
あぁ貸本屋さん。
小学校時代は駄菓子屋さん。
中学高校時代は貸本屋さん。
当時のボクにとって、この二つは世界からなくなってはならないものだった。たとえ、ウルトラマンがゼットンに負けようが、セブンが一つの光になって宇宙に飛んでいこうが、この二つだけはいつものところにいつもどおりあるものだった。
駄菓子屋さんのことを『じじばば』とか『おじんばば』と呼んでいた(店主はご高齢の方のおじいさん、おばあさんだったから)。駄菓子屋の入り口の引き戸はガタガタ。足下はコンクリート、中には裸電球がぶら下がっていた。狭い空間にぎっしりの様々な駄菓子屋やくじ引き、カード…その空間の一角にじじばばがいた。そんな駄菓子屋さんが街のあちらこちらにあった。いつのまにか閉店する駄菓子屋さん、なんとなく寂しさを感じながらもそこは子どもだ。ちゃんとアンテナをはっていて、すぐに別の『じじばば』をテリトリーにしていた。
あ、きょう書きたかったの貸本屋さんの話。
駄菓子屋さんほど多くはなかったけど、たいていの街に一軒か二軒はあった気がする。古い木造家屋。引き戸を開けて中に入る。目立つところに発売して間もない月刊誌や週刊誌、新刊のマンガ本が並べられている。壁の本棚には床から天井までマンガ本がぎっしり。作業台にもなる小さなテーブルのところにおじさん(おばさん)が座っている。利用システムは簡単だ。店主の持っている大学ノート。分厚い大学ノートに利用者の住所、氏名、電話番号と借りた本の返却日が丁寧に書き込まれいる。芯の太いえんぴつで。
忙しかった。貸本屋さんのおじさんでなく、借りに行くボクが。なにしろ、高校まですべてのマンガ週刊誌を読んでいたんだ。月曜日のジャンプから始まって、サンデー、マガジン、週末のキング、チャンピオンまで。ほぼ毎日貸本屋さんに行っていた。発行日は、学校が終われば貸本屋さんまで一直線。おじさんがまだカバーをしてなくて、千枚通しで本に穴を開けているのを横で待っていた(ボクが利用していた貸本屋さんの話です)。週刊誌を買う気はなかった。そんなお金はなかった。でも一冊10円から30円、翌日には返却していたから、ボクは上客だ。運悪く、借りたい本を借りられなかったときは壁の本棚から単行本を借りていた。それくらいマンガを読むのが大好きだった。もう発売日が待ち遠しくて、待ち遠しくて。
マンガって不思議だ。一冊週刊誌の中にいくつものキャラクターがいて、ストーリーがある。いくつもあるのに、ページを開いて瞬間、前の週につながる。ああ、次はどうなるんだと思いながら、別の作品のページを開く。すると、その作品の世界にパッと入っていく。頭ん中に無限の扉があるみたいだった。
貸本屋さんで借りた本を家まで待てなくて、歩きながら読んでいた。不思議と電柱にも車にもぶつからず、つまづくこともなく、家に着く頃にはもう全部読み終えていた。懐かしい思い出。
ボクの知っている貸本屋さんはもうどこにもない。
いまボクはネットカフェでマンガを読んでいる。