第四十九話【閃光】(Vol.481-490)
Vol.481
初めての招待行事は大成功に終わった。
と言ってもまだ終わってはいない。
そう、帰宅があるのだ。
帰るまでが行事である。
トイレを済ませて
駐車場に集合。
人数確認を行って
いざ乗車。
「にいちゃん!帰りは先頭で帰ったてや」
「そやなぁ〜でも、道わからんからな〜」
Vol.482
子供たちを乗せて車は動き出した。
帰りの車内は
サーカスの話題で持ちきりだ
話し込んでいる横をサッと追い抜く車あり
「にいちゃん!ヌカれた!」
思わずコウタが叫んだ
「あぁ〜そやな。まーいいやん。」
もう一台、小学生男子を引率している
職員さんがブイーンと車を追い越していく
Vol.483
残念がるコウタ
しかし、その数秒後
眩しい光がボクたちの前を照らした。
パシャ
アッ
という間もなく、ボクは感じた。
そう
モービス(速度追跡装置?)に引っかかったのだ。
・・・
(兄さんやっちまったな)
Vol.484
「兄ちゃん!なんか光ったで!」
真っ先に聞いてきたのはコウタだった。
(知られてはまずい)
と咄嗟に判断
「えっ?ほんま?なんやろ?」
「いやいや光ったって!なっ、みんな見たやろ?」
周りに同意を求めるコウタ。
見たという子もいれば、?の子もいる
車内は騒然となった。
Vol.485
もやもやとした空気のまま
ボクたちは施設に戻ってきた。
ショー自体は楽しかった。
が、その帰り道は・・・
子供たちを部屋にもどして
おやすみ行事。
サクッと終えて
早く寝かせた。
運転していた兄さんは
すでに帰宅していた。
(明日聞いてみよう。。。)
心の中でそうつぶいやいた
Vol.486
翌日、調理場に立つ兄さんを発見。
「おはようございます」
「おう!おはよう」
気さくに話しかけてくれるのは
アラタ兄さん
アラタ兄さんは調理師だ。
食で子供を支えてくれている。
もちろん、ボク達職員の胃袋も
満たしてくれる大切な人だ。
Vol.487
「兄さん。聞きたいのですが・・・」
恐る恐る声に出すボク
「昨日、お出かけ行事の帰りに
兄さん、モービル引っかかりました?」
・・・
「かもな」
「ですよね」
「やっちまったかも」
「ですよね」
それ以上の言葉は必要なかった。
Vol.488
子どもたちを楽しませるために
大人はいろいろなことをする
・ギャグ
・ダジャレ
・モノマネ
・自虐
・スピード違反
ただし、
点数と反則金を出してまで取れる【笑い】には
限界があることを学んだ。
このあと
兄がどうなったかはわからない
聞く勇気がボクにはなかった。
Vol.489
こうして初めての“お出かけ行事“が終わった。
計画・準備・引率・片付け・反省
行事をこなすにはたくさんの工程があるが
“百聞は一見にしかず“とはよく言ったもので
【経験】【体験】は自分の宝となることを学んだ。
これからもどんどん
子どもたちと一緒に
【体験】したいと感じた。
Vol.490
行事を終えた後は
どこか、もの寂しさを感じる。
ポッカリと心に穴の空いたような
空虚な感じがする。
楽しかったら楽しかった分
その穴は大きい。
翌朝、お礼状を書きながら
子どもたちとのやりとり
サーカスの熱狂を書き綴った。
感謝の気持ちを伝えることで
サーカスが一生の宝となった