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少数与党内閣の反転。「楽しい日本」。
1.少数与党内閣の第216回国会(臨時会)
令和6年(2024年)12月24日、石破総理は、臨時国会閉会に当たっての記者会見で次のように述べています。
「すなわち、「国政の大本について、常時率直に意見をかわす慣行を作り、おのおのの立場を明らかにしつつ、力を合せるべきことについては相互に協力を惜しまず、世界の進運に伍(ご)していくようにしなければならない」、このような石橋湛山元総理の言葉を紹介し、私ども比較第一党として、他党の皆様方の御意見、これを丁寧に承り、可能な限り幅広い合意形成を図るように一生懸命努力をいたしてまいりました。」
「今国会では、与野党が侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論を行いました。正に「熟議の国会」、それにふさわしいものになったのではないかと感じておるところでございます。会期末に当たりまして、与野党の皆様、そして、国民の皆様方に心から厚く御礼を申し上げます。誠にありがとうございました。」
少数与党内閣において、予算や重要法案の成立ができないことは、政権の倒壊を意味しかねません。そのことを充分意識した与党の幹事長、国会対策委員会等の動きがなされたと考えます。
12月11日、自民・公明・国民の3党幹事長間でいわゆる年収の壁を「178万円を目指して、来年から引き上げる」ことを合意。
12月11日、維新の前原誠司共同代表は衆院予算委員会で、石破総理に教育無償化に向けた協議を打診。首相は「どうするか検討する」と応じた。
12月12日、令和6年度補正予算を立憲の意向を踏まえ、予算総則を、予備費のうち「100,000,000千円については、令和6年能登半島地震及び令和6年9月20日から同月23日までの 間の豪雨による被害の被災者の生活及び生業の再建その他同被害からの復旧・復興に要する経費に使用する。」旨の内閣修正。
12月12日、補正予算は衆議院を通過。参議院へ。12月17日、成立。
政治資金規正法改正では、自民は、企業・団体献金は死守しつつ、例外的に支出相手を非公表にできる「公開方法工夫支出」創設は野党の反対で撤回。企業・団体献金の禁止をめぐっては、立憲民主党などが提出した法案について「来年3月末までに結論を得る」ことで与野党が合意。12月24日に成立。
令和7年度予算編成も年内に終了できたことも合わせて、少数与党内閣の第216回国会という最初の関門は突破したものと言えましょう。
ここで、NHKの取材による、12月24日の各党の幹部のコメントを掲げたいと思います。
自民 森山幹事長「少数与党 各会派の意見は真摯に受け止め」
自民党の森山幹事長は記者会見で「補正予算が一部の野党の理解もいただいて成立できたことは何よりだった。いまは、来年度予算案の編成や、税制改正に向けて全力を傾注していくことが大事だ」と述べました。
また「党内や公明党、そして野党とも政策について向き合って議論できたことは1つの収穫だった。少数与党なので、それぞれの会派の意見は真摯(しんし)に受け止め、政策や予算に反映できるものはその努力をしていくことが大事だ」と述べました。
公明 斉藤代表「少数与党 厳しい状況も成果出した」
公明党の斉藤代表は党の両院議員総会で「少数与党という大変厳しい状況だったが、補正予算や政治改革関連法の成立、それに、税制改正で公明党が合意形成の要となって成果を出した。通常国会では、来年度予算案の早期成立を目指し、自民党と連携して与党として頑張りたい」と述べました。
立民 野田代表「従来動かなかったテーマ 前進できた」
立憲民主党の野田代表は記者団に対し「委員長のポストを補正予算の修正や政策活動費の全廃など、従来は動かなかったテーマを前進できたことは一定の成果だった」と述べました。
その上で「来年度予算案の審議では何を勝ち取るのかよく戦略を練り、充実した審議をしていきたい。企業・団体献金の禁止や選択的夫婦別姓の導入など、30年に1回ぐらいの改革を実現することで野党第一党としての存在感を示していきたい」と述べました。
維新 前原共同代表「野党連携強めていきたい」
日本維新の会の前原共同代表は記者会見し「政治改革では、旧文通費が全面公開することになり、政策活動費の廃止も与党が賛成する形で達成できることになった。企業・団体献金の禁止も野党がすべて賛成すれば実現する状況なので、来年3月に向けて野党の連携を強めていきたい」と述べました。
