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第三十三話【運転】(Vol.321-330)

Vol.321
今、この仕事について
オカンの気持ちがわかるような気がした。

子供は先のことを考える力がまだ十分ではない
その分、大人がその道を指し示してやるのではあるが

あまりに口を出しすぎてもいけない。

すると、指示待ちの子に育ってしまうからだ。

適度な距離と間隔が求められる。




Vol.322
ただし、今のボクに
そんな距離感を考えている余裕はなかった。

(とにかく早く出さないと!)

この一点だった。

“○○させなければならない“
この凝り固まった考え方が

自分も苦しめるし
子供も苦しめる。

もっと柔軟に考えれるようになれれば良いのだが
とにかく焦っていた。




Vol.323
順番に登校する児童を声かけながら
見送る。

8:10分
「気をつけていってこいよ!」

最後、無事に送り出せた。

ふぅ〜

間に合ったかな。
どうだろう?

結局ダラダラと歩いていけば
遅刻になるのだが、
やるだけのことはやったと
自分に言い聞かせる。




Vol.324
子供を送り出した後は、
そう。

掃除祭りが待っている。

平日はこれの繰り返し。
宿直明けは特に眠い。

緊張と疲れが入り混じり
なんだか落ち着かない。

今日1日は一人勤務。
明日のケンタ兄がくるまで
トラブルなくこなしていくぞ。

と誓い掃除に勤しんだ。




Vol.325
子供を送り出し
掃除を終え
長いミーティングを終えた後

ボクは幼児コーナーの職員さんに頼まれて
買い物の手伝いをすることになった。

軽自動車に乗って
近所のホームセンターまでの買い出しである。

そう。
ボクたちは生活で必要なものを
自分達で買い出しへも出かけるのだ。




Vol.326
買い出しへ行くときは
他のコーナーへも声をかける。

必要なものは購入すれば良いのだが、
なんでもかんでも買って良いのではない。

そこには予算が存在する。

采配を決するのは、
ベテランの事務員さん
神河さん

子供たちからは
“かんおばちゃん“と呼ばれている。




Vol.327
かんおばちゃんはかつて、
保育士として現場で活躍されていた。

その経験と福祉会でのキャリアから
現在は事務職を担当し、
職員のアドバイザーも担われている。

神河さんに
購入希望の申し入れをし、
「それは必要やね」と言われたら
購入することができる。

というシステムだ。




Vol.328
かんおばちゃんに了解を得て
買い出しに向かう。

軽自動車に乗り込んで
ボクが運転。
隣に女性職員。

会社だったら
営業に回っている感じだろう。

初のシュチュエーションに少々戸惑いながら
エンジンをかけた。




Vol.329
女性との話が得意ではないボクは
困ってしまう。

(何か話さなくちゃ)と思うと
何も話せなくなるタイプだ。

「ヒロ兄さん。お願いします」

「うん。OK。じゃー行こう!」
と言って車を走らせる。

ちなみに、隣の保育士さんも
今年ボクと一緒に働き始めたばかりの
新米保育士さんだ。




Vol.330
車中、何を話していいかわからないボクは
「最近どう?もう慣れた?」

程度の話題しか振れない。

「ん〜まだ慣れてないかな」
そういう彼女もどこか緊張しているようだった。

「幼児さんて大変でしょ。たくさんお世話がかかるから気が休まる時間がないんじゃない?」

(会話って難しい)

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