なぜウルトラマンはロングヒットなのか/現代における役割とは
娘がウルトラマンシリーズにハマり、親子三代でのロングヒットなのには何か理由があるはず・・・と思い、調べてみました。
ウルトラマンとは
ウルトラマンとは、円谷プロダクションが制作したテレビシリーズに登場するヒーローです。初回放送日の1966年7月17日から、2024年現在に至るまで「ウルトラマン⚪︎⚪︎」と名前のつくヒーローが70以上生み出されました。
円谷プロダクションの創業者は円谷英二さん。1901年7月7日生まれ。
20世紀最初の七夕の日に生まれた円谷さんは、日本の特撮シーンを牽引し、「特撮の父」として代表作に『ゴジラ』や『ウルトラマン』があります。
特撮が生んだビジネスモデル「円谷商法」
特撮とは、実写のカメラや室内セットでは撮影ができない映像を、ミニチュアなどを活用して撮影する特殊技術のこと。撮影には膨大な費用がかかるため、ウルトラマンシリーズではウルトラマンや怪獣のソフビ人形などの商品が販売され、撮影で出た赤字を補填するという構図が生み出されました。
これは「円谷商法」と呼ばれ、キャラクターのIPビジネスを確立したと言えます。
『真実と正義と美の化身』
初期のウルトラマンや怪獣はデザイナー・成田亨氏のデザインをもとに創作されました。
その際に描かれたウルトラマンのタイトルは『真実と正義と美の化身』。
真善美を象徴する存在ということでしょうか。
ここで「善」ではなく「正義」というキーワードが入っているのが肝なのではと思います。
実際、ウルトラマンシリーズでは、地球にやってきたウルトラマンと地底や海中から登場する怪獣との闘いを通じて「正義とは何か」「人間社会の歪み」を問うエピソードが多くあります。
ウルトラマンと社会(正義観)の変遷
ウルトラマンはその時代、その時代の人々が抱く社会像ひいては正義感を反映している作品だと思います。
ここまで登場したウルトラマンシリーズと社会情勢を総括してみると、次のようになります。
物質的な豊かさを求めた功罪を問う昭和ウルトラシリーズ
昭和のウルトラシリーズでは、高度経済成長期で物質的に豊かになり、娯楽を楽しめる余裕が生まれた日本社会において、『ウルトラQ』『ウルトラマン』『ウルトラセブン』が登場します。
まだ朝鮮戦争の記憶も新しく、ベトナム戦争の戦禍も激しくなる中、国防に対する緊張感も感じられる作品となっています。
続いての『帰ってきたウルトラマン』『ウルトラマンA』『ウルトラマンタロウ』『ウルトラマンレオ』においては、当時人気のあった作品の影響が感じられる作りとなています。
例えば、『ウルトラマンA(エース)』においては、『仮面ライダー』のショッカーのように組織化された敵の象徴として、異次元人ヤプールが超獣軍団を作り、地球に送り込んできます。
『ウルトラマンレオ』では、セブンがレオを指導するという関係性で描かれており、『巨人の星』で見られるようなスパルタ指導が行われます。
環境問題への意識の高まりから、人間が自然破壊をした結果として怪獣が登場するという描かれ方も多くあります。
1970年代には、『機動戦士ガンダム』を始めとするアニメ作品の人気も高まりました。その影響を受けて、『ザ☆ウルトラマン』というウルトラマンシリーズ初のアニメ作品が登場します。
『ウルトラマン80(エイティ)』は、当時人気を博していたドラマ『3年B組金八先生』の影響を受け、ウルトラマンに変身する地球人が体育教師の設定となっています。
アニメ、テレビドラマと、人々の娯楽の選択肢が広がっているのを感じます。
海外展開を模索した80年代
『ウルトラマン80(エイティ)』を最後に国内でのテレビシリーズ制作は止まります。背景には、制作側の円谷プロダクションと放映側のTBSの関係が悪化したことがあるそうです。
その間、ウルトラマンシリーズはアニメや特撮でアメリカやオーストラリアでの海外展開を模索します。
