第十一章 暗示とはどんな事か(8) 外部暗示四
これまで述べた各例は
いずれも無意識的に与えられた
悪い暗示を受けた実例であるが、
これに反して
他人の言が偶然にも
有利な暗示になることも
しばしばあるものである。
会長の友人に接骨師がいる。
その妻君の実例を記してみよう。
妻君曰く
「私の知人に現在70歳の老人(男)で
ピンピンして丈夫で働いている人がおりますが、
この人は胃がんで某病院に入院し、
切開手術すべく医師が切開したところが、
「とてもひどい胃がんで
手術の余地はまったくない」
とて付添人にもそれを見せて
そしてその胃には全然手術せず
そのまま縫ってしまったそうです。
それで医師は患者に向かって
「すっかり手術したから安心していなさい」
と言って慰めたそうです。
この事実を目撃した付添人は、
早速これを家人に語り
葬式の準備までしたそうです。
ところがこの患者は
だんだんと快復しとうとう
以前にも増した健康体となりまして
手術後もう8年たちますが
病の気配は無くなって丈夫でピンピン、
若い者を負かす程の元気で働いています」と。
この例では
切開して見たのであるから誤診ではなく
ひどい胃がんであったことは事実であろう。
そしてそれを手術せずに縫ってしまったことも
事実である。
その患者が8年たっても丈夫で働いているのも
事実である。
この事例は医師に
「すっかり手術したから安心していなさい」
と言われたので患者は
「もうこれで必ず治る」
という強い観念を作った、
その観念が自己暗示を起こし、
全生理機能を
猛勢に作用させたから
自然療能は遺憾なく作用して
ついに健康体とかしたものである。
癌は治らないと思っている者は
この偉大なる自然療能作用と
かくの如き威力ある
暗示作用に目覚めなければならぬのである。
要するにこの実例等は
医師の言が
偶然にも良い暗示となり、
このために患者が強大なる
良い自己暗示を起こしたのである、
というべきである。
以上の各例話で
外部暗示ということもほぼ解ったであろうと思う。
筆のついでにもう少し暗示について書いてみようと思う。
ある村に地蔵様がある。
この地蔵様の頬を撫でると
歯痛が治るというので
方々から歯痛患者がいくのである。
これは
「地蔵様の頬を撫でれば必ず治る」
という「自己暗示作用」で治るのであって
地蔵様の霊験でもなんでもないのである。
ある日青年が歯痛で苦しんでいると、
ある婆様がこの地蔵様の話を聞かせてこれをすすめた。
この青年は半信半疑ながらもその地蔵様へ言って、
婆様の教えた通り地蔵様の頬を撫でたが
一向に治らないで苦しんでいた。
その所へまた歯痛患者が来て、
例の通り地蔵様の頬を撫でたが
これまた治らないで泣き泣き帰ったとの由である。
婆様から話を聞いていった青年は、
半信半疑で地蔵様の頬を撫でた故に
治すべき自己暗示作用が起こらなかったから治らないのであった。
その治らないで苦しんでいる所を見た者は
「自分もこの人の如く治らないかしら」
等と思っていたから治らぬ想像観念が起こったから
これまた治るものではないのである。
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