見出し画像

「介護の大変さを、少しでもやわらげる方法」㉟『三つのよいことエクササイズ』

 いつも読んでくださっている方は、ありがとうございます。
 おかげで、書き続けることができています。

 初めて読んでいただいている方は、見つけていただき、ありがとうございます。

 私は、臨床心理士/公認心理師越智誠(おちまこと)と申します。家族介護者の心理的支援を仕事にしています。


家族介護者の負担


 まるで、コロナが明けたかのように
言う人も増えてきたようになりましたが、ご高齢者に関わることが多い家族介護者の方にとっては、実際はコロナ禍が完全に終息したわけではありませんし、それほど不安の大きさが変わっていないかもしれません。

 それに、もともと、介護が始まってから、いつ終わりが来るか分からない毎日が、ずっと続いているかと思います。

 その気持ちの状態は単純ではなく、説明しがたい大変さではないかと推察することしかできないのですが、それでも、ほんの少しでも負担感や、ストレスを減らせるかもしれない方法は、お伝えする努力はしていきたいと考えています。

介護の大変さを、少しでもやわらげる方法

 時間的にも余裕がなく、どこかへ出かけることも出来ない場合がほとんどだと思いますが、この「介護の大変さを、少しでもやわらげる方法」シリーズでは、お金も時間も手間もなるべくかけずに、少しでも気持ちを楽にする方法を考えていきたいと思います。

 今回は、「ポジティブ心理学」についての本を読み、改めて心理的負担を減らす方法を知り、お伝えしようと思いました。まずは、その方法だけを早く知りたい、という方は、『三つのよいことエクササイズ』を読んでいただければ、と思っています。

セリグマン、という存在

 心理学や臨床心理学を学んだときに、ただの学生から見ても、もしくはそれほど詳しくない素人から考えても、すでに過去の人であって、多くは書籍などで、その考えや思想に触れるしかないのですが、それでも、すごい人だと思える人はいます。

 臨床心理学というか、臨床心理士といった存在を考えるときにフロイトの存在は不可欠でした。話を聞くことに治療効果があること。人は自分では意識していない無意識に、かなり影響されること。

 そうしたことを最初に主張し始めたとき、今のように、フロイトの思想が一般化していない世界で、どれだけ奇異にうつったのか。それを想像するだけでも、フロイトの大変さが少し伝わってくるような気がします。

 それでも、精神分析学をつくりあげたといってもいいのですから、このフロイトという人がなければ、私のような仕事があったかどうかもわからないくらい偉大な存在だと思います。

 もちろん、その他にも、素直にすごいと思える人は多くいて、というよりも、心理に関わる天才と言えるような人たちは、おそらくは理解が難しいのだろうということもわかってきたように思います。

 そして、心理学を少しでも勉強した人ならば、おそらく誰もが知っている言葉があります。

『学習性無力感』。

 セリグマン(Seligman)という心理学者が,イヌを使った有名な実験を行っています。電気ショックが来てもボタンを押せば逃げられるというような状況で,普通イヌは試行錯誤しながら速やかに学習します。ところが,何をしても逃げられないというような装置を経験すると,次に,行動しだいでは逃げられるような装置に変わっても,何も試行錯誤しようとせず,電気ショックを甘んじて受けるイヌになってしまうのです。
 そこだけを見ていると,いかにもやる気のないイヌのように見えますが,はじめからそうだったわけではありません。「自分が何をしてもだめだ」ということを後天的に学習してしまった結果として無力感を獲得してしまったと考えられるため,学習性無力感と呼ばれています。

(『日本心理学会』ホームページより)

 これは、心理学の中では、有名な理論であり、この実験もかなり広く知られているものだと思います。動物愛護の視点から見たら、もしかしたら現在では倫理的に実施するのが難しいかもしれませんが、この『学習性無力感』が印象に残るのは、どんな人にとっても、あまりにも思い当たるからではないでしょうか。

 生きている時間が長くなるほど、何をやっても変わらない、といった諦めに近い気持ちになり、いつの間にか、それが日常になると、頑張れば変わるかもしれない、と思っていた自分自体を忘れてしまう。

 そんなことが、どこか当たり前だと感じてしまっている自分もいるのですが、こうした感覚に陥ること自体も、『学習性無力感』ではないかと思い、この理論は、あまりにも広く浸透していますし、納得感があるような気がします。

 そのせいか、学習の場面だけではなく、ビジネスの現場でも語られるようになっています。

 同時に、この犬を使った実験を実際に見たわけでもないのですが、図版などを含めて、その模様を想像すると、なんとも言えない気持ちになるのと同時に、こうした『学習性無力感』とうい仮説を立てて、それを実験によって実証する、という凄さを感じます。

 どうして、こうしたことを思いつき、そして、理論的な視点から見たら「適切な」方法を採れたのだろう。(もちろん動物愛護の観点から見たら、全く違う感想になるとは思うのですが)。マーティン・セリグマンという名前は、『学習性無力感』と共に、ある意味では忘れ難くなるのですが、同時に、この理論とともに記憶されてきた存在ではないかと思っています。

ポジティブ心理学

 そのセリグマンが、「ポジティブ心理学」を強く唱え出した、ということを知ったのは、2000年代になってからでした。

 すでに伝説的な存在になっていましたし、こうして広く、しかも人々の考えや感覚に影響を与えるほどの『学習性無力感』という理論を提唱したら、それで十分ではないか、といったような思いがあったので、その「ポジティブ心理学」について、最初は素直に肯定的に見られませんでした。