60〜70年代の日本における就労観として「モーレツ社員」という言葉に象徴されるように仕事一辺倒であったのに対し、「過労死」というキーワードが出てくるように変化したのが80年代でもあります。
ちなみに過労死は英語でそのままKaroshiという単語に翻訳され、死に至るような働き方をしてしまう日本の企業文化の特徴的な現象とも言えます。
円谷プロダクションにおいては、2代目社長の円谷一氏は41歳で、昭和第1期シリーズの企画と脚本を担当した金城哲夫氏が37歳で逝去しています。このことは、モーレツな働き方が背景にあったのではと考えられます。
人間の精神性に対する葛藤を問う平成前期ウルトラシリーズ
90年代に入ると、バブル崩壊、95年には阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件といった日本社会を揺るがす大きな出来事が発生しました。
そんな折、ウルトラマンシリーズ30周年を記念して登場したのが『ウルトラマンティガ』です。のちの『ウルトラマンダイナ』『ウルトラマンガイア』と合わせてTDG三部作と呼ばれます。
この頃から、円谷プロダクションとバンダイとの関係が深まり、玩具の展開を意識したシリーズ制作が行われます。
具体的には、「タイプチェンジ」という、戦う怪獣の特性に応じて、ウルトラマンがスピード重視タイプや光線技が得意なタイプ、格闘タイプなど、特化するタイプにチェンジして戦うようになりました。
「タイプチェンジ」によって、ウルトラマンの色や模様が変わるので、例えば子どもが「ティガのソフビ人形を揃えたい!」となると、親は3種類の色のティガを買う必要が生じるのです。
令和においては、変身アイテムがメダルで変身したり、カードで変身したり、さらには拡張アイテムがあったりと、毎年仕様が変わるため、これを買い揃えるのにも、なかなかの費用がかかります。(つまりは、それだけバンダイの売上が上がっているということです。)
2001年には、9・11テロ事件が発生し、世界の出来事がすべて日本にも繋がっていることを感じる紛争や事件が多く発生します。
国連が「ミレニアム開発目標」を掲げたのも、各国の経済活動が連動し、拡張していくことによって地球全体に及ぼす影響が大きくなってきたのを象徴している出来事だと言えます。
日本では『ポケットモンスター』が流行し、モンスターと共存している世界観への共感を意図して、『ウルトラマンコスモス』では、怪獣との共存がテーマとして描かれました。
「ブラック企業」というキーワードが登場したのもこの頃で、「24時間戦えますか?」といったCMは流せない時代へと変遷していきます。
円谷プロにおいては、円谷一族のおおらかな経営によって生じた歪みが「お家騒動」と呼ばれる事象を引き起こします。
具体的には、
2003年に第5代目社長に就任した円谷昌弘氏(創業者の長男の息子その1)が女性社員よりセクハラによって民事訴訟をされ翌年退任
2005年に第6代目社長であった円谷英明氏(創業者の長男の息子その2)を会長である円谷一夫氏(創業者の次男の息子その1)が解任
2007年に円谷一夫氏が東宝から招聘していた第7代目社長の大山茂樹氏を解任し、会長兼第8代目社長となるも翌年解任
といったことが起きます。
従業員の立場だったら「うちの会社、どうなっちゃうんだろう」という感じですよね。
そうこうしているうちに、2007年にコンテンツ制作会社TYOが円谷プロを買収。円谷一族は経営から一掃され、外部から経営者を招いて経営改革が行われ、平成後期・令和シリーズが生まれる組織基盤が作られることとなります。
未来への不安と変容を感じる平成後期・令和ウルトラシリーズ
2008年リーマンショックにより経済が揺らぎ、2011年には東日本大震災が発生します。これまでの市場経済のあり方や政治への不信が募る出来事であったと言えます。
