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「介護時間」の光景⑤ こいのぼり  4.19

 今から18年前の4月19日も晴れていたと思います。

 個人的なことですが、介護に専念していた時期がありました。
 とはいっても、イメージ通りの「介護」ではなく、病院に通って、母の様子を見て、帰ってきてから、義母の介護をするという毎日が7年ほど続いていました。


 その頃は、それだけのことなのに、やたらと疲れていました。
 特に、病院に通うという行為は、なぜかエネルギーを吸い取られるような感覚がありました。それでも、病院に行かないと、母の症状が悪化してしまうのではないか、という恐怖心がふくらんで、片道2時間をかけて病室に着くと、その不安がしぼむことの、繰り返しでした。その気持ちの揺れ方が、より疲労感を深めていたのかもしれません。

 ただ、その単調な繰り返しの時間の中で、日常の小さな変化に、今よりもはるかに敏感になっていたと思います。それは、家族介護者の独特の緊張感が可能にしていたことだと、今でも思います。

(18年前のことは、介護離職して、10年以上介護をしながら、50歳を超えて臨床心理士になった理由③に詳細が書いてあります。もしよろしかったら、クリックして読んでいただければ、幸いです)。

今から18年前の、同じ4月19日に見た光景です。
     (その日のメモを一部修正しています)。


「介護時間」の光景⑤ 


こいのぼり 

 わりと古いタイプのかわらの屋根。
 新しいタイプの、軽そうに見える屋根。