その上で「今は一定程度の規模を持つ野党の協力がなければ法案も予算案も1つも通らない環境であり、日本維新の会の果たすべき役割は極めて大きい。しっかり政策の弾込めをしていきたい」と述べました。
国民 古川代表代行「年収103万円の壁引き上げ 道半ば」
国民民主党の古川代表代行は記者団に対し「与党が過半数割れする新しい政治状況の中で一定程度の成果が出せたと思っているが、新しい政策決定のプロセスに与野党とも十分に対応できている状況ではない。国民が直面する課題に解決策を見つけて政治を前に進めることが重要だ」と述べました。
その上で「私たちが目指している『年収103万円の壁』の引き上げはまだまだ道半ばだ。本格的な交渉は年明けになると思うが、今後の交渉が来年度予算案などの賛否に影響を与えることは十分考えられる」と述べました。
共産 田村委員長「『裏金』議員 弁明拒否できず 明らかな変化」
共産党の田村委員長は記者団に対し「衆議院選挙での厳しい審判を受けて、自民党の『裏金』議員が弁明を拒否できなくなったことは明らかな変化で、政治改革をめぐっては国民の前での議論が必要だという私たちが求めたとおりに行われた」と述べました。
その上で「残念ながら企業・団体献金禁止の実現には至らなかったが、与党だけで国会運営ができない状況にあることは間違いなく、さらに磨きをかけて『少数与党国会』が国民にとって要求実現の場となるよう力を尽くしていく」と述べました。
れいわ 山本代表「経済不況 底上げの論戦行われなかった」
れいわ新選組の山本代表は記者会見で「30年、日本だけが先進国の中で経済不況が続き、コロナで国民は疲弊して中小企業はバタバタ潰れているのにどう底上げしていくかという論戦は行われなかった。どこの政党も小粒の政策ばかりを出していたが、それで懐があたたまるのは一部だけだ」と述べました。
その上で「国民の6割が生活が苦しいという状況なので次は国民や中小企業が豊かになる番だ。手取りを増やすのであるならば大規模な減税と大胆な社会保険料の減免と給付が必要だ」と述べました。
あの少数与党内閣の時はどうだっかのか、と後から思い出す時のためにも、ここに掲げておきたいと思います。
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2.「楽しい日本」?!
さて、石破総理の12月24日の記者会見では、続いて「楽しい日本」と言う聞きなれない言葉が出てきました。石破内閣の「防災庁」構想と並ぶ目玉施策である、新しい地方創生本部における「基本的考え方」の提示の文脈で示されました。
私も、生前、随分と御指導を頂いたのでありますが、亡くなられた堺屋太一先生が最後に著されました著書「三度目の日本」という本であります。お読みになった方もおられるかもしれません。この「三度目の日本」という著書において堺屋先生は、明治維新の中央集権国家体制において、「富国強兵」というスローガンの下で「強い日本」というものが目指されたと。戦後、敗戦からの復興や高度経済成長期で目指されたのは、「強い日本」に代わる「豊かな日本」というものでございました。「強い日本」や「豊かな日本」を実現するために、合理的な選択として、あえて国策として一極集中が進められてきたと、このように堺屋先生は論じられておったと記憶をいたしております。それが終わったのが平成という時代であったと。それではこれから先、強いことも豊かなことも、それは価値観として評価すべきではありますが、我々はどういう日本を目指していくのかということであります。堺屋先生はこの本の中で、「楽しい日本」、これを目指すべきだというふうに論じておられます。
(1)堺屋太一『幕末、敗戦、平成を越えて 三度目の日本』
この話を聞いて、早速、横浜中央図書館の蔵書を見ると、当該本があったので、予約し手にしました。200頁弱の新書本(祥伝社、2019年5月10日初版第1刷発行)で、堺屋太一氏の遺作とされるもの。1時間ちょっとで読めるものですが、実はかなり刺激的なものでした。
本書における堺屋太一氏の紹介文は次のとおりです。
1935年、大阪府生まれ。東京大学経済学部卒業後、通商産業省入省。日本万国博覧会や沖縄国際海洋博覧会を企画し、実現した。
在職中の1975年、『油断! 』でデビュー。翌年発表した予測小説『団塊の世代』はミリオンセラーとなり、「団塊の世代」の語を世に送り出した。
