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ネット選挙の展開。石丸伸二都知事候補の得票。

(冒頭写真は、2024年7月5日東洋大学赤羽台キャンパスでの都知事選模擬選挙時の写真。許可を得て撮影。)

2024年7月7日の東京都知事選挙の結果として注目されるのは、小池ゆりこ候補の291万票余に次いで、165万票余を獲得した石丸伸二候補の得票であろう。3位の蓮舫候補が128万票であり、前安芸高田市長で、YouTubeで積極的な発信をしている人ではあったが、政党の推薦や支援を受けずに立候補した者としては、異例の得票であったと言えよう。

私も選挙期間の初日に、飯田橋付近で石丸候補の車が街頭宣伝をしているのを目にしたが、元国務大臣で参議院議員の蓮舫氏が立候補表明した時点で、先に立候補を表明していた石丸氏への注目が一時ほとんどなくなった感があったため、どこまで票を獲得するのかなという程度の印象であった。それだけに、私にとってもこの結果は意外で気になるものであった。

1.石丸候補の得票に関する分析記事

選挙後に、様々な分析がなされている。その中で、まず次の3つを取り上げたい。

(1)NHK首都圏ナビ(2024年7月8日)「東京都知事選挙2024勝因と敗因小池百合子氏石丸伸二氏蓮舫氏多くの支持を得た自治体は」

石丸氏は「既存の政党に属さない人間が東京の知事になれば世界が一変する」などと訴え、ボランティアとともにSNSやライブ配信を通じて若者への浸透に積極的に取り組んできました。
また、都内各地を回って街頭演説を繰り返し、知名度の向上を図りました。
その結果、NHKの出口調査では、石丸氏はいわゆる無党派層の30%あまりから支持を得ました。蓮舫氏を上回り、小池氏とほぼ並びました。
ただ小池氏は自主的支援を受けた▽自民党の支持層の60%台半ば、▽公明党の支持層の80%あまりから支持を得ています。
年代別でみると石丸氏は▽30代までは最も多く支持を集めた一方、▽40代以上では、いずれの年代も小池氏を下回っています。
訴えが幅広い層に浸透しなかったことが敗因の1つとみられます。

NHK首都圏ナビの記事から抜粋

①「ボランティアとともにSNSやライブ配信を通じて若者への浸透に積極的に取り組んできました。」、出口調査より、②「無党派層の30%あまりから支持を得ました。蓮舫氏を上回り、小池氏とほぼ並びました」、③「石丸氏は▽30代までは最も多く支持を集めた」ということが示されている。

なお、同記事では、「小池氏は、62のすべての自治体でほかの候補を上回る票を獲得しました。」「石丸氏の得票率が特に高かったのは、世田谷区、渋谷区、中央区、品川区、目黒区、港区で、27%以上でした。」としている。

(2)産経新聞(2024年7月9日18時公開)「石丸伸二氏、都知事選のYouTube関連動画の総視聴回数で“圧勝” 唯一の1億回突破」

動画投稿サイトYouTubeの運用サービスなどを行う情報通信会社エビリー(東京都渋谷区)は、7月7日に投開票された東京都知事選を巡り、3選を果たした無所属現職の小池百合子氏(71)、無所属新人の前広島県安芸高田市長、石丸伸二氏(41)、無所属新人の前参院議員、蓮舫氏(56)、無所属新人の元航空幕僚長、田母神俊雄氏(75)の主要4候補に関するYouTube関連動画の本数、総視聴回数の分析結果をまとめた。本数、総視聴回数のいずれも石丸氏が群を抜いており、得票数で2位となった躍進の背景にYouTubeの存在があったことが改めて裏付けられる結果となった。
同社では6月21日から7月6日の選挙期間中について、登録者数が1000人以上の国内YouTubeチャンネルの視聴データが分析できる同社の「kamui tracker」(カムイトラッカー)を使い、関連動画の本数と総視聴回数を調査。タイトルに候補者の名前が含まれている動画を「関連動画」として判定した。
動画本数では1位が石丸氏(2885本)、2位が蓮舫氏(1644本)、3位が小池氏(1496本)、4位が田母神氏(536本)で、動画のタイトルに含まれていたキーワードでも「石丸伸二」が多く含まれていたという。
総視聴回数は1位が石丸氏(1億5402万271回)、2位が小池氏(9054万3653回)、3位が蓮舫氏(8880万4900回)、4位が田母神氏(2502万9974回)となり、石丸氏が唯一、1億回を超えた。
石丸氏が多くの動画で取り上げられた理由として、同社は「(石丸氏が)演説で『動画を拡散してください』と呼びかけ、SNSを特に活用していたことが挙げられる」としている。

