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家族介護者の支援について、改めて考える⑥「家族介護者への個別で心理的支援の窓口は、どうすれば増えるのか?」

 いつも読んでくださっている方は、ありがとうございます。
 おかげで、こうして書き続けることが出来ています。

 前回まで読んでいただき、家族介護者への個別での心理的支援の必要性について、少しでも、ご理解いただければ、幸いですが、今回は、その後に、「どうすれば、そうした相談窓口を一つでも増やせるのか?」を考え、皆様のお知恵をお借りしたいと思っています。

 今のところ、お恥ずかしいことなのですが、自分だけでは、この点については、かなり行き詰まっているような状態なので、すみませんが、よろしくお願いいたします。

行政の相談窓口

 いつも自分の身近な話で申し訳ないのですが、それでも、これは個別な例ではなく、どこに住んでいても、似たような状況だと思います。

 例えば、東京都大田区にも「区民相談室」というのが設定されています。

 現在は、コロナ禍のために一部休止の相談もあるものの、例えば「大田区報」にも掲載されています。それぞれの「区民相談室」が設置されていて、月に1回から、週に3回とその開設頻度にばらつきはありますが、定期的に開かれています。私自身も利用したことがありますし、今後も何かあったら、専門家に相談できる貴重な場所なので、利用すると思います。

大田区の「区民相談室」

「法律」     相談員:弁護士
「不動産取引」  相談員:宅地建物取引士
「登記」     相談員:司法書士
「税務」     相談員:税理士
「公証」     相談員:公証人
「社会保健労務」 相談員:社会保険労務士
「行政」     相談員:行政相談委員(総務大臣が委託した民間有識者)
「行政手続」   相談員:行政書士
「土地・建物」  相談員:土地家屋調査士
「健康」     相談員:産業医の資格を持つ医師、産業保健師

その他の相談

○保育サービスアドバイザーへの相談
○更生保護、いじめ、非行問題など
◯女性・DV・男性の相談
◯福祉相談
◯一級建築士による無料建築相談

 これだけの相談窓口があって、どれも無料で利用できるはずですが、この中に、もう一つ相談窓口を増やすことはできないでしょうか。

「家族介護者のための相談」  相談員:臨床心理士/公認心理師

 相談員の専門家として、臨床心理士/公認心理師としたのは、自分の仕事に引き寄せ過ぎの部分もありますが、それでも介護者の個別の心理的支援には適性があると思っていますし、各地で、この専門職を公募すれば、おそらくは応募者が全くない、ということも考えにくいからです。

 専門家としての報酬を、他の相談窓口の専門職とのバランスも考えて、きちんと支払いがされるのであれば、月に一度であっても機能すると思われますし、例えば認知症カフェを一か所設置する費用と比べると、その辺りは詳細が分からず、申し訳ないのですが、それでも、それほどの費用はかからないと思います。

 健康保険などの加入も、いわゆる時給であり、報酬として雇用することになるでしょうし、予算的な負担も、それほど重くないと思うのですが、いかがでしょうか。

介護者相談の窓口の必要性

認知症施策の総合的な推進について (参考資料) ↓

 こうした資料を見ても、高齢社会となり、2025年には認知症が600万人から700万人などと言われているような状況なのは明らかです。

 それに関わらず、介護者専用の個別の相談窓口がほとんどない、というような現状の方が、もしかしたら「異常」と言えないだろうか、とも思っています。

 まずは、介護者が増加していると思える現時点で、各地の行政で、「区民(市民)相談」の一つの窓口として、個別な心理的支援としての「介護者相談」を加えても、そんなにおかしく思えないのですが、どうでしょうか。

 それは、自分自身の仕事や、やってきたこと、やろうとしていることに引きつけ過ぎの可能性も低くはないとも思いますが、この高齢社会で、そこまでおかしいことを主張しているとも考えにくいです。それでも、この10年でも、これだけ、介護者の相談というものが広がらない現状に対して、自信が持てなくなっています。

現在の状況

 高齢者ご自身や介護をしているご家族、介護にたずさわるスタッフの方の悩みごとを臨床心理士が個別にお話しをうかがいます。
臨床心理士とは、心理学的な方法を用いてサポートする「こころの専門家」です。

 東京都北区では、毎週水曜日に、このような相談が行われています。家族だけの窓口ではないのですが、予約して個別に相談が行われているので、個別な心理的な支援になっていると思われます。


