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ズブの素人が写真個展を開くまで・前編

私は若いころから一眼レフ(フィルムカメラ)で家族や山の写真を撮ってきました。1980年代にアサヒカメラの教科書を読んで写真撮影の独学はしていましたが、自分が撮りたいものを撮っているだけで、人様に見ていただく意識はまったくありませんでした。

にもかかわらず、70歳で仕事を引退したとき、
「75歳までに写真個展を開く」
という、かなり無茶なビジョンを掲げ、周囲に公言しました。(2020年)
これは私が何かをやり遂げたいときによく採る手法で、ビジョンを周囲に公言して自分の逃げ道を塞ぎ、自分を追い込みながらどうすれば実現できるか、ブレイクスルーを起こそうという企みです。

ちなみに”ビジョン”はご存じのように、”目に見える”という意味で、私の場合は5年後に神戸市内で写真展を開催して、多くの友人や家族に見ていただいている様子をイメージしています。
私はこれまで、資格を取得するとかマイホームを買うといったビジョンを描いて達成してきました。また会社の命運を賭けた大プロジェクトを成功させるといった時にも、常にビジョンを掲げてそれを達成してきました。
ビジョンの力を強く信じています。

私は写真展の知識も経験もスキルもなく、無いないづくしの試みで、何をすればいいのか全く分かりません。手探りのように試行錯誤しながら目標を達成するには、目的の光が見えていることが重要で、ビジョンの力が欠かせません。
また、ズブの素人が写真撮影やレタッチ、印刷、額装、展示など、何も知らない状態から一歩ずつ進んでいてはビジョンの達成は困難です。

そこで、私はビジョンを達成するために、ゴールから逆算で1年ごとに「何を達成しないといけないか」という戦略的な計画を考えました。
大雑把にご紹介しますと、
・2025年 会場に合わせた展示設計、展示作品の印刷・
     額装、備品の準備、招待状の発送、展示、宣伝集客

・2024年 写真展日程案決定、会場予約、展示点数の決定、
     展示作品候補の絞り込みと決定、必要な撮り直し

・2023年 印刷方法の決定(外注・自作)、自作の場合の
     印刷機材の購入、自力印刷の練習(用紙、色調整、等)、
     額装の練習、会場探し、フォトコンテスト入選

・2022年 写真展テーマ・サブテーマの決定、
     テーマに沿った撮影計画作成と撮影、
     組写真の撮影、フォトコンテスト応募、
     SNS・ブログの活用で知名度を上げる

・2021年 写真展コンセプトの決定、写真展タイトル案検討
     写真のポジショニングの決定(レタッチの方向の統一、
     作品全体の統一感)、写真教室受講、
     写真展をたくさん見る、組写真の練習

この戦略を考えるときに、ネット上に投稿されていた、初めて写真展を開いた数名の方の体験談とアドバイスが随分と参考になりました。
最も役に立ったのが、こちらの記事です。

写真展の開催は2025年5月と決めました。
まだまだこれからが正念場ですが、今までの進捗と反省、改善点などをnoteしておこうと思います。

2020年にスタートして、まず取り掛かったのが写真展開催のために何が必要かを洗い出し、会場候補や準備物のリストアップをすることでした。
今読み直しますと、会場に決めた施設はこの時点の候補リストには入っていませんでした。何もわかっていない時に作成したリストですから当然と言えば当然です。ただ、何も無ければ探しようもありません。素早く着手するためには有益でした。

最も重要な作業が「写真展コンセプトの決定」でした。
コンセプトは変えるものでは無いと思われがちですが、素人に最初からまともなコンセプトができるはずもありません。実際、コンセプトや基本計画書は何度も書き直しました。
下図は2022年時点のコンセプトを図式化したものです。
”BE KOBE”(神戸の魅力を探る)というコンセプト案を、4つのテーマに分解したものです。それらをブレイクダウンした項目ごとに、写真を撮影し、まとめていく、という考えです。

コンセプト構成図

まだ最終形ではありませんでしたが、ここから撮影計画に落とし込み、何を撮影すべきかを明確にできました。

次に取り掛かったのが、「写真展タイトル案検討」でした。タイトルは後でも良さそうですが、写真展を誰に見てもらいたいのか、そのターゲットの人たちに他の写真展とどう違うのかを伝えるために、どのようなタイトルが良いのかを最初に考えることは、写真展という大きな作品を見てほしい人に見てもらうために、重要なことと思います。
マーケティング戦略でいうところのターゲッティングとポジショニングですね。ですが、これも最初から的確なものができるはずもありません。写真撮影や写真展の準備を進めながら、見直していくしかありませんでした。実際、タイトル案も変更の連続でした。

私が30年間勤めた企業には”ファイアー文化”というものがありました。机上であれこれ時間をかけて検討するより、まずは仮説でもよいから鉄砲を撃って(ファイアー)、外れたら修正すればよい、という実践を重視する文化で、まさに初めてやることを成功させる秘訣でした。

