カッコいい辞典「す」
『水面下』である。
水面下とは、水中と言う意味がある。なるほど、そうだとしても水中がカッコいいとはいささか疑問であろう。
余の言う水面下とは、もう一つの意味である「物事の表面に現れない部分のこと」である。
カッコいい辞典に即していうなれば『水面下状態』がカッコいいのである。
しかしここまででは得心しないところがあるであろうから、筆を進めることにする。
余の言う水面下状態の最たるものは、思索中である。
「あの御仁何か考え込んでいるな」そう思われたいのである。
すこぶるそう思われたいのである。
先日も余の思索中(思索モード。以下モード)を世間に遺憾なく誇示する機会があったのでしてみた。
ワークマンへの道程、電車を使いその後徒歩で20分ほどかけての道中であった。
余はすぐに方向を定め、モードをひけらかすことを使命のごとく全うしながら意気揚々と歩みを進めた。
モード全開で闊歩するのは気持ちがいい!
見たまえ、そこの学生諸君!
見たまえ、子供を自転車で運んでいる主婦よ!
見たまえ、歩きスマホなどと言う愚かな行為をしている若者たちよ!
何か考えてる余はすこぶるカッコいいであろう!!
思う存分見せつけた余はふと、あることに気が付いた。
方向が真逆である。
迂闊であった。
最初に方角を決めた時点でうる覚えだった地理を鵜吞みにした、この怠惰の巨獣の様な立ち振る舞いに喝を入れたい思いであった。
モードを見せつけることに没頭するあまり、まさに足元を全く見ていなかったのだ。
そして更にいうなれば、カッコつけたままずっと間違えていたこの振る舞い。
いやはや、すこぶる恥ずかしい。
しかし言わせてほしい。
道中、追い風であった!
向かい風ならまだしも、追い風で押されていたのだ。
天が我が行く手を照らしてくれていたと言い換えても過言ではない。
更に言えば、余の前を一匹のメス猫がちらちらと後ろを振り返りながらあらぬ方向へ誘っていた様な気もする。
これはもう後になってしまっては分からぬが、余が逆方向を向いたのは背後からマッチョに押されていたからかもしれない
もうこうなっては言った者勝ちになってしまうので仕舞にするが、
カッコをつけるのも慎重を期すに越したことはないと分かった。
読者の皆様も十分に気を付けてもらいたい。
以上で手仕舞いとする所存である。
読了誠にありがとうございます。
また逢う日まで。