 東京都台東区の相談です。

 認知症高齢者を介護するご家族や介護者が抱える日常生活における悩みや介護方法など、臨床心理士が相談に応じます。
「このようなときはどのように対応したらよいか」「いつもストレスがたまってしまって困っている」などの悩みのある方は気軽にご相談ください。地域包括支援センターでの出張相談も行っております。


 東京都世田谷区にも、相談窓口があります。

 日頃の介護からちょっと離れて、自分自身の気持ちに思いを寄せてみませんか。
 大勢の前では話しにくいことでも、臨床心理士が個別にお話をお伺いします。
 どうぞご活用ください。

 東京都23区内では、自分の無知もあるのですが、あといくつかの区で行われているのかもしれませんが、それでも、とても23区全てに設置されているわけではないようです。

 この状況は、認知症の方が増えている現在でも、増えていない印象があります。

 私自身も、こうした相談を始めて7年目になります。今のところ、秘密保持のことも含めて、どこで行っているかなど、詳細を述べられなくて、申し訳ないのですが、今も継続できているのは、利用していただいている家族介護者の方々や、行政のスタッフの方々のご努力とご尽力であるのは間違いなく、今も感謝しています。私も、家族介護者の方にとっても、少しでもお役に立てれば、と思いながら、続けています。

 ただ、始めた頃は周囲の別の行政地域でも、「介護相談」が少しでも増えるのではないか、と思っていたのですが、今のところ、その気配もありません。

 それは、自分の力不足もあると思います。それでも、この10年、その必要性も機会があれば、伝え続けてきたつもりなのですが、本当に状況が変わらず、だから無力感に負けかかることが多いのですが、それでも、こうしてこの場所でも伝えることで、一人でも伝わる人がいれば、と思っています。

改めて、個別の支援が必要な理由

 高齢者虐待防止法が施行されたのが、2006年のことになります。


「高齢者虐待防止の基本(資料)↓」


 それでも、その後、介護殺人や介護心中が目に見えて減少傾向にあるという印象はありません。

 介護殺人や介護心中をテーマに研究や調査を継続されている、私が知る範囲では、ほぼ唯一の研究者であると思っているのですが、この方の調査によると、こうした報告もあります。

 1996年から2015年までの20年間に、介護殺人事件は少なくとも754件発生しており、762人が死亡していた。

 単純な計算をするのも不遜かもしれませんが、1年間で、約38件の介護殺人事件が起きていることになります。1年間は約52週間なので、2週間に1件以上起こっていることになります。

 これは、やはりかなりの数であり、そして、減少傾向になっていないことは、不安材料でもあり、今後、2025年に団塊の世代の方が後期高齢者になることを考えると、さらに不安が膨らむように思います。


 そして、介護殺人よりも、さらに語られることが少ないのが、介護を理由にした自殺のことです。

 2007年から2015年の9年間に介護・看病疲れを同期とした自殺者数は2515人、うち男性1505人、女性1010人であった。

 そうした中で、注目すべき報告もあります。

 2000年に介護保険制度が導入されたが、この制度の導入により介護殺人の件数が顕著に減少したという傾向は確認できない。

  介護保険は、あくまでも要介護者のためのものであり、家族介護者への支援が主な目的になっていません。もちろん、デイサービスやショートステイなどは介護者のレスパイトの目的もありますし、それで家族介護者の負担が減っているのは、私も家族介護者でしたから、利用しないと介護を続けられなかったのも事実なのは、知っています。

 ただ、それだけでなく、家族介護者への、もっと直接的な支援は必要だと思います。少なくとも、介護殺人や心中、自殺者が減少傾向にないのであれば、これまでに力を入れていなかった支援方法を検討した方がいいと思っています。

 それは、家族会や認知症カフェだけでなく、個別な支援も必要だと考えているのは、このシリーズで述べてきた通りです。

介護者支援の必要性への疑問

 現在、個別な心理的支援を行っている行政の関係者の方であれば、納得していただけると思うのですが、こうした相談窓口を設置する前は、「こうした具体的な解決をするのではなく、いってみれば、愚痴を聞いてもらうような場所が必要なのか」という疑問を持っていらっしゃったような気がします。

 私自身も、介護を始める前でしたら、同様のことを思っていた可能性が高いと思っています。

 そうした関係者の方が、この記事を読んでくださっている可能性はかなり低いと思うのですが、もし、いらっしゃったら、お聞きしたいのが、こうした相談窓口を設置する前と後で、随分と、こうした相談への印象は変わっていませんでしょうか?ということです。