次にコンセプトなどを「基本計画書」として文書化しました。項目は以下のとおりです。
 ・写真展開催の目的
 ・タイトルと来てほしい人
 ・写真展のコンセプトと構成
 ・展示会場候補と展示できる写真枚数
 ・写真展を構成する4つの視点とそれぞれのサブテーマ
 ・展示候補写真リスト
これも最初から徐々に改良してスパイラルアップで良くする方針でした。

写真のポジショニングの決定は、正直どうすればよいか分かりませんでした。ともかく、「人の真似をしないで自分らしい写真にこだわろう」と決め、自分が撮りたい写真の方向性だけ押さえました。

組写真をWeb講習会で少し勉強して練習を始めましたが、ストーリー性を磨くのが目的であり、ある程度写真が揃ってから本格的に取り組むことにしました。

2022年には、戦略に従ってFacebook 公開グループ ”I LOVE KOBE” に参加して写真投稿を始めました。”伝説の坂”シリーズが好評で、このグループの主宰者が開催する「それぞれのLOVE KOBEアート展」に写真出展を依頼されました。写真の展示や運営などの勉強になると考え、2点出展しました。この時の印刷は外注(富士フィルム)で、パネル張りも依頼しました。展示は未経験ですので、高さや中心を揃えるやり方など、お手伝いをしながら学ぼうとしましたが、慣れた人が高さだけ決めてどんどん展示され、殆ど参考になりませんでした。
一番の成果は、外注で印刷すると自分の思うような写真にならないことを実感できたことです。
その経験から、写真展の写真は自分で印刷することとし、その後印刷機を購入して練習することにつながりました。

並行して自分の写真の魅力を高めるために、ネットの写真教室に参加し、提出した写真にプロからアドバイスをいただきました。
しかし徐々にアドバイスがパターン化していることに気づきました。プロはクライアントから依頼された写真をいかに要求に沿って仕上げるか?といった観点で撮影するため、印刷のために白トビは駄目とか、風景写真は水平でないと駄目とか、業界の常識のようなものを押し付けられ、構図は引き算・良い光を見つけろ・質感表現をしろ・もっと追い込め・・・と、抽象的なアドバイスが多く、参考になりません。「写真は自由な表現アートで、どう撮っても良いのでは?」と甘く考えていた私は、そのような決めつけに嫌気がさして写真教室をやめました。

そこで優れた写真家の写真集をもっと見ようと思い、アマゾンで中古の安い写真集を買い集め、その写真集から学んだことをノートにまとめていきました。また東京や大阪の写真展にも通いました。これらは非常に良い刺激となり、自分らしい写真とは、と考える勉強になったと思います。

2023年には、それまで落選続きだったフォトコンテストに入選するようになってきて、少しだけ自信もつきました。
しかし写真は孤独な創作活動ですので、不安だらけで何度もコンセプトや基本計画書を書き直したり、写真展開催をやめようかとまで逡巡したりしていました。
それでも戦略に従い、PCモニターをカラーマネジメント・ディスプレイ(EIZO製)に買い替えて正確な色でレタッチできる環境を作り、それをほぼ画面どおりに印刷できる写真用のプリンター(EPSON製)を購入しました。
梅田のヨドバシカメラで印刷用紙を物色し、印刷の練習と用紙と写真のマッチングの勉強をしました。いわゆる”紙地獄”の始まりでしたが、用紙を変えると写真の出来栄えが変わることは今まで知らなかったことで、目からウロコでした。それにしても用紙は高価!

額装の勉強も始め、上記で印刷したA4サイズの写真を額装して、自宅の廊下や階段に10枚ほど飾り、毎日眺めてはやり直すことを繰り返しました。額はIKEAで買いましたが、黒の木製でとても安く、助かりました。

前年出展した「それぞれのLOVE KOBE アート展」の2回目に、2枚の写真を出展しました。このときはA3ノビサイズで自ら印刷・額装して、想いを込めたキャプションも作成しました。主宰者や運営スタッフ、写真好きの来場者からお褒めいただくことができ、一歩前進できた想いでした。

忘れないよ

2024年に入って、写真展の挨拶ステートメントと、4つの視点ごとの導入キャプション、各写真に付けるキャプションを「ステートメント及びキャプション」という文書にまとめました。
来場者に伝えたいことの内容や関連性に注意して、写真展全体の一貫性や整合性を裏付けるためです。この作業を通じて、来場者に伝えるべきメッセージをどう組み立てるかを再考し、基本設計書にも大きな変更を加えました。

この次に写真展の日程と会場を決めることになりました。
この時点が一番悩みました。
「できる?」「こんな写真で大丈夫?」と自問自答の日々で、不安にさいなまれ、苦しみました。
そんなとき、ビジョンと戦略が私を助けてくれました。止めるのは簡単だけど、この年齢で止めたら二度と実現できず、一生後悔するだろうと思い直し、前に進むことができました。