産経新聞報道より

①「躍進の背景にYouTubeの存在があったことが改めて裏付けられる結果となった」とされる。②「石丸氏が多くの動画で取り上げられた理由として、同社は「(石丸氏が)演説で『動画を拡散してください』と呼びかけ、SNSを特に活用していたことが挙げられる」としている」というのは(1)の①の「ボランティアとともにSNSやライブ配信を通じて」という部分とも重なるが、これは、2で改めて触れたい。

(3)米重克洋・JX通信社代表取締役(2024年7月8日)「石丸現象とは何か 石丸伸二氏「165万票」の中身を独自データで分析する。」

調査では、実際に投票先を選ぶうえで「参考にした情報源」を聞いた。その結果、石丸氏の支持層はYouTubeの動画を「大いに参考にした」「ある程度参考にした」割合が合わせて5割近くに上った。
小池百合子氏、蓮舫氏はいずれも1割程度で、回答者全体でも2割程度であることを踏まえると、石丸氏支持層がYouTubeを参考にした割合は際立って高い。
特定候補の支持層に限らず、都知事選ではYouTubeで政治や社会の情報を収集する人の投票意欲が高めだったこともわかった。
都知事選の投票に行くか否か(投票意欲)を「一日で最も長い時間を使うメディア」別に見ると、「YouTubeの動画」を主に使う人は、65%が投票に「必ず行く」か「期日前投票を済ませた」と回答した。この水準は「新聞」71%、「X(旧Twitter)」65%に次いで高い。

米重克洋氏のYahooの記事より抜粋

米重氏は、投開票日1週間前に東京都内の有権者2500人あまりを対象にインターネットで情勢調査を実施したとされる。①「石丸氏支持層がYouTubeを参考にした割合は際立って高い。」としている。米重氏の分析については、3で触れる。

東洋大学赤羽台キャンパス前の掲示板。7月5日の段階で立候補者の数の割には貼られているポスター数は少なめ。

2.比較する意味で、参議院比例区で54万票獲得の山田太郎議員の選挙を振り返る。

本稿では、政策の内容については基本的に言及しないが、一つだけ参考に掲げると、早稲田大学マニフェスト研究所の「東京都知事選2024 マニフェストできばえチェック(前回⽐較含む)」では、安野たかひろ候補が50点と突出しているが、小池候補34点、蓮舫候補32点、石丸候補30点と拮抗し、石丸候補の30点は、2016年、2020年の小池候補を上回っている。石丸氏の選挙公約等もそれなりの内容と言うことができよう。

https://maniken.online/file/dekibae_tokyo2024.pdf

やはり、石丸候補の得票については、何より選挙手法に焦点を当てて考える必要があるのではないかと考える。
石丸氏の記事にあった「演説で『動画を拡散してください』と呼びかけ」ているというのは、2019年の参議院比例区で54万票を獲得した山田太郎議員の選挙手法の説明で聞いた話でもある。
業界団体等の支持がない中での山田氏の得票は、「驚きのネット戦略」として注目されていた。山田氏の秘書としてネット選挙責任者であった坂井崇俊氏のセミナーに、実は私も参加していた。

2019年9月21日のセミナーの案内版

坂井氏の講演について、当時の私のメモには、印象的な点がいくつか記されている。

140人ほどの聴衆。半数ほどは地方議員か。
・積極的にツイッターでリツイート等する勝手連との連携。
・キーワード「シェア」。
・ネットでは浮動票を取りに行くのではなく、固定票を形成する。
・(得票)=(実績・期待値)×(宣伝)+(組織)×(投票要請)で、(実績・期待値)が大切。
・イデオロギーからイッシューへ。
・支援には政策で答える。

坂井氏の講演における私のメモより。

坂井氏の話の肝と思われる部分を再現してみた。

坂井氏の講演のメモより作成。
坂井氏の講演のメモより作成。

山田太郎議員自身が語ったものについては、同時期のインタビューに答えた記事があるので、次に添付する。

坂井氏の講演も踏まえ、山田氏の発言の中で重要なものとして、次の3点を掲げる。

①Twitter(現X)を中心に、ネットボランティアを最大限活用した。「Twitter上で僕のことを応援してくれる人に推しマークとして私のトレードマークであるリボンのマークとして「⋈」を付けてもらったんです。
このマークを付けた人がネット上に約1200人、全員把握できていないのでもっといらっしゃるかもしれませんが。この方々から選抜して「モナーダ(MONARDA)会員」というカテゴリも作ったんです。前回の選挙でいう「レベル3」ですね。」、「いくら山田太郎の公式アカウントで拡散しようと思っても限界があるので、モナーダ会員の人には鍵アカと限定のLINE@(黒リボン研究所⋈)で毎日「指令」という形でミッションを出していたんですね。これやってください、あれやってください、という。拡散を複数で行ってもらうのには、前回の選挙のときはレベル1、レベル2、レベル3、と勝手に目視でやっていたんですが。」等としている。

