介護の話4 「写真見せたるわ」
デイケアで勤務していた時のお話です。
そのご利用者は、ご夫婦でご利用されていました。奥さまは、認知症もあり日常生活に介助が必要でした。ご主人は円背があるももの、自分のことは自身で行っていました。ご夫婦で在宅生活を行っており、簡単なお世話はご主人も行っています。近隣に娘様がすんでおり、訪問サービスを併用しながら、ご両親の介護をされていました。
ご主人は寡黙な方で、デイケアでも誰ともお話される様子はありませんでした。私が話しかけても、あまり会話は続きまでんでした。ただ、戦争の話はよくしてくれました。当時は、まだまだ戦地に出兵されていた方もおられました。特に男性は戦地にいっていた話をよく話されます。逆に女性は戦争中の話をするとき、表情が曇ります。また、レクリエーションのカラオケでも、軍歌を歌う方もおられました。
そのご主人がある日、「ワシの写真見せたるわ」といって、鞄の中から写真を取り出しました。軍服を着た若いご主人でした。見せてくださった時、ご主人は誇らしいお顔をされていました。私は、たいした言葉も返せなかったと思うんですが、そのとき初めてご主人の笑顔を見ました。その翌日、ご家族よりご主人が自宅で亡くなったと連絡が入りました。お通夜にも参列しましたが、信じられませんでした。
あの日、別に写真を見せてもらう約束はありませんでした。虫の知らせのようなものがあったのかもしれません。私に写真を見せてくれたことが嬉しく、不思議な経験で、今でも忘れられない出来事です。