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第三十一話【早朝】(Vol.301-310)
Vol.301
「おはようございます」
声をかけて食堂に入ると
安井のおばちゃんが出勤していた。
「おはよう兄さん」
コンコンコンと
大根を切る音とテンポが心地よい。
味噌汁を作っている最中だ。
「お弁当を詰めにきました」
「はいはい。ここにあるから
銀紙に小分けして詰めてね」
Vol.302
まだ6時過ぎなのに
すでに23人分のおかずが準備されていた
(はやっ)
一体何時から出勤されているのだろうと思いながら
作業台にトレイを置き、そこに銀の包みを並べていく
“人は同じ作業を繰り返しした方が効率がいい!“
Vol.303
一体誰が言ったかわからないが、
でも的を得ている格言。
そんなうる覚えの知識を思い出しながら作業を進めていった。
そうしていると
「おはよございまーす」とサトミ姉もやってきた。
「おはよー兄さん。大丈夫やった?」
「ありがとうございます。なんとか無事に終えました」
Vol.304
サトミ姉の気遣いに感謝しながら
お弁当詰めを始める。
メインのおかずと
野菜、副菜2つが定番メニューだ。
今日は焼鳥風煮だった。
鳥ももの照りが食欲をそそる。
摘みたい衝動に駆られながらも
お弁当を詰めていく。
小分けにしたら
次はご飯を詰めていく。
Vol.305
弁当箱を並べる。
・・・
う〜ん。
誰が誰のかわからない。
サトミ姉が教えてくれた。
すごい。
慣れてるからというけれど、
やはりサトミ姉の手際の良さはハンパねぇ
ボクが足でまといで仕方ない。
早くこのレベルに達しないとと
自分にいい聞かせた。
Vol.306
手際よくお弁当を詰め
棚に並べていく。
子供たちは朝食後に
お弁当を包んで居室に戻るというスタイル。
出来上がったお弁当を見て
色鮮やかで栄養満点。
ここだけ見れば
恵まれているように感じる。
けれど、子供たちにはまだ
満たされない何かがあるんだなと
少し心が寂しくなった。
Vol.307
“今できることを精一杯しよう“
そう思っていると
安井のおばちゃんが
「お兄さん。これ飲み!」
と言ってアイスコーヒーを作ってくれた。
「ありがとうございます!」
おばちゃんの手作りアイス。
インスタントコーヒーの粉多めに
砂糖もちょい多め
熱いお湯を注いでかき混ぜ
氷で締める
Vol.308
コップいっぱいに盛られた氷が
熱湯と戦い溶けてゆく
みるみるうちに
ガラスコップに水滴が現れ
いかにも
(冷たいですよ)と言わんばかりの装いだ。
「いただきます!」
一仕事終えたボクは
おばちゃんのアイスコーヒーをいただい。
ほんのりの苦味と
コッテリした甘味
Vol.309
ボクはグラスを回して
味を中和させる。
おばちゃんの愛情がたっぷり入った
アイスコーヒーをいただきながら
一服させていただいた。
ふぅ〜
「お兄さん。どない?慣れた?」
おばちゃんが優しく話してくれる。
「まだまだこれからですね」
と返すボク。
「無理しなや」
とおばちゃん
Vol.310
きっとおばちゃんには
これまで多くの職員を見てきただけに
動きを見ただけでわかるのだろう。
(こいつガムシャラだ!)ということが。
熱意だけで突っ走っていると
振り返ると誰もいない。
しまいには体を壊してしまう。
だからこその
「無理しなや」
とボクは受け止めた。