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「介護時間」の光景㉙「三角」。10.8.

    いつも読んでいただいている方には、本当に繰り返しになり、申し訳ないのですが、私が介護に専念している昔のことです。(後半は、2020年10月8日のことを書いています)。

 2002年10月8日。

 今から、18年も前のことですが、母の入院する病院に、片道2時間かけて、週に3度も4度も通っていました(リンクあり)。顔を見せなくなると、また症状が悪化するのではないか、といった薄い恐怖心に引きずられるように行っていました。帰ってきてから、義母の介護があるので疲労感は積もっていたと思うのですが、それでも、母親が入院して2年がたとうとしていて、やっと病院への信頼が出てきて、気持ちも少し楽になってきた頃です。

 今振り返ると、介護に専念している時のほうが、身の回りの小さな出来事に敏感だったように、思います。


 三角

 バスに乗っていて、カーブに近いせいもあって、わりとゆっくりと通り過ぎる場所に、コンクリートに囲まれている土の部分がある。

 そこを見る度に「殺風景な三角」と勝手に思っている。今日も、同じ道を通って、そこを通ったら、その三角にはネコジャラシや他には名前も知らない何種類かの雑草がいっぱい生えていて、だけど、きゅうくつというよりは、揃っている均一感があって、すごく柔らかそうで気持ち良さそうな三角になっていた。

                         (2002 年10月8日)


 これは病院に行くバスの中から見た「光景」です。
 病院に着いてからの記録もあります。


『3日あけて、病院に行ったので、大丈夫かと思って、ちょっとドキドキしていた。 

 母に会ったら「昨日も来たでしょ」と、いきなり言われる。

 自分自身が、まだ風邪が少し残っていて、心配される。

 夕食は、45分かけて、でも、ほとんど完食をする。

 いつも怒鳴りがちな患者さんと、介護スタッフの声が聞こえる。
 患者さんの「何様なんだよ」という言葉。
 大変だと思うと、そこに看護婦長も加わって、さらに言葉を重ねていると、「何様なんだよ」と怒っていたのが、かなり静かになった。

 ずっと病院にいるしかない患者さんのことを思う。
 母も、同じ状況なのを思う。

 母の病室の机には、折り紙の紙風船が5つもあって、聞いたら、母自身が作ったらしい。

 午後7時に病室を出る。
 その時に、風邪で、明日は来れないかも、と言ったら、「バナナあるうちはいいから」と言われる。

 カリウム不足を防ぐために、医師に勧められたバナナをいつも持ってきているのだけど、それに対して母は、「4分の1ずつ食べるから、4日にいっぺんでいいよ、遠いから」と言ってくれる。そんな器用なことはできないと思うけれど、それでも気持ちはありがたかった。それに、こちらが住んでいる場所との距離感のことは、初めて言われたかもしれない。

 バスに乗って、約30分。病院の最寄りの駅に着いたら、人身事故で、電車が遅れていることを知った』。

それから、18年がたちました。
今日は、2020年10月8日です。

 ずっと雨が降っていました。
 起きてから、雨で、食事をしても、用事をしても、ゆっくりしても、ずっと降っていて、さらには、台風の接近を伝える天気予報を見ると、去年の今頃の、近所の河川敷が決壊寸前までになった台風の恐さを思い出して、不安になります。

 そんな天候のせいなのか、妻が微妙に曇った表情で、聞いて欲しいことがあると、話を始めました。

 それは、私に対してのことでなくて、勝手なことですが、ちょっとホッとはしたのですが、でも、その内容は、年齢も時代も問わない、人との関係に関することでした。

 とても粗くとらえれば、そんなことは気にしないでいいよ、などと言われそうなことでもあるのですが、妻が丁寧に話をしてくれたので、その状況も分かったし、今も割り切れないから、何かわだかまりがあって気持ちが晴れないような感じも、伝わってきたように思っていました。

 そんな風に話を聞いて、時々、分からなかったことや、はっきりとしない点を、少しずつ尋ねたことで、妻がどういうことに悩んだり、気にしていることが、話し始める前よりは、かなり明確になったように思いました。

 そんな時間がたって、私は、何かを具体的に伝えた記憶もなかったのですが、少し妻の表情は晴れやかになり、もやもやがとれたかもしれない、ありがとう、と言ってくれました。

 私も少し明るい気持ちになれましたが、若い時の自分を思い出すと、こういう時の対応はかなり違っていたのではないかと考えました。もっと問題解決をしようとしたり、話している内容を相手よりも早く分かろうとしていたように思います。それは、今思うと、相手を傷つけてしまった可能性もあるのですが、気がつかなかったかもしれません。それが多少でも変化し始めたのは、こじつけに思われるかもしれませんが、明らかに介護を始めてからだと思います。

 特に、母親の入院する病院に通っていた頃は、その病棟に入って、一番気をつけていたことは、その場の静かな空気を乱さないことでした。ゆっくり歩いていましたし、その場所に適応したせいか、年々、話す時の声が小さくなっていったと思います。それに、母親の、時として意味が通らない話も、なるべくちゃんと聞くことで、いつも同じと思っていた内容に微妙な変化が訪れたり、もしくは話が前に進むこともありました。そんな経験が、比較的、長い間続いたことで、自分も変わってきたのだと思います。それから臨床心理士になるために、さらに勉強や訓練はしましたし、実際の仕事での経験も、当然大きいと思うのですが、そうしたことの前に、介護をしたことの影響はあると思っています。

 介護をしていた時も辛さがあり、もちろん妻も大変だったはずですが、2年前に急に介護が終わりました。そのことによって、大変さは明らかに減ったと思います。それでも、人との関係について、いろいろと思うのは、ずっと変わらないのだと、妻の正直な話に、改めて思いました。

 庭の柿の木の実は色づき始め、中には、そのまま下に落ちて、つぶれてしまっている姿も目立ってきています。
 本当に、秋になってきたようです。あんなに暑かった記憶は、すっかり遠くなってきました。



(他にもいろいろと介護について書いています↓。クリックして読んでいただければ、ありがたく思います)。

「介護時間」の光景⑳ 「暑さ」 8.7. (今回と同じ2002年のことです)。

「介護の言葉」

「介護の大変さを、少しでもやわらげる方法」

「家族介護者の気持ち」

「介護books」②介護が始まるかもしれない人へ。不安を(少しでも)減らすための4冊



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越智誠  臨床心理士/公認心理師  『家族介護者支援note』
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