カッコいい辞典「せ」
「接客」であろう。
しかし一概に接客と申せど、状況は多岐にわたるものだ。
カッコいい辞典における接客とは、
主に、高級レストランなどにおいて存在するウエイターのそれである。
言わずもがな、居酒屋などのフランクな接客も上質なものは素晴らしいし、
カッコいいものではある。
しかし、僕が今アルバイトをしているカフェレストランは幾分か高級志向な故、辞典における接客も自然そういうものになってくる。
ワイシャツにビシッとネクタイや蝶ネクタイにベストを羽織り、黒のスラックスと地面すれすれまで垂れたサロンを腰で結び、
食事におけるお金に代えがたい幸福感を与える接客とはなんとカッコいいものか。
見た目と行動と与える影響がすべて素晴らしいではないか。
さて、僕が今アルバイトで働いていると言ったが、それはつい最近始めたことなのである。
それまではゲームセンターでフレンドリーな接客をしていたが、心機一転スマートな世界に入ろうと思い至ったのである。
なぜなら、スマートな世界にはカッコいいがあふれているからである。
よしそうだとして自分がその世界において通用するであろうか。
確かに疑問はある。
始めて間もないがその疑問が現実のものとなった出来事がある。
それは、ある晴れた日の出来事であった。
僕の働いているカフェレストランはテラス席がある。
その日も一組、男女カップルをテラス席へと案内した僕は、注文を取りにその卓へと向かった。
すると彼氏の方が、
「ピザポテトありますか?」
とはなはだ頓珍漢な問いを発した。
ピザポテト・・・。
正直メニューをまだすべて覚えていない僕は、もしかしてまだ知らないだけで、このお店ではピザポテトを出しているのかとも思った。
何故そう思えたかと言うと、
僕の働いている店はヨーロッパのとある国の料理をふるまう少し特殊なカフェレストランであるのだ。
だからその国で流行っているのかもしれないし、ピザポテトの発祥がその国なのかとも考えられたため、
即座に否定はできなかった。
代わりに、復唱して再度確認を取った。
「ピザポテトですか?」
すると彼氏の方が突然吹き出し、勿論彼女もである。
二人で大笑いしながら、彼氏の方がこう言ったのだ。
「ピザポテトじゃなくて、かける布。外寒いんであったらいいなって」
僕は凄い聞き間違えをした。
今思い返しても不思議である。
ピザポテト。かける布。かけるぬの。
言葉の数しか合っていない。
しかも思い起こすとピザポテトのイントネーションでかける布とは言うはずもなく勿論言っていない。
どこをどう間違えたらそう聞こえるのかしらん。
スマートな世界に足を入れたが、出鼻でくじかれたものだ。
まず、高級カフェレストランでピザポテトが出てくるかもしれないと思った僕の考え方を改めなければならぬ。
ピザポテトはコンビニにしかないとなぜわからない!
自分が恐ろしい。
皆さんもここまでの聞き間違いはないとは思うが、気を付けた方がいいだろう。
先入観と言う悪魔のささやきも忘れてはならない。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
また逢う日まで。