 確か、アメリカ心理学会の会長という地位についたのは私のような人間でも知っていましたから、これ以上、何かをしようとするのはすごいと思うのと同時に、「ポジティブ心理学」の有効性のようなものを信じられなかったのは、臨床心理士として日々行なっている仕事とも関係しているのかもしれません。

 色々と困難な状況に遭遇し、心理的には、わかりやすく言えばマイナスになっている状態を、ゼロに戻すようなイメージで仕事を続けてきましたので、ポジティブという響きに対して、なんとなく構えるような気持ちになってしまっていたからでした。

 しかも、あの『学習性無力感』の理論を提唱しているセリグマンが「ポジティブ心理学」を主張していることが、勝手なイメージですが意外な感じもしていました。

 そんな微妙に敬遠するような気持ちでいたのですが、フォローもさせてもらっている人が、すすめてくれていたので、一度は読もうと思いました。


『ポジティブ心理学の挑戦 “幸福”から“持続的幸福”へ』  マーティン・セリグマン

 この書籍を読むと、最初にセリグマンがアメリカ心理学会の会長に就任したあとに、様々な人から連絡が来た、ということも書いてあります。
 そういう社会的に高い地位のようなものを経験したことがないとわからないとは思うのですが、それ自体はなんとなく予想がつくようなことではないかと感じていました。

 ただ、その中で、知らない人から「私に会いに来なさい」といった内容のメールが来て、それを知り合いに尋ねたら、ぜひ行くべきというような答えをもらい、なんだかちょっと怪しい場所で人に会うのですが、最初に、心理学会のことを尋ねられ、これから行うことについて説明をしたら、それについて書類提出を要求されたのですが、2週間後に12万ドルが出資された、という話は、そんなことがあるのだろうか、と思えることでした。

 さらに、別の機会に、そのちょっと謎な人たちにポジティブ心理学のことを伝え、その説明を3ページで送付すると、1ヶ月後に150万ドル以上の小切手が届いたという話も書かれていました。

 そんな不思議なことで、ポジティブ心理学が本格的に始動したらしいのですが、寄付の文化が根付いているのか、それとも独特の富裕層がいる社会なのか。そうしたアメリカ社会の知らない部分の方が気になったりもするのですが、そうした人たちがいるのならば、新しいことが進むスピードが圧倒的に早くなるのはわかる気もしました。

 同時に、そのポジティブ心理学そのものに対しても、自分は本当に知らないことばかりだったのが、こうした書籍を読むと、改めてわかりました。

 私はかつて、ポジティブ心理学のテーマは「幸せ」だと考えていた。幸せを測定する判断基準は「人生の満足度」で、ポジティブ心理学の目標はこの人生の満足度を増大することだと考えていた。
 私は今や、ポジティブ心理学のテーマは「ウェルビーイング」だと考えている。ウェルビーイングを測定する判断基準は「持続的幸福度」で、ポジティブ心理学の目標は持続的幸福度を増大することだと考えている。  

(『ポジティブ心理学の挑戦』より)

 当然ですが、こうした思考の変化がある方が、学問的には信頼度が増すように思います。

三つのよいことエクササイズ

 その中で、介護中でも、少しでも大変さをやわらげることができそうな方法も、具体的に述べられていました。

 毎晩寝る前に10分費やしてみよう。今日うまくいったことを三つ書き出して、それらがどうしてうまくいったのかを書いてみよう。

(『ポジティブ心理学の挑戦』より)

 なんとなく、どこかで聞いたような気もするのですが、10分で、三つという具体性によって、方法論になっているとも思いますし、このやり方を基本的には守る、ということだと思います。さらに、説明が続いています。

 それぞれのポジティブな出来事の隣に、「この出来事はなぜ起きたのだろう?」という質問に答えてみよう。例えば、「夫がアイスクリームを買ってきてくれた」と書いたのであれば、「夫はときどき本当に気が利くので」「私が職場から夫に忘れずに電話して、帰りにお店に立ち寄ってくれるよう念を押したから」などだ。

(『ポジティブ心理学の挑戦』より)

 最初、この「三つのよいことエクササイズ」は、例えば介護中で負担感が重いときは、そうしたことをする気が起きず、かえって負担になるのでは、と疑っていました。

 ただ、心理学の専門家であり、心理学学会の会長も務めているような人であるから、こうした方法の実証も行っており、重度の抑うつ状態の人にも効果があった、ということですので、それならば、介護負担感が重く、何もやる気がない方にも、よかったら、おすすめしたいと考えました。

 よろしかったら、この「三つのよいことエクササイズ」を試してもらえたら、と思っています。

 もし、この方法が合わない場合は申し訳ないのですが、お手数ですが、他のやり方も試してみていただければ、幸いです。




(他にも介護のことについて、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。



#介護相談       #臨床心理士  
#公認心理師    #家族介護者への心理的支援    #介護
#心理学       #休養学 #推薦図書
#家族介護者   #臨床心理学   #今できることを考える
#介護の大変さを少しでも 、やわらげる方法
#家族介護   #介護家族 #介護職 #介護者相談 #家族介護者への心理的支援
#介護相談 #心理職   #支援職  #家族のための介護相談
#私の仕事      #介護への理解 #家族介護者支援note
#専門家  #介護者相談 #最近の学び


いいなと思ったら応援しよう!

越智誠  臨床心理士/公認心理師  『家族介護者支援note』
 この記事を読んでくださり、ありがとうございました。もし、お役に立ったり、面白いと感じたりしたとき、よろしかったら、無理のない範囲でサポートをしていただければ、と思っています。この『家族介護者支援note』を書き続けるための力になります。  よろしくお願いいたします。

この記事が参加している募集