会場は、基本計画の写真点数が約120点と多くなるため、広い会場でできるだけ安価で、しかもできれば神戸がテーマなので三宮か元町で・・と欲張りましたが、検討の結果2か所が候補に残りました。
実際に会場を訪問して、他人の写真展を覗き、事務所に設備や備品などの詳しい説明を聞き、空いている日程を確認して、会場と日程を決めました。
会場の予約は、1年前に申し込み、抽選で決まるルールでしたが、事務所に空いている日程を聞いていたおかげで抽選無しでゴールデンウィークに予約できました。

次に、戦略計画では2025年の予定でしたが、会場が決まると次は展示レイアウトや配列の検証が必要になるので、早めに取り掛かりました。
まだ暫定的なレイアウト設計ですが、展示する写真の枚数や個々のサイズ・額装かパネルかなどを決めて、展示可能かどうか、また縦と横の組合せや色味の配列などを検証しなければなりません。
そこでまず会場の寸法図を入手しました。
下図は実物です。

展示可能な壁面が可動パネルを入れて61mあります。ところがズブの素人には展示の感覚がありませんので、何枚展示できるのか?サッパリ分かりません。

そこで、どの写真をどのように額装するかを決めなければなりません。
このころは写真は額装するのが当たり前のような感覚でしたが、全ての写真を額にするとなると、100枚もの額を購入するのは経済的に困難ですし、写真展の終わったあとは邪魔になるだけです。
レンタルを検討しましたが、意外と高価でこれも難しいと。
他の写真展などの情報を調べると、パネルに貼った展示もあることを知り、自分の展示候補写真をリスト化して、額装は最小限に抑え、他はパネルにすることにしました。最終的には額装はA3ノビが3枚、A4が7枚とかなり少なくしました。
会場は壁に細い虫ピンや画びょうが使えることを確認し、百均のダイソーさんの「貼れるボード」(450mm×300mm、A3より少し大きく、A3ノビより小さい)をカットしてA3とA4サイズのパネルに写真を貼り、虫ピンで展示することにしました。

次に壁面をAからKと記号付けし、11面の壁ごとにEXCELを使って、壁面を縮小した表に写真(額装)のサイズを同じ縮小比のテキストボックスを作り、貼っていきました。

ここで失敗がありました。
2週間以上かけてやっと作ったレイアウト設計でしたが、写真と写真の感覚が何cmあるか計算しようと、ひとつの壁に貼る写真額やパネルの寸法を集計すると、壁の幅より大きいのです!!
原因はEXCELの列の幅とテキストボックスの寸法が同じ単位では無かったため、A3ノビの額やA3・A4パネルに見立てたテキストボックスが小さかったのです。大ショック!
「またもマイクロソフトにやられた!」と、自分のミスを棚上げして嘆きましたが、早めに取り掛かったので気を取り直してやり直すことができました。
この作業でも4つの視点ごとの写真内容を見直しながら写真枚数を増減したり、他の視点に移し替えたりと、結構大きな修正を加えました。

レイアウト設計と平行して、「展示写真管理表」も作成し、写真サイズや印刷用紙などを記録できるようにしました。

展示写真管理表

次に展示予定の写真を小さく印刷して、レイアウト設計通りに自室の壁に貼ってみました。
壁にマスキングテープを裏向けに貼って、その上に小さな写真を並べていきました。

(上の写真は染料インクのため印刷後時間が経過していて色褪せしています。)
このやり方は、一目で全体が見え、色味や縦写真と横写真の並び方(リズムのようなもの)を確認することができました。
最も大きな効果は、ようやく全体が見えてきて、私が目指す写真展を俯瞰して見ることで、多少の安心感が生まれたことでした。

この作業の中で、写真の差し替えやキャプションの変更など、ドンドン改善ができました。
その結果、縦構図でなく横構図で撮り直すとか、新たに撮影する写真のイメージとか、具体的にこれから撮影する計画ができました。

8月から写真撮影と平行して写真の印刷と額装に取り掛かりました。
印刷を始めると、レタッチのやり直しが必要になり、結果的にはほとんどすべての写真のレタッチをやり直しました。
原因は、過去2年間に撮影し、SNSに投稿するための中途半端なレタッチしかしていなかったため、展示するにはより細かい調整が必要だったことと、全体の統一感が欠けていたためでした。
さらには当初はA4サイズと決めていた写真をもっと大きくしたいといった変更も多発し、印刷や額装のやり直しに結構時間がかかりました。
さらにダイソーさんのボードが品切れになり、在庫のある店舗を10カ所ほど探し、神戸市の隣の三田市まで探しに行ったこともありました。
最終的に印刷と額装が一応完了したのは2025年の2月でした。

いやはや、当初の計画通りに2025年になってから始めていたら全然間に合わなかったことになります。正に冷や汗ものでした。

まだ取り直したい写真が残っており、また見直しの中で写真の差し替えなども発生すると思われますが、ひとまず一段落で、これから集客のための宣伝活動に入ります。
(この先は後編に投稿いたします。)






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