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UN07 国連職員の待遇

国連で働いている人の多くが、平和や環境、貧困の削減など社会的な意義や理想のために日々活動している(と思う)し、国連で働きたいと思う人も同様な考えを持っているように感じる。国連で仕事をすることに関心のある学生や社会人の人に多く会ってきたけれど、みんなそれぞれ世の中を良くすることに考えを持っていたし、そのことを僕は頼もしく思った。高待遇だから国連で働きたい、と言った人はいなかったし、待遇について聞かれたのも数度かと。当然だろうけれど、面接で志望動機に給与を挙げた候補者は皆無だ。
 
とはいえ、就職または転職する以上、待遇は気になると思う。実際、家族を養うことを考えれば重要なことなのだけれど、これは聞きにくい話題だと思う。今回はそのことについて書いてみたい。
 
国連の待遇の良し悪しは、前職の給与水準や、家族構成、各人の生活のあり方に左右されるし、個人の主観によっても異なるだろう。結論から言えば、悪くはないが良くもないといったところだろうか。
 
途上国に勤務していると、国連職員の給与は現地の平均賃金の何倍にもなるので高給取りになるけれど、スイスやニューヨークで勤務していると、それほど良くもない。
 
どの国で勤務していても、勿論比較する会社にもよるけれど、日本の大手企業の駐在員の方々が、住宅を支給されていたり、帰国費用が毎年出たり、運転手が付いていたりして、羨ましく思ったことがある。妻が名の通った企業の駐在員の奥様方と仲良くなって色々な話を聞いてくる都度、冷や汗をかきつつ、まぁ、公務員だからウチはねぇ、と何度か言った。
 
国連職員の給与は、基本給・地域調整給(post adjustment)・手当で構成される。2年に一度、帰国休暇(home leave)の航空券が家族分支給されるほか、子どもの教育費の補助金(education grant)が出る。基本的には世界のどこで仕事をしても一定水準の生活ができるよう計算されているそうだ。ちなみに、先進国の事務所から物価の低い途上国の事務所に異動した場合、手取りの給与額は下がるが、現地の物価水準ではそこそこの給与になる。
 
基本給は職務のグレード(例P1-P5, D1-D2)とグレード内のステップによって決まることは、日本の公務員と同じだろう。ボーナスはない。仕事で大活躍しても金一封や社長賞をもらえるといったことはない。
 
さて、日本で働いている人が国連に転職を考える場合、いくつか考えておいた方がいいことがある。
 
1つ目は、子どもの教育のことだ。勤務地によっては日本人学校があるが、必ずしも各地にあるわけではない。スイスだとチューリッヒにはあるけれど、ジュネーブには無い、といった具合だ。国連で正規採用されて数年ごとに勤務地を転々とすることを考えると、子どもをインターナショナルスクールで学ばせるのが現実的だろうけれど、費用については覚悟しておいた方がいい。教育費の補助金(education grant)は学費の全てをカバーするわけではない。
 
2つ目は、資産形成のことだろうか。日本で仕事をしていると、ローンを組んで家を購入する人が多いと思う。国連職員のうち、ナショナル・スタッフは国を超えた異動はないけれど、インターナショナルスタッフの場合、キャリアを形成する過程で、いくつかの勤務地を経験することになる。このため、ローンを組んで家を購入することはあまり現実的ではない。私事で恐縮だが、今までに払ってきた家賃がローンの返済で、老後に住む家があったら、どれだけ良かっただろうと思うことがある。
 
3つ目は、勤務地での生活費のことだ。当然、日本と海外では生活が異なるので、支出も同じではない。例えば、先進国の大都市だと車がなくても生活ができるだろうけれど、途上国では公共の交通機関が発達していなかったり、治安の問題もあったりするので、車があった方が便利かも知れない。かつ、現地での運転に不安があれば、運転手を雇うことになる。また、海外で日本食を食べようとすると、和食店で食べたり、日系の食品店やアジア系の店に行って食材を買って料理したりすることになるが、輸入しているので日本の価格の数倍であることが普通だ。家族で一時帰国する費用も安くはない。途上国で家賃は日本より安くても、浄水器や飲み水にお金がかかることもある。医療費も、英語を話してくれる医師や看護師がいるような外国人向けのクリニックだと安くはない。
 
最後に、家族が、特に学齢期の子どもが、現地の生活に適応できるかどうかは赴任してみないと分からない。海外での生活がかけがえのない貴重な経験になることもあれば、お金で解決できない問題になることもあるようだ。勤務地や、夫または妻の仕事の都合や、子どもの学業の都合によっては、家族を帯同できないこともあるだろう。家族と離れて暮らすことについては、勿論日本でも単身赴任をしている人は少なくないだろうけれど、熟考すべき問題だと思う。つまり、給与の多寡の問題ではない。
 
生活に困ることはないので恵まれているにせよ、国連職員の待遇が良くも悪くもないと言うのは、このような所以だ。いずれにしても、日本での給与と、企業の海外駐在員や国連機関の月給を単純比較するのは的外れだと思う。

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