見出し画像

第三十五話【握飯】(Vol.341-350)

Vol.341
入ってきたお金が
増えたお金と勘違いしてしまうところが
好きなのだ。

(だからと言って使っていいものではないが)

精算を終えると
少しの休憩を取ることができた。

軽く昼食を済ませ、
子供達が戻ってくるまで
自分の部屋でゴロンと横になる。

(あと2時間ぐらいだな)





Vol.342
気がつくともう15時。
子供たちが続々と帰ってくる。

慌てて受け入れ準備。

ここまで大きなトラブルはなく過ごしてきた。

宿直明けの体には
この時間帯がものすごく辛い。

なんとか
宿題、夕食、おやすみ行事、
トントントンとこなして
勤務を終えたいと願ってしまった。




Vol.343
小男を迎え入れ
中男を迎え入れる

しばらくすると
ジュンがアルバイトから帰ってきた。

「ただいま」

「おう。おかえりジュン、今から学校?」

「うん。兄ちゃん暑いからシャワー浴びてもいい?」

「おう。わかった。準備しとき」

「ありがと」

ジュンは部屋に上がっていった。




Vol.344
ジュンは銭湯セット持って降りてきた。

給湯器のスイッチをオンにして
サッとシャワーを浴びる。

ジュンのバイトは
電気屋さんのアシスタント。

この電気屋さん
実は、福祉会に普段から力を添えてくださる協力者

ジュンは平日、ここで働かせてもらいながら
夜間高校に通っている。




Vol.345
朝から現場に行って
汗まみれになり、
帰宅してからの学業。

ほんと大変だな。
ほんと偉いなと思う。

そんなボクが彼にできることは
「シャワー使っていいよ」というぐらい。

食堂さんにお願いして
おにぎりを握ってあげるぐらい。

「行ってらっしゃい」と
声をかけてあげるぐらいだ。




Vol.346
一汗流したジュンは
さっぱりとした顔で出てきた。

「はい、これ」

と言っておにぎりを差し出す。

「ありがとう。兄ちゃん」

「愛情たっぷりな入れといたわ」
とボク

「それはいらんわ」
と照れ笑いのジュン。

サッと着替えて、
園を出ていく。
「行ってきます」




Vol.347
「行ってらっしゃい」

階段を降りていくジュンを見送る。

(がんばれよ)
心で励ましながら送り出した。

それを横目で見ていた
小男のショウが

「兄ちゃん。ずるい!俺も腹へった。作ってや」
と寄ってきた。

「アカン、高校行ってからや。夜ご飯まで我慢し」
と差し戻す。

「ケチ」




Vol.348
「ケチ」と言われてもなぁ〜

ボクはそう思いながら

「ジュンくんは今から学校行くねん。仕事してから
学校やで!大変やろ?ショウは行けるか?今から学校」

「おにぎりくれるんやったら行けるで」

・・・

(そーゆーこととちゃうねんけどな)と思いながら

「そーか〜じゃ〜また今度な」




Vol.349
目先の“おにぎり“を追いかける
ショウの気合いに笑いながら

「もうすぐ夜ご飯やから ガマンし〜」

と言って話を流し

「ケチケチケチケチ」
あまりにもしつこく連呼してくるので

プッチン

「おう!ケチケチマン参上!悪い奴はケチケチアタックじゃや〜」

なんて言いながら追いかけた。




Vol.350
ケチケチマンはショウを執拗に追いかける。

ショウは笑いながら自室に戻っていった。
が、まだ追いかける。

捕まえてはコショバシ、
逃げては追いかけ、そしてコショバす。

「ごめんなさいは」
とボク

「ごめんな、、、い」
・・・

「謝らんのんかい!」
と二人笑いながらのやりとりだ。

いいなと思ったら応援しよう!