「介護者支援」の利用のされにくさ、の理由

 もし、今から窓口を設置したとしても、そこに相談者が絶え間なく訪れたりするのは、早くて半年後、通常は、1〜2年は時間が必要だと思っています。

 それは、介護者に関するこうした問題が、まだ理解されていないまま、ということだとも思っています。

 地域包括ケアシステムは自助と互助を重視しており、介護者についても基本的に、自ら生活を整え、周囲の協力を求めることができる者が想定されているように思う。しかし堀越(2013:11)によれば、介護者は「客観的にみると支援が必要なのに本人がそれに気づいていない」、あるいは「自分の中で問題が整理されておらず、生活のしづらさや生きにくさの状況を相手にわかる形で話すことができない」という特徴がある。介護殺人に関して言えば、(中略)そもそも自助を期待できない者、あえて公助を求めない者が事件の被告として裁判の場に数多く現れているのだ。  (前出「介護殺人の予防」より)

 この中での介護者の特徴は、このまま読むと、「劣った特徴」のように思えるのではないでしょうか。

 反論まではいかないのですが、個人的には、私も、最も介護で追い込まれているときには「生活のしづらさや生きにくさの状況を相手にわかる形で話すことができない」人間だったと思います。それは、どこかで、「話しても分かってくれない」という経験を繰り返した上での事でもありました。

 どちらにしても、介護状況が厳しければ、誰しもがこの状況になりやすいと考えた方が、介護者を理解しやすいのではないか、と個人的には思っています。

 ただ、どちらにしても問題は、最も支援が必要な状況の介護者が、こうした特徴であれば、どうなるのか。例えば、「介護者の相談窓口」を設置したとしても、自分は、そこに行く必要はない。そんなに困っていない。もしくは、相談しても分かってくれそうもない。と思ってしまう確率が高いのではないか、ということです。

 そうなると、例えば、この記事を読んでいただき、介護者の相談窓口を設置していただいて、心理職を雇用したもらったとしても、そこに当初から、介護者自らが積極的に訪れる機会は、ほとんどないと思えます。

 それで、半年、もしくは1年がたって、ほぼ利用する人がいない。やっぱり、あの人(越智)が言っていたことなんで、嘘だったんだ、と思われるかもしれません。

 ただ、前述のように、介護者は、自分が困っていることがわかりにくいほど、追い込まれています。また、具体的に何もしてくれない窓口が、どのように役に立つかも理解してもらえないと思います。

「介護相談」の有効性の分かりにくさ

 これは、卑怯な言い方になってしまうのは自覚していますが、こうした相談窓口は、利用していただいて、初めて、気持ちが楽になった。少し理解してもらった。そのことで、こういう相談は、意味があると分かっていただけると思いますので、家族介護者の方にとっても、その必要性が伝わりにくく、ここに関しては、自分の力不足も痛感しています。

 ただ、まずは、設置していただいた上に、その窓口を利用してもらうためには、そのための方法も必要になります。ただ、チラシや公報などで周知するだけでは、おそらくは、一人も来ない確率が高いと思います。

 介護者は、どれだけ困っても、誰かに相談する、と思いにくくなっている上に、体が疲れて、出かける気力も無くなっていると思いますので、そんなことも、少なくないと考えられます。

 では、どうすればいいかを、もしかしたら、生意気かもしれませんが、介護相談の有効な運営を、自分の経験も含めて、少し考えてみます。

「介護相談」の有効な運営への提案

 もし、相談窓口を設置しても、利用する家族介護者がいない場合は、介護の専門家の方々に利用していただくのはいかがでしょうか。

 例えば、要介護者だけではなく、その介護をしている家族に関して理解できない。
 家族が、ずっと元気がなくて心配。
 介護をしている家族から、こんなことを言われて困っている。

 架空の課題ではあるのですが、そんなことで困っていらっしゃる専門家や支援者も少なくないのではないでしょうか。

 そうした方々に、まだ利用者がいない「介護相談」を使って、個別な相談を受けていただくのは、どうでしょうか。

 その「介護相談」を利用した経験で、これは役に立つかもしれない、と思っていただいて初めて、困っていそうな家族介護者を、その相談窓口に積極的に繋いでいただく気持ちになっていただけるように思っています。

 そして、そのことで、家族家族者が相談窓口に訪れ、利用していただいて、少しでも役に立てれば、その窓口の継続利用をしてもらい、だんだん利用者が増えてくる、ということになるのに、時間はかかると思いますが、そうした方法を、試していただく価値はあると思っています。