②坂井氏の言う「(実績・期待値)」につながるものとして、また、「イデオロギーからイッシューへ」ということで、「今回の参院選では5つの政策カテゴリ(表現の自由、児童養護・障がい者、年金、経済、ネット時代の法整備)を決めていました。」とあり、ニコニコ動画の「さんちゃんねる」や書いたものを示していた。これが共感を生まなければ、「モナーダ」等のネットボランティアも生まれない。

③石丸氏に先駆けて、街宣を拡散の機会として行っている。「街宣は事実上秋葉原ベルサール前のみでした。そこでだいたい1時間半から2時間ひたすら街宣をしていました。これには理由があります。たくさん街宣にきてもらう必要はなくて、その中にSNS上で山田太郎について書いてくれる人がやっぱり欲しかったんです。演説をはじめた直後は一人か二人ポツポツいるだけですが、頑張れば観衆は1時間半で100人以上にはなります。最後の方で「書いて書いて、自分の言葉で拡散してください」と促すと2割から3割くらいの人はネット上で書いてくれるんです。拡散してもらう内容も、「すごかった、感動した」といった感情・感想ではなく、「何を気に入ったのか」を書いてもらっていました。たとえばその演説で言った政策3つに触れてそれを書いてくれ、ってダイレクトに街宣の場で言うんです。」「街宣はとにかく僕の動画配信である「さんちゃんねる」と同じなんですね。ひたすら政策を話し倒して、共感してくれた人にはいろいろキーワードを拾ってもらって拡散してもらう、と。地方でも街宣をやりましたが、「その地域に来てくれた共感」を生むためです。地方街宣でも最後に写真を撮ってもらって、街宣と同じく「書いて書いて」と促します。」としている。


3.メディアシフトの中で、ネット選挙の進化

2019年の山田太郎議員の得票54万票が、「驚き」とされたが、石丸氏の得票は165万票である。

坂井氏の言う「(実績・期待値)」に関しては、石丸氏も比較的短めの動画で端的に示していたと言えよう。
山田氏がTwitter(現X)中心にネットボンティアというファンを指令等かなり意図的に活用することにより共感が拡散されたのに対し、石丸氏は、YouTubeの動画を中心に、ネットボランティアによって、あるいはチャンネル登録者数により収益を得られ、共感より収益目当てかもしれないYouTuberによっても拡散がなされた。

前出の米重氏は、選挙ドットコムちゃんねるで次のように指摘している。

米重氏は、もともとYouTubeで力のある「コンテンツ」だった石丸氏が、「YouTubeの力で」増大していった流れを、次のように指摘します。
選挙戦で本人が配信を行う
いろいろなYouTuberが中継、切り貼りなどで編集、発信する
石丸氏のコンテンツがさらに増える
さまざまな形でレコメンドされ、拡散される
石丸氏に興味関心があると見なされ、どんどんコンテンツが紹介されていく
共感度が上がり、投票に行こうとする強い意志を抱くようになる
この結果、「まるで組織票のように、期日前から選挙に動員された」と米重氏は振り返ります。
米重氏「とくに都心部、区部での石丸さんの集票力は目を見張るものがあったと思います」
・・・・・・
水内氏「今野さんも言ってたけど、アルゴリズムで、石丸さんがYouTubeでいっぱい出るようになったら、よけい相乗効果になるのかなあ」
米重氏は、フィルターバブル※1やエコーチェンバー※2という言葉を紹介し、「アルゴリズムによって、自分の興味関心に沿った情報が出てくるようになった。その結果、みんな見ているもの、聞いているものが違うようになり、みんな脳みその中身が違う『一億総メディア時代』と呼ばれる状態ができ、ソーシャルメディアにシフトした状態になった」と説明します。
※1 ネット利用者個人の検索やクリックの履歴を学習することで、ユーザーの意志にかかわらずパーソナライズされた情報のみを表示し続けた結果、ユーザーが自分の考えや価値観が「バブル(泡)」の中に孤立した情報環境になること
※2 SNS上で自分と似たような価値観や考え方のユーザーをフォローすることで、同じような情報ばかりが流通する情報環境になること
・・・・・・
米重氏「我々が見えている普通の意味での『地盤』とは別に、『ネット地盤』というものが実はある。ネット地盤の中にはYouTube、X、それ以外のメディアを見ている人もいる。そういうときに、YouTubeは特に接触時間も長いし、政治社会の情報源としては、選挙の動員力も高いことがストレートに現れた可能性があります」
・・・・・・
今野氏は、中田敦彦氏が自身のYouTubeチャンネルに3人の立候補者を呼んでインタビューをしたことに触れ、「ああいうの、テレビやらないじゃない。特定の候補だけを取り扱ってはいけないんじゃないかって」と指摘します。水内氏「そこを厳格にやるんですよね。新聞だって行数を決めたくらいで」旧来のマスメディアは、「各候補者に公平に」情報量を限って紹介することに腐心しますが、「1人ひとりを呼んでじっくり話を聞くことはない」と2人は指摘します。
・・・・・・
米重氏は、従来の4媒体に代表されるマスメディアに、放送法などの影響を受けないYouTubeが加わったのが決定的なできごとだったと指摘します。米重氏「放送法などのしがらみがない形で、60分ワンショットで候補者のインタビューを出すような、普通のテレビ局では考えられないことができる人たちのほうが強くなる可能性はある」

