合ったりする母親同士の交流があるからだろう。

不妊手術という選択

「これからはいくらだって浮気をできる!」と陽気に冗談を飛ばすのは、7人目の子どもを出産したのち、不妊手術を受けた女性だ。
国民の大半がカトリック教徒のフィリピンでは、出産を人為的にコントロールすべきではないという考えが根強くあり、中絶は違法だ。避妊に対しても抵抗を持つ人はまだ多いといわれている。
しかしこの病院では、出産を終えたばかりの女性たちに対し、看護師が不妊手術をすすめていた。

この病院の看護師たちは、ベッドも医療機器も足りないなかで大勢の母子に接しているため対応が手荒く見えることもあるが、母子に愛情を持って接していることがそこはかとなく感じられる。
手術の内容を聞いて「怖い」と拒否感を示す母親に、看護師は母体にもこの先の人生を考えた上でも不妊手術はよい選択だ、と説く。厳しい現実を知っているプロの真っ当な意見なのだろう。
一方、卵管をしばる、または避妊具を子宮に入れるという手術に恐怖を持つのも至極自然なことだ。
女性だけに負担を負わせることなく、家族計画が実践されるとよいのだが…。

ドクター・ホセ・ファベラ記念病院の今

この病院はコロナ禍の今、どうなっているのだろうか? 
たまたま、この病院の現在のことを書いた記事を見つけた。

クーリエ・ジャポン
避妊がタブーのフィリピン、パンデミックの只中にベビーブーム到来の「悲劇」

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医師のなかで新型コロナウイルス陽性者が出たため、一時は閉鎖したこともあったというが、今も一日40~60件の出産があるという。
コロナ禍の影響でほかの病院で拒否された女性たちを、受け入れていた時期もあるようだ。
あきらかにこの病院のリソースが不足していることについて、この記事では公衆衛生の改善に真剣に取り組んでこなかった政治のまずさを指摘している。

すべての女性が安心、安全に出産し、すべての赤ちゃんの誕生が心から祝福されることを願わずにはいられない。


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