2009年に『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』でウルトラマンゼロが登場します。ウルトラマンセブンの息子かつ若手最強の戦士という戦闘力、さらにはこれまで登場した生真面目なウルトラマンとは一線を画した不良っぽいキャラ設定が人気を博します。
2011年にはシリーズ45周年を記念して『ウルトラマン列伝』がスタート。ここでも番組のナビゲーターをウルトラマンゼロが担当し、ゼロシリーズの人気が盤石なものとなります。
その後、平成第3期・令和シリーズは『ウルトラマンギンガ』を皮切りに毎年新たなヒーローが登場しています。
私は娘のおかげで、平成第3期・令和の全シリーズを見ることになりました。
それぞれの特徴をざっとご紹介すると、
『ウルトラマンギンガ』は主人公が中学生で、学校を舞台に怪獣が暴れ回ります。ウルトラマンタロウがソフビ人形の姿で登場するのがシュールです。後半に登場する地底人がウルトラマンビクトリーとなり、共闘するのが続編の『ウルトラマンギンガS』です。
『ウルトラマンX(エックス)』では怪獣を愛する主人公がウルトラマンXとユナイトして地球を守ります。Xはデバイス上で会話ができるようになっており、デジタル技術を活用するとウルトラマンと会話できる未来があるかもと期待感を持たせてくれます。防衛隊ジオの車が飛行するのもメカ好きな人にとって楽しい作品です。
『ウルトラマンオーブ』ではオーブのライバル・敵役のジャグラスジャグラーが好演で、ヒールのファン層を獲得します。ここから「ダークネスヒールズ」というジャンルが開拓されたのではないでしょうか。
『ウルトラマンジード』ではウルトラの父のライバルであった「ウルトラマンベリアル」という悪役の遺伝子から作られたウルトラマンジードの葛藤が描かれます。
『ウルトラマンルーブ』では家族の絆をテーマに兄・湊かつみと弟・湊いさみがウルトラマンロッソとウルトラマンブルに変身。さらには妹・湊あさひもウルトラマンウーマングリージョに変身して家族が暮らす街を守ります。
『ウルトラマンタイガ』はウルトラマンタロウの息子。ウルトラの父や母を「じいちゃん」「ばあちゃん」と呼び、ぼんぼんなウルトラマンです。ウルトラマンタイタスとウルトラマンフーマと3人でトライスクワッドというチームを組み、人間との絆について理解を深める物語です。
『ウルトラマンゼット』はおっちょこちょいで向こう見ずな熱血漢な部分があるウルトラマン。ウルトラマンゼロを勝手に師匠と呼んで慕う、後輩気質。ゼットの名前はウルトラマンA(エース)が「最後のウルトラマンとなってほしい」という願いを込めて名付けられました。
『ウルトラマントリガー』は『ウルトラマンティガ』のリバイバル版。火星で育った若者がトリガーに変身し、地球の危機を守ります。最後は当初敵キャラであったウルトラマントリガーダークネスと共闘します。
『ウルトラマンデッカー』はトリガーが去ったあとの地球が舞台。下町の煎餅屋の跡取り息子が持ち前の正義感からウルトラマンになり、防衛隊に入ります。
『ウルトラマンブレーザー』はこれまでウルトラマンに変身するのは血の気の多いルーキーばかりだった中、防衛隊の隊長ポジションの人がウルトラマンに変身する初のケースです。家族を持ちながら、職場では中間管理職という立場で葛藤しながらウルトラマンとして地球を守ります。
『ウルトラマンアーク』は現在放映中。またまたフレッシュな主人公が子どもの頃に自らが描いたヒーロー像(ウルトラマン)に変身して想像の力で武器や技を繰り出します。
毎年こうも手を替え品を替え、視聴者が飽きないように設定が違うヒーローや主人公を繰り出す制作陣の方々の苦労たるやいかほどか。
「むしろ飽きないの?」と聞かれると、夏休みに池袋サンシャインシティでサマーフェスティバル、冬休みに東京ドームでニューイヤーフェスティバルが開催されて、その白熱のショーを見てしまうと、ついつい、次の作品も・・・と見てしまうようになってしまうのです。
一体どんな会社が運営しているのか?