経済企画庁長官や内閣官房参与などを歴任。その一方で、歴史小説、予測小説、経済・文明評論など多岐にわたる分野で精力的に執筆する。
2019年2月8日、逝去。本書が遺作となる。
Amazonの紹介文には、「1962年の通商白書で「水平分業論」 を展開して注目され、70年には日本万国博覧会を手がけた。」ともあります。私などは、NHKの大河ドラマ『峠の群像』や『秀吉』の原作者の印象も強いです。
「今、日本人は3度目の「敗戦」状態にある。」で始まるこの書の中で、価値観とは、「何が美しいか」という美意識、「何が正しいか」という倫理観、この2つからなるとし、次のように続きます。
「「敗戦」とは、この価値観が変わることなのだ。「何が美しいか」「何が正しいか」という意識と考え方ががらりと変わることを、世の中の大転換、つまり「敗戦現象」と呼ぶのである。」としています。これは、ちょっと、、、大変なことです。
著書では、2度目の日本は、2010年代に、3度目の「敗戦」に直面しているとし、その2度目の日本とは、第2次世界大戦後の日本ですが、それが何だったのかを言及しています。
ここの部分、かなり断定的に書かれています。それは、今風に言えば、フェイクとも見られるような断定的な言及ですが、堺屋氏が当時、通商産業省の役人としてその構築に関与したため、正しいものだろうと考えます。
(2)「太陽の塔」の下で示した「コンセプト」。
堺屋太一氏が通商産業省の官僚として関わった昭和45年(1970年)の日本万国博覧会。岡本太郎氏の「太陽の塔」がシンボル的存在。テーマは「人類の進歩と調和」として有名ですが、コンセプトは「規格大量生産の工業社会なる日本」を見せることだったとされます。
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2度目の日本で目指されたものは、第2次大戦での米国に対する敗戦の経験、日本は良いものは作れたが「規格大量生産に乗り遅れたから戦争に負けた」という考えから、官僚主導での「業界協調体制による規格大量生産の近代工業社会の形成」を経済官僚として推進したと堺屋氏はしています。そのある程度の成果の発表と今後の方向性の提示が1970年の大阪万博だったのです。
官僚は、次の5つの基本方針を持ってました。
①東京一極集中
②流通の無言化
③小住宅持ち家主義
④職場単属人間の徹底
⑤全日本人の人生の規格化
この辺りはゾクゾクするほとの記述で、是非、本を読んでいただきたいと思います。官僚が、国民の生き方をコントロールした様子が、かなりの真実味を持って語られます。
行政指導をしやすいように、経済・産業の中枢管理機能、情報発信機能、文化創造活動を、かなり強力に東京に集める様子が描かれています。戦災を逃れた京都の南座を除き、花道のある歌舞伎ができる施設を東京以外で認めないなどは象徴的な事例です。
田中角栄総理の「子弟は東京で出世させろ」という思想にも乗り、頭脳機能を東京に集め、地方には公共企業と工場分散を図ることが加速されます。
私も父親が民間企業で工場が地方にできる度にその工場の経理を軌道に乗せる役割を担っていたので、転勤族で、小学校で3回転校しています。
お店での会話、近所付き合いを否定。生まれたら託児所か幼稚園に入り、小中高大と切れ目なく進み、会社に就職し、蓄財し、結婚し、こどもを生み、共働きでこどもを育て、年金に入り、老後はこどもに頼らず年金で夫婦2人で過ごす。それが素晴らしい規格大量生産を実現する会社人間の「天国」の状況をもたらす。楽しくなくても安く手に入る「豊かな日本」が官僚によって描かれたとされます。
私の人生とも重なるので、複雑な心境です。就職した後の何年間は、「24時間働けますか」と仲間で肩組んで大合唱してました。規格化された人生の上にいるのですから、多くの人々は、そこに「天国」を見出していたのは事実だと思います。
そうすると、どういうことが起きるか。官僚により描かれた「天国」への道からはみ出したくない。内向きで、繋がりを否定する。規格を外れることを望まない。「欲ない、夢ない、やる気ない」ということで、イノベーションも生まれにくく「ジャパン・アズ・NO1」から、「ジャパン・パッシング」、そして今日の大きく世界から取り残された経済成長状況、それが第3の敗戦なのであるとしています。
(3)「楽しい日本」には「地獄の風」が必要?!