 そうして好循環になった「介護者相談」は、「公的責任による介護者支援のシステム整備」と近いと考えられます。

 保険医療福祉領域の専門職が適切に介入していくためには、公的責任による介護者支援のシステム整備が不可欠である(中略)。それなくして自助と互助を支援の拠りどころにするのであれば、介護殺人の発生を防ぐことは難しい。(前出「介護殺人の予防」より)。

家族介護者支援の根拠

 こんな話をすると、「需要のエビデンス」といった話にもなりがちですが、前述したように、困っていても、困っていると言いにくくなっているのが介護者の心理です。

 それよりも、こうした「介護者相談」の潜在的な需要を想定した上で、一刻も早く設置するべき時に来ているように思うのは、すでに述べたように、2025年に団塊の世代が後期高齢者になり、認知症の方が史上最大に増大する可能性があるからです。さらには、現状でも、介護殺人の減少傾向が見られないとすれば、今までに力を入れていなかった支援方法を始めるべきだとも思うのですが、この論理に、無理があるのでしょうか。

 前出の厚生労働省の「高齢者虐待防止の基本」の中に、こんな文面もあります。これは、高齢者虐待防止法の中の条文に関わっているので、家族介護者への支援は、義務とも言えるのではないでしょうか。

 市町村は、養護者による高齢者虐待の防止を目的に、養護者に対して、相談、指導及び助言を 行うとともに、養護者の負担軽減のため、養護者に対して必要な措置を講ずるとされています (第6条、第 14 条)。

 こうした指摘もあります。

 2013年3月の地域包括ケア研究会の報告書には、介護者に関し次のような記載が確認できる。「…今後、介護の社会化がさらに進展したとしても、介護者の身体的・精神的負担を完全に取り除くことはできない。そうした観点からも、介護者支援は必要不可欠なものであり、介護者自身に対する直接的なサポートの強化も必要と考えられる」。       (前出「介護殺人の予防」より)

 この「介護者自身に対する直接的なサポートの強化」として、「介護者相談の窓口設置」も有効な方法の一つだと考えられるのですが、いかがでしょうか。

皆様へのお願い

 この10年、こうした話を機会があればしてきました。
 話をする機会を与えていただいた方々には、とても感謝しておりますが、私の力不足もあり、介護者の個別な支援をする窓口が目に見えて増加している印象はありません。

 そこで、改めてお願いです。

 もしも、行政に関わる方がいらっしゃれば、家族介護者の個別での心理的支援の相談窓口を設置することを、考えていただけないのでしょうか。

 また、こうした記事を読んで、個別の相談窓口の必要性を感じられたら、そのような「介護者相談」の窓口の設置の要望を、最寄りの行政へ働きかけていただけないでしょうか。

 介護施設の関係者であれば、もし可能であれば、その施設内(外でも)で安全に相談ができる場所を作り、月に一度でもいいので、家族介護者の個別での心理的支援を、してもらえませんでしょうか。(できましたら、心理職の専門家の採用を考えていただければ、さらに有難いですが)。

 病院の関係者の方がいらっしゃれば、「個別での家族介護者のための相談」の機会を作ることを、考えていただけないでしょうか。

 一般企業の経営者、もしくは責任者であれば、そうした「介護相談」の窓口を作ることを考えていただけないでしょうか。そこに安全な空間と、心理の専門家が揃えば、「介護者相談」は可能だと思います。


 こうした記事を読んで、介護相談の設置を考えたいけれど、何をしたらいいのか分からない場合は、もしよろしかったら、コメント欄や、「クリエイターへのお問い合わせ」などで、聞いていただければ、可能な限り、お答えできるかと思います。(負担の程度によっては、仕事として受けさせていただく場合もあります)。

 もしくは、「note介護相談」の利用も考えていただけないでしょうか。(基本的には、家族介護者向けですが、介護の専門家へも可能な限り対応したいと考えています)。

 唐突で、図々しいお願いとは思うのですが、少しでも検討していただければ、とても有り難く思います。

 また、今すぐでなくても、介護者の心理的な支援について、少しでも考えていただければ、それだけでもありがたく思っています。
 長い記事になり申し訳なかったのですが、ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

 



(他にも、いろいろと介護のことを書いています↓。よろしかったら、読んでくだされば、ありがたく思います)。



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越智誠  臨床心理士/公認心理師  『家族介護者支援note』
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