呼吸機能に及ぼす精神作用
非常な心配や恐怖や憂い、
悶えや憤怒、
其他精神的に非常な事件のある時は
呼吸は必ず変調するものである。
これは誰もが経験しているだろう。
呼吸が変調するのは、言うまでもなく、
呼吸器の作用に変調を起こした現象である、
これ即ち
精神が呼吸機能に作用している結果である。
このように呼吸器は精神に作用されているものであるから、
「心の持ちよう」
で呼吸器病に罹りもするが
また既に呼吸器病にかかっている者でも
「心の持ちよう」
で治りもするものである。
前述の自然療能の所で、
医師に「絶対安静を要す」と言われた肺病の重患者が
「どうせ死ぬなら早く死にたい」
とヤケになって
医師の注意に全然反した行為をしたら、
かえってその病が治った実例などもいうまでもなく
患者そのものの
「心の持ちようが変わった」
からである。
つまり病床にあって
「種々様々の憂悶や懊悩」
のみで胸がいっぱいになっていた患者が
「どうせ治らぬなら薬も養生もない、
どうせ死ぬなら早く死んだ方が幸福だ」
という観念になり
生に対する執念を全然無くしてしまった。
このような心境に
は憂悶も悩みも無くなって
自然のままの明るい心境となったのである。
この精神に呼吸器が支配されたから
自然療能がよく作用して
遂にはその肺病が全治したのである。
世の中で
「心配すると肺病になる」
というがこれも全く真理である。
自分に家に肺病で死んだものがあったり、
親戚や親友や近所に肺病の者があったりすると
「自分も肺病にかからなければよいが?」
などと非常に恐怖する。
こうして
恐怖病患者
となる。
こういう人の精神は
その精神が呼吸器に作用して
呼吸機能を不完全にするのである。
そして結核菌が住むのに
好適の肺となるのである。
故に空中にうようよ飛んでいる結核菌は
誂え向きの案住所だ、として、
そこに住み込み、どんどんと繁殖するのである。
このようにしてたちまちのうちに
実際に肺病患者となってしまうのである。
これ実に
「肺病を恐れる心」
が製造した肺病である、というべきである。
然るがゆえに、
この如き病にかかるものは多くは
神経質の者、気の弱い者で
肺病を恐れて絶えず氣にしているものである。
そして一々着物を日光にさらしたり
または一々手足を消毒したりして
注意に注意をしていながら、
かえってその病に
取り憑かれてしまうものである。
これに反して、
肺病患者の古着を平気で来ている者などは
かえって丈夫なものである。
同じ肉体で同じ構造の身体でありながら
「心の持ちよう」
が違うだけで右のごとく甚だしい差異を生ずるのである。
かくのごとく、
精神は偉大な力をもって呼吸機能を支配し、
そしてこれが有利に作用すれば
九死に一生の難病も治り、
これが不利に作用すれば
何でもない身体へ病を発生せしめるのである。
故に呼吸器系の疾病を
精神方面から治療する方法が
如何に合理的のものであるかを悟るべきである。
ことに
「肺結核に対しては薬物がない」
と言われているにおいてや、である。
北島医学博士曰く
「医薬には遺憾ながら
結核菌に直接作用して病気を全治するような
特殊治療薬というものは認められておらぬ云々」と。
また呼吸器病専門市川院長曰く
「新聞等で殆ど毎日肺病が必ず治る、
とか治ったとかあるが
たいていはウソです。
羊頭を掲げて狗肉を売るのです。
決してこれに迷ってはいけません。
肺結核にはジフテリアにおけるジフテリア血清のように
絶対に治るという権威ある薬がなければ
このようなイカサマな売薬ができる
のでありますから
この点は十分注意してほしいものです云々」
と。
一にも薬、二にも薬で
物質迷信に陥っている病人は
右の大医家の説をよく含味して物
質の迷夢より覚めて精神の威力を悟るべきである。
注)結核の最初の治療薬は1944年、昭和19年に開発され、昭和30年代に入りBCGの普及などで発生が減少に向かう
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