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人間にはどんなOSが実装されている?ー東浩紀『存在論的、郵便的』を読んでみた

批評家、株式会社ゲンロン創業者である東浩紀のデビュー作。1998年に新潮社からリリースされた。

脱構築という概念で有名な20世紀を代表する哲学者ジャック・デリダの研究書。研究書であるにもかかわらず、論証のしかたは推理小説みたい。最初から最後まで探偵の推理を観察している感じ。読んでいて楽しい。

博士論文をベースにしているということもあり専門用語多め。わからないところはネットで調べたり読みとばしたりしよう。

問いの一つ一つは研究者ではなくても疑問に思うような身近なことを取り上げている。たとえば以下のような。

「署名」が、反復されつつも、また書くたびに異なった筆跡で記される[……]異なった筆跡で記される「同じ」署名、[……]その「同じ」とは結局何を意味するのか。

35-36P

私も子どもの頃、ふじぎに思っていた。いったいどこからどこまでが同じ署名で、どこからが偽造なのか。毎回の署名は厳密には違う署名じゃないかと。私の場合、疑問に思っただけで検討もせず早々に放置、これを読むまですっかり忘れていた。思い出させてくれてありがとう。

読み進めていくと人間はどのように世界を認識しているか、その認識するための条件、いわば人間に実装されているOS(オペレーティングシステム)の仕様が解明されていく。まさに哲学どまんなか。その描写はSFのようでもある。繰り返すが読んでいて楽しい。

デリダあるいは東が考えるOS仕様にたどり着く過程で、フロイト、ハイデガー、フッサール、ラカン、ジジェク、クリプキ、ウィトゲンシュタイン、カルナップなどの仕様(の一部)も解明されていく。しかも付録にはドゥルーズとフーコーまである。実にお得である。

東が継続して使っている誤配、郵便、訂正可能性などの概念が既に本書に登場しているので、東の他の著作の理解の助けにもなるし、逆に他の著作がこの本の参考になる。『観光客の哲学』、雑誌『ゲンロン12』掲載の「訂正可能性の哲学、あるいは新しい公共性について」などをあわせて読むと良いと思う。

最後に既に読んだことがある人向けにトリビアを。
鹿島茂と東の対談で、鹿島がフランスでは手紙が遅れて届くことがよくあるといっていた。手紙はマンションまで配達され、マンションのコンシェルジュが各部屋に届けるのが一般的らしいのだが、コンシェルジュに嫌われていたりすると遅配されることがあるらしい。

もしかしたらデリダはコンシェルジュに嫌われていたのかも。(ラカンは好かれていたのかも)

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