2024年現在、株式会社円谷プロダクションの主要株主は円谷フィールズホールディングス(保有比率51%)とバンダイナムコホールディングス(保有比率49%)となっています。
円谷フィールズホールディングスとは
2010年、先述のコンテンツ制作会社TYOがパチンコ・パチスロ機械の企画・販売を行うフィールズ株式会社に円谷プロの株式を51%売却。円谷はフィールズ社の連結子会社となりました。
フィールズ社にとって、ウルトラマンをパチンコの機械に反映できるのは魅力的だったのだと思います。
2022年にフィールズは円谷フィールズホールディングス株式会社と商号を変更します。それだけ、円谷が有しているコンテンツの力が大きいということですね。
実際、コンテンツ&デジタル事業の売上の5割を円谷プロダクションが占めており、中期経営計画においてもウルトラマンのIPビジネスを事業の主軸に置いていることが伺えます。
特に海外での売上が今後も見込まれているようです。日本では子どもが減って玩具の売上にも限界がありますものね。
円谷プロとバンダイの蜜月関係が続く限り、ウルトラマンシリーズも当面、毎年公開されることになるんじゃないでしょうか。
ウルトラマンと怪獣の役割とは
1966年の放映開始から、半世紀以上。
経営母体の紆余曲折はありつつも、ウルトラマンがここまで継続してきたのはその時代、その時代の人々の心の声を反映してきたからなのではと思います。
テレビシリーズは視聴率を求める必要がある中で視聴者の興味関心に沿った脚本が検討されるため当然とは言えます。
しかし、300万光年離れた光の国からやってきた宇宙人が、地球人と融合し(融合しないパターンもある)、怪獣や他の星人たちと戦うという設定が未だに色褪せないのはすごいことだと思います。
最初にこの設定を創作した初期の制作陣の方々の想像力がもの凄いのはもちろん、この設定を踏襲しつつ、時代に合わせて主人公や防衛隊や怪獣の性質を発展させてきた制作陣の方々の尽力も素晴らしいんだと思います。
例えば、これだけ多くのウルトラマンなんちゃらが同時代の地球で登場することについて、並行宇宙という設定が付加されています。
お陰で娘もそれを当たり前に受け止めています。
「私たちが生きている地球にウルトラマンはいないけど、並行宇宙の地球にはウルトラマン⚪︎⚪︎がいるんだよね〜。いつかこっちの地球にも来てくれるかなぁ」みたいな感じに。
怪獣について言えば、昭和シリーズにおいて、多くの怪獣は地球から発生するものが中心であったのに対し、令和シリーズにおいては、怪獣は外部からの侵略もしくは刺激が原因という描かれ方が中心となっています。
科学的な発見により、地球の構造がより明らかになってきたことで、地底や海底から怪獣が発生するという設定がリアリティを持ちづらいということもある側面、宇宙の構造への理解も進む中で、外部とのコンタクトもありうるかもしれないという可能性が開けてきたからなのではないでしょうか。
こうして、怪獣の発生が地球内部から地球外部に移行することで、ウルトラマンから、「果たしてあなたはどこまでを自分として見なすことができるのか?」というのを問われている気がします。
世界の前提を地球と捉えると、日本対その他の国というふうに世界を認識するけれど、世界の前提を太陽系とすると、地球対その他の星というふうになる。
直近のウルトラマンアークは自らの暮らす星の恒星が暴発してそのエネルギーの捌け口に地球があり、それを食い止めにきたという設定です。
つまり、ウルトラマンがとらえる世界の前提は銀河よりもっともっと広い。全宇宙に生きるすべての人が幸せに暮らせるよう最善を尽くすのがウルトラの戦士なんです。
だから、怪獣と闘うときも「人間だけに与する存在でよいのか」とウルトラマンは葛藤しますし、なるべく殺さないように工夫したりもします。
「正義と悪」「敵と味方」「光と闇」という区分は、自らと他者を分けることで生まれる区分です。
ウルトラマンはいつの時代も私たちの心の葛藤を表現する象徴であり続けるし、「正義と悪」という考えが存在する限り、登場するのかなぁと思います。
ウルトラマンが登場しなくなる時は、私たちが「正義と悪」や「光と闇」と言った二分法な考えを超越し、ウルトラマンになる時なのではと。
参考文献
今回、これらの情報をまとめるにあたって参考にした書籍が以下。
↑こちらの著者は学校で教壇に立つ先生でもあり、授業でウルトラマンを教材に生徒たちに正義について考えてもらうきっかけにしているそうです。おもしろい!
↑こちらは歴史学者の先生による著作。政治的な国民意識とどう連動しているのかという洞察と、各作品の残念な側面だけでなく肯定的な側面についても触れており、ウルトラマンへの愛が感じられます。
↑こちらは6代目社長による著作。円谷お家騒動の内情を赤裸々に記されています。円谷プロが相当に杜撰な経営をしていたことが伺えるエピソードがてんこ盛りで、逆にウルトラマンが持つコンテンツの力って相当すごいんだなと感じさせる内容でした。
以上。ウルトラマンについての考えでした。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?