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短編小説 動物会話 シリーズ 『おれ、カラス』
カァカァ!おれ、やま 。よろしくっ!最近ちょっと疲れてんだよね。
『電柱に、一羽のカラスがとまっています』
ゴミも最近なかなか落ちてなくてさ、みんなネットかけてるから大変なの。本当に、勘弁してほしいよ。
昔はあんなに簡単だったのに。食べられないじゃん。ちったー、俺達の気持ち考えて欲しいつーのっ!
鳩はいいよねーっ。平和の象徴とか、なんとか言われてさ、ちやほやされて!
知ってる?最初にね、鳩の前に本当はカラスが、水が引いたかどうか確かめに行ったんだけれど、という話らしい。
あの時、もしご先祖様が、鳩の後に行っていたらって、いまだに言われている。何事もタイミングだよね。ほんと、タイミング。
えっ?黒くて、でかくて、可愛いくないから、それはないって。んーっ、実は、俺もそう思う。てへっ。
「ガァガァ、よう!やまちゃん、元気?」
「おう、はしちゃん!お久しぶりブリッ!しばらく見なかったけど、なんかあった?」
「 ちょっと、田舎に行っとったばい」
「 ん?...そう。で、一体何しに?」
「 最近、なかなか街ん中じゃあ、食事大変だけん。だから、田舎で思いっきり羽ば伸ばして来たとよ。 生きんよか昆虫や木の実、あーっ、うまかった」
「あー、 いいないいな、一人だけ、羨ましいわ。けど、なんか、はしちゃん、言葉ヘン」
「あっ、だよ。 田舎に行ってたから、方言がうつったんだよ。ごめん、ごめん」
「どんな田舎よ?」
「うん、いきなり団子の有名なところ」
「あーっ、あそこか」
「けど、やっぱり、おっは都会が好きばい」
「だから...はしちゃん、言葉ヘンだって!」
「ごめん、ごめん。あそこの方言きっついから」
「 ところで、やまちゃん...元気にしてた?」
「 それが...聞くも涙、語るも涙の物語だよ。とほほほ......」
「 どしたん?」
「 最近の子供たちって、ひどいんだよ。 石投げんだぜ」
「 だね。俺も、何回も投げられているよ。この前なんか、お尻にクリティカルヒットして、本当に死ぬかと思ったよ」
「 だろう?やつら、ひどいよね!」
「 ところでやまちゃん、相変わらず、あれ、やってるの?」
「なに?」
「 あれあれっ、やまちゃんの得意なやつ。必殺技、木の実割り自動車!」
「 あーっ、あれね....あれでしょ?赤信号の時に木の実を置いて、車に割らせるってやつでしょう?」
「 そうそう、それ!」
「 それさーっ。この前、見慣れないやつが来て、俺がやってたの真似してさ、やろうとしたんだけど」
「 それで、それで?」
「 木の実は割れたんだけど、そいつバカだからさ、まだ青信号なのに、取りに行っちゃったんだよ」
「 あちゃーっ、やっちゃったか!あの世に行っちゃたか」
「 俺は、そんなヘマはしないけど」
「 それでやまちゃん、公園で水浴びって、まだやってんの? 水道の蛇口開いてさ。やまちゃん、綺麗好きだから」
「 うん、たまにね。けど、最近あんまりやんない」
「 どうして?」
「 聞いてよ!公園の近所にすごい乱暴な奴がいてさ、俺を追いかけ回すんだよ」
「 マジ、大変だね」
「 もう絶対っ!あの顔、忘れらんないよ。最初はね、ただ...俺、見てただけなんだよ。見てただけーっ、なのにさ」
「 なのに、あの小僧、気持ち悪い!とか言って...突然、石を投げ始めたんだよ」
「 信じらんないよ。動物虐待だよ。訴えてやるからな!」
「 やまちゃん訴えるって、どこに?」
「それは、もちろん、あそこ...えーっと、動物保護団体だよ。俺たちにだって鳥権はあるでしょう?」
「とり天って、大分の?」
「ちがうよ。鳥権!」
「な~んだ...鳥拳なら、中国の?」
「はしちゃん、やめてよ!いい加減、おちょくるの」
「アチャーっ!」
「はしちゃんっ!」
「えへへっ」
「あっ!」
「どうした?やまちゃん!」
「あいつだよ、例の小僧は」
「よしっ、俺にまかせとけ、やまちゃん!」
「どうすんの?」
「まあ、見てなって」
すると、はしちゃんは、人間の声まねを始めました。
「ここにーっ、いるよーっ!みているよーっ!」
少年は辺りを見回します。しかし、誰もいません。 少年がやまちゃんに気づきました。石を拾おうとしました。すると、はしちゃんは、まるでホラー映画みたいに、
「俺だよ、俺!ケケケケケケけっ!」
と、少年の瞳を見て笑いました。
「うわっ!」と、少年は声をあげると、その場に座り込みました。少年の股間はみるみる小便でびっしょっびしょになりました。ふらふらになりながら、少年は「わーん、わーん」と、大泣きして帰って行きました。
「いい気味だ!二度とやまちゃんに、石を投げんじゃあねえぞ!わかったか!」
はしちゃんは、ガアガア、ガアガアと少年の背中に、罵声を浴びせました。
「はしちゃん...ありがとう」やまちゃんは、もう嬉しすぎて、泣きそうです。
「いいって、やまちゃん」そして、二羽は、ハイタッチを交わしました。
「そろそろ帰ろうか?やまちゃん」
「帰るとしますか。こんな所で話してても、虫一匹でてくるわけじゃないし」
「ごめんね、今日はつまんない話でグダグダで」
「 けれども、俺の100%の力は出し尽くしました。俺はいつもそうです。鳥だけに『とりあえず』なんちゃって!」
「えっ、おもしろくない?」
「じゃあ、これは?」
そう言うと、やまちゃんは、まじめな顔で言いました。
「俺って....『苦労』ばかりだな...『クロウ』だけに...なんつって......下手かっ!」
「やまちゃん、さっきから誰と話してるの?帰るよ、いいかげん」
「は~い!」
「か~ら~すー、なぜなくの~、カラスのやまちゃんでした。てへっ!」
*
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
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