選挙ドットコムちゃんねる記事より抜粋


4.進化したネット選挙時代に候補者はどう有権者と繋がるか。

基本的に2で取り上げた坂井氏の指摘がネット選挙の分析として適切であると考える。ただ、2024年のYouTubeの活用は、2019年にネットボランティアに、主にTwitter(現X)を舞台に、時に指令もしながら行ったものより、より多くの共感を引き起こし、より多くのファンを動員し、共感を驚異的に拡散し、「ネット地盤」を動かし、2019年の得票の3倍超の得票をもたらした。国政選挙では候補者も多く、票が分散する傾向があり、単純に比較はできないかもしれないが、165万票は実に大きな数字である。

選挙で有権者の投票を得るにはを、現状において大胆にまとめると次のようになるのではないか。

(1)「(期待値・実績)」の適切な提示がどんな時でも必要である。
それは、端的に伝わらなければならない。
そのためには、「イデオロギーからイッシューへ」。
ただ、イデオロギーを軽視するものではなく、イデオロギーにこだわるなら、それをイッシューという分かりやすい形で示す。
2019年の山田氏の例からすると、5つぐらいのイッシューとそれに対する政策を示し、それぞれの分野での推し(ファン)を獲得する。
山田氏は、秋葉原と言う場所で、強力な推しの要素を持つオタク(ファン)を相手に、アニメ等も含む表現の自由の確保を重視する政策を演説。非常に強力なネットボランティアを確保。

(2)「(期待値・実績)」の政策は、動画で端的に示す。
法規制(忖度?、公平中立という言葉に縛られた思考停止?)等の縛りがある既存マスコミより、端的でもある程度まとまって政策が示せるYouTubeでの展開が現状では一日の長がある。新聞の発行部数の減少、スマフォ端末の普及、広告宣伝料収入のネットへの移転等もある。
動画が共感されると、時に編集されたり切り取られたりすることもあるが、いずれにしろ大いに拡散されることになる。

(3)ファンダム(推し)が社会を動かすことの認識を。
SIPS理論を充分認識した政策提示、共感の獲得、ファンの動員、共感の拡散、そこに焦点を絞った選挙活動が必要となる。
情報の氾濫、SNSによる情報の最適化、アルゴリズムによる推し情報のネットからの提示、共感の拡散の拡大、「ネット地盤」の動員。
私もnoteで、「「ファンダム」という薬を「行使の民主主義」にいかに結びつけるか。」を書いたが、今日のネット社会は、ファンダムが社会を動かすことをより強くする方向で動いていると言えるのではないか。

最後は、少し乱暴にまとめた感もある。選挙後の様々な言動が、候補者個人の言動への攻撃のような形で、対立と混乱を増長する風になっていることに悲しさを感じる。165万票については、そういう特定の言動に左右されるものではなく、ネット社会における候補者の政策をどう有権者に届けるかという観点から分析すべきものではないか。そうした意味から、多少乱暴でも、現時点での考えをまとめてみた。
民主主義は、完成したものでは決してなく、常に進化していかなければならないものと考える。「シン民主主義」は常に求められている。全くの正解というものは決して得られないかもしれないが、それに向けて頭を動かし、汗をかいた者に、有権者の投票は集まるということを考えたいと思う。

東洋大学赤羽台キャンパスでの都知事選模擬選挙の時の写真





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