同性愛者の私が「チェリまほTHE MOVIE」を見て泣いた話 -物語と私自身の間-
私がこの作品を映画館で見たのは今年のゴールデンウィークの連休中でした。Netflixで偶然チェリまほを見つけて、ドラマを見始め、作品の持つ面白さとあたたかさにとても感動し、これはぜひ映画も見たいと思ってチケットを予約。予想してた通りお客さんは女性ばかりで少しそわそわしながら映画を見ていましたが、作中に心を動かされる瞬間が何度もあり、気付いたら自然と涙がこぼれていました。この作品の良さについては既に数えきれないほど語られていると思いましたが、ちゃんと自分の言葉で残しておき、この作品との出会いを大切にしたいと思いました。(ネタバレ?含みます。)
ドラマを見ていた時は安達と黒沢の二人がとても愛おしく見え、二人のやりとりを見ているだけで幸せな気分になれました。二人が結ばれた後の、映画のお話になると二人の家族が登場し、安達と黒沢という人物がより立体的に描かれていました。私の心に一番響いたのもこの二人と二人の家族との掛け合いのシーンで、特に二人が安達家に赴いた際に安達のお母さんが優しく微笑んで「分かった」と一言だけ返事をするところでした。
私は男性の同性愛者なので、それこそ異性を好きになる人の気持ちは実際には想像することしかできませんが、自分の家族に自分が同性愛者であることを伝えることがどれほど勇気のいることなのかは想像に難くないと思います。私自身も今までの人生の中で誰かにカミングアウトをしたのは、高校の頃の女性の友達一人だけで、家族には今でも隠しています(もしかしたらうっすら気づいているのかもしれませんが)。家族や周りの人に公言している人も増えてきていると思いますが、私はまだしていません。友達や会社の人に伝えるだけなら、自分がどう見られるのかを考えればいいだけで、受け入れてくれない人とは離れればいい。でも家族になると全然違くて、親を悲しませちゃうかなとか、孫の顔を見させてあげられなくて申し訳ないなとか、どうしても考えてしまう。だからこそお互いの両親にお互いのことを紹介して認めてもらおうとした二人の勇気は、今の私からするとめちゃくちゃにすごいものに見えた。そして多くを語らずに二人の勇気を受け止めてくれた安達のお母さんの「分かった」という返事とそれに続く言葉を聞いた時、なんだか同性愛者として生きてきた私自身も認められたような気がして涙が止まりませんでした。
同性愛者であって特別に困っていることはそれほど多いと感じていないし、異性愛者であっても大変なことは同じように大変だし、自分と同じ境遇、もっと大変な立場の人たちがいることも分かっているけど、学生の頃は辛い気持ちになったこともあったし、同性が好きなことがバレるのが怖くて嘘もたくさんついてた。会社の飲み会とかでは今でもそういうことが普通にある。でも、今目の前のスクリーンに映っている、私と同じように同性を好きになった安達と黒沢は様々な出来事を経て、お互いの家族に認められて救われている。その様子を見て、自分自身も肯定されて救われたような感覚になりました。ドラマの時は二人が通じ合って結ばれる様子に感動していましたが、映画では、気がついたら自分自身を二人に重ねていたのです。
あまり良い例えが思いつかないのですが、「あつまれ どうぶつの森」というゲームで車いすが家具として出てくることで、実際に車いすで生活している人たちが嬉しさを感じている、という記事を読んだことがあって、その感覚に近いのかもと思いました。同性愛を取り扱った作品については私はあまり知らず、他にもたくさんあるかと思うのですが、登場人物が自分と重なっていると思えたのが新鮮で、それを初めて体験したのが私にとっては「チェリまほTHE MOVIE」でした。架空の物語の中で自分に含まれる要素が意識され、無視されずに描かれる。それにより救われる人が多くいるのだと身をもって理解できた経験でした。
現実はチェリまほのようにうまく行かない、というのは私もそうだと思います。2022年6月20日、日本では裁判所が、同性婚が認められないことは憲法に違反しないという判断を出しました。現在でもびっくりするくらい性的マイノリティや、ジェンダーに関する知識がない国会議員などがいます。私の親も私のことを認めてくれるかは聞いたことがないので分かりません。そもそも安達と黒沢だって安達が魔法を使えるようにならなければ結ばれなかったとも思います。ですが、魔法のない現実世界でも10年、20年前に比べれば、インターネット、SNSという魔法のようなものや、多くの人々の努力による社会意識の変化によって徐々に同性愛者を含む性的マイノリティの人々にとって生きやすい世界になっていることも事実です。特に日本はその変化が遅い気がしますが、ゆっくりと私たちを取り巻く状況は良い方向に向かっていると感じています。この流れは止めたくないです。
ただ、社会の状況とか、現実問題とか、一旦そういうのを抜きにした時に、現実を生きてて同性を好きになる私自身はこの作品に出会うことで救われた気持ちになった、ということを言葉にして残しておきたかったし、私と同じようにこの作品が好きな誰かに伝えたかった。安達と黒沢がそうしていたように、私も自分の気持ちを正直に言葉にして伝えたいと思ったし、これからもそうしたいと思ったので。
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