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第四十八話【公演】(Vol.471-480)
Vol.471
即興で車の中はカラオケ大会になった
僕の背中は自分が
思うようり正直かい
声変わりしたてのユッキー
どうしても声が
がなりごえになっている。
(じゃ、ジャイアン)
一瞬思った自分の心を押し殺して
「う、うまいやん」
と言ってしまった自分を後悔するまで
時間は長くかからなかった
Vol.472
車は六甲山を上り
自動車専用道路に入った。
坂道になるとパワーがいる。
先頭で出発したボクの車の横を
後続車の女子チームが抜いていく。
しかも手を振りながら
中には
アッカンベーする娘もいたり
コウタが言った
「にいちゃん!負けてられへん。抜いてや!」
ボクは答える。
ダメだ!
Vol.473
一番大事なことは【安全】である。
遊び半分でアクセルを踏めば
それは楽しいかもしれない。
しかし、そこには【事故】という
リスクしかないのだ。
「先に行かせてあげよう。それが優しさというものさ」
さりげにきざな言葉を挟みながら
ボクは車を走らせた。
Vol.474
車は自動車専用道路を走る。
料金は建て替えだ。
お金を払って
領収書をやりとりする。
このやりとりを
ボクは小学生の頃
無性に憧れた。
近所の友達と
チャリンコを走らせながら
料金所ごっこなるものを
やっていたほどだ
Vol.475
ゲートに来たら
チケットを渡し、新しいチケットをもらう。
チャリンコを走らせて
永遠に繰り返す遊び。
そのやりとりに【大人】を
感じていた。
オヤジの背中を助手席から
みていたあの時を思い出した。
今、こうして
自分が運転している。
“大人になった“と自覚した瞬間が
ここにあった
Vol.476
順調に車は走り、郊外を抜けていく。
施設から30分ほどで会場に着いた。
ボクが施設職員になって初めての招待行事は
“木下大サーカス“だ。
サーカスを見たことがないボクにとっては
ワクワクだ。
駐車場へと向かう途中に大きなテントが見えた。
「にいちゃん!あれ!」
子供が見つけて叫ぶ
Vol.477
「おぉ!!!」
みんなが一斉に叫んだ。
まるで電車に乗っていて
トンネルを抜けた後に
海が開けたような歓声だ。
そこにはイラストや写真でしか見たことがないような
大きなテントが立っていた。
ワクワクを抑えきれない。
駐車場に車を停めて
みんな急足でテントを目指した。
Vol.478
受付を済ませてテントの中に入ると
どこか砂埃が舞うような
土の匂いが漂っていた。
中央には円状の舞台があり、
天井には安全ネットと空中ブランコが
セットされている。
かすかに流れるBGMが
いよいよ感を出してくれる。
席は自由席だった。
座席を確保したボクたちは
気持ちが高ぶった。
Vol.479
時間がきた。
突然照明が落ちる。
「おぉ」
というどよめきと共に
スポットライトがセンターに当たった。
ピエロの登場である。
(いわゆる前座か?)
ピエロはどことなくお茶目だ。
何かをするにも
尻餅ついたり、ものを落としたり
いい塩梅で失敗する。
それでいて楽しい。
Vol.480
空中ブランコや猛獣使い
大道芸やロープダンスなど
2時間の公演はあっという間の出来事だった。
幕が終わり、演者がずらりと勢揃いする。
観客は精一杯の拍手で讃える。
それに呼応する演者。
一体感がその場にあった。
思わず鳥肌が立つ。
これを【感動】と言うのだろう