「幸せ」かもしれないが、「夢と楽しみ」がない官僚が作ったとされる「天国」は、本当に幸せか?「地獄の風」を送り込み、その「天国をやめよう」とした方が良いのではないか。そのためには、「楽しみを正義にする」ことが大切と堺屋氏は説いています。
「楽しみ」は何で生まれるか。今までの官僚主導を破壊し、自由化を進め、多様性、そして「上達する」ことを是とする。ロボットとドローン、自動運転そしてビックデータによる第4次産業革命が進む世の中で、「上達する楽しみ」を持たなければならないとしています。
官僚が目指した「豊かな日本」を変えなければならないことは分かりますが、この堺屋氏の「楽しい日本を正義にする」は、「上達する楽しみ」というヒントとなる言葉はあるものの、もう少し語って欲しかったというのが正直なところです。
私が関わって来た、主権者教育、市民アドボカシー、「現在総有」、「みんとしょ」等は、2度目の日本で官僚主導で目指されていた「豊かな日本」からはみ出す、繋がりを基礎とし、能動的に社会に向き合うものでした。「豊かな日本」の中での様々な行き詰まり感を基に、私も含む様々な人々の動きがあったのも事実です。
私は、主権者教育の場等で、「「正義」とは、「みんながみんなで幸せになること」。「みんながみんなで幸せになること」とは、難しい。だからみんなで議論して探る。」という言葉をよく使いますが、「楽しい日本」が「正義」と結びつけられたところで、様々な思考、議論が必要になるのではないかと思います。
3.石破総理は何を目指す。
この「楽しい日本」について、12月24日の会見で、石破総理は、次のように続けます。
私はこれを読んだときに、「強い日本」とか「豊かな日本」というのは感覚として分かるのですが、「楽しい日本」というのは何だろうかとずっと考え続けてまいりました。
地方において、人口が増えていません。経済的にも豊かで、それは、国土交通省が出しました、いわゆる所得分布の中央値からプラス・マイナス10パーセント、全体で20パーセントの中間的な御家庭、ここに焦点を絞ってみると、それは、地方も経済的に豊かであるということでございます。もちろん、地方は風光明媚(ふうこうめいび)で、食べ物もおいしくて、人情も豊かで、だけれども、何でそういう地方において人口減少が止まらないのだろうか、ということでございます。問題の本質はそこにあるだろうと私は考えております。特に、人口減少は、若い世代、そして女性の方々、そういう方々が地方から都市へ流出していくと、こういうことが極めて顕著でございます。今の多様性の時代にあって、自己実現の場として地域の魅力を高め、都市と結びついた「楽しい日本」を実現すると、そのような観点から地方創生の検討、そして実現、これを図ってまいりたいと思っております。
多様性を是とし、「上達を楽しむ」を「自己実現」という言葉に置き換えると、堺屋氏の主張と重なるところがあります。
ただ、それ以外は、主に「地方創生2.0」の取組等の中で見て行く必要があるかと思います。
ところで、石破総理は、この『三度目の日本』を引用することで、「何が美しいか」「何が正しいか」という意識と考え方をがらりと変えることを、世の中の大転換を、実は目指しているのでしょうか?
私は、あり得ると思います。
いやいや、単に、石破内閣の「防災庁」設置と並ぶ看板政策の「地方創生2.0」の方向性を探す中で、「楽しい日本」というものをそこだけ切り離して持って来ただけだ、という捉え方もできると思います。
堺屋氏も「歌手3年、総理2年で使い捨て」という霞が関で流行った言葉を掲げ、反官僚の総理は、退陣させられる旨も書いています。「楽しい日本」への転換は、官僚主導で作られた「豊かな日本」の否定ですから、反官僚そのものです。
ただ、石破少数与党内閣は、与党の中からも、いつ倒れてもおかしくないとも思われるように、官僚としても、これを倒すうまみも、そして余裕もないのではないかと思います。低欲社会、少子高齢化の進展、世界から大きく遅れる経済成長の状況、こうした「敗戦」を感じさせるものに加えて、少数与党内閣の存在も、2度目の日本の行き詰まりを表わすものとして、「敗戦」をより強く認識させるものとも言えます。
だとすると、石破総理は、これらを逆手に取り、世の中の大転換を目指すこともあり得るのではないでしょうか。まさに少数与党内閣の反転です。
とは言え、石破総理は、「楽しい日本」をまずは官僚に描かせることになると思いますが、官僚が今までの「豊かな日本」と決別し、新しい価値観の創出にまで踏み込むことができるでしょうか。自分たちが作った「天国」に「地獄の風」を吹かせてまで新しい「楽しい日本」を作るのです。前述の5つの基本方針の逆をやれば良いのでしょうが。
官僚主導で国民の生き方まで導方向づけし、あまりも立派に「豊かな国」を作り出した反作用とも言うべき「働き方改革」という思いもよらぬものが自分たちのところまで押し寄せ、「ブラック」と認定された霞が関の人材集積力の低下もあります。もともと多様性とか、「上達を楽しむ」という、集団ではなく個人ベースの動きに官僚は得意の行政指導も効果を持たすことは難しく、不得手ということもあるかと思います。
①地方分権(「みんとしょ」は家賃の高い東京より、地方で発展。)
②流通の有言化(おしゃべりの肯定。話せる図書館=「みんとしょ」。)
③借地借家推奨(「現代総有」では、「所有権を眠らせ、みんなで利用する」ということで親和性がある。)
④勤務の多様性・副業等の肯定(「みんとしょ」の棚主は終身雇用でない人も多い。地域の繋がりで「こども選挙」や地域公的活動の展開も。)
⑤人生の反規格化・多様な生き方の探求(主権者教育、市民アドボカシー)
2番目の日本の官僚主導の5つの基本方針の逆を掲げてみると、私たちが在野でいろいろやって来たこととの親和性が非常に高いことも見えて来てしまいました。官僚は官僚で頑張ってもらいながら、上からの価値観の転換だけではなく、市民レベルで、様々な価値観と葛藤しながら、新しい「何が美しいか」「何が正しいか」を作り上げていくこともやっぱり大切なのだなと認識しました。
石破総理、「楽しい日本」で、少数与党内閣を逆に武器にして、実は大胆な価値観の転換という反転攻勢に出たのではないかと思いつつ、実は、自分たちの歩みの大切さということも再認識した年の瀬でした。
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おわりに
<田中角栄と暫定税率>
堺屋氏の本書の著述で、別の個所で興味深いのが次の点です。
田中さんは政権構想の『日本列島改造論』で、新幹線や高速道路による全国交通網の全体像を明らかにし、実際にそのとおりに進めた。これは官僚が創った政策に乗った面が大きい。というのも、「列島改造」の財源は官僚のアイディアで捻出したものだったからだ。すなわち「ガソリン税」である。」「自動車の燃料に税金をかければ、たくさんの税収が得られる。それを目的税として使うのだ。当時、すでに揮発油税と地方揮発油税(この2つを合わせて「ガソリン税」と呼ぶ)があったが、その税率を上乗せして「列島改造」の土木工事を行なった。これを「暫定税率」という。通産省の鉱山石炭局、まさに私が在籍していた部署が発案したのだ。そのとき、官僚が発想したものと田中さんの意見とは、かなりの部分で一致した。」「そのころから戦後の「官僚主導」が始まる。戦後の官僚たちは、田中角栄という人気者を利用して大いに発展したのだ。
石破少数与党内閣は、令和7年度予算の成立のために、国民民主党の協力を得る過程で、ガソリン税の暫定税率をどうするかということも議論することになるでしょう。石破総理がこれに踏み切る場合、「手取りを増やす」という国民民主党の趣旨とは別に、東京一極集中を強力に推進し、「豊かな日本」の構築に大きく関与した田中内閣、そして官僚がやって来たことを否定して、「三度目の日本」の構築に踏み込んだとも取れなくもありません。結果的かもしれませんが。
石破総理が、父親の石破二朗氏が死去後、二朗氏の友人であった田中角栄元首相から政界入りを薦められ、決断したこともあります。そうした縁も含めて何が生み出されるか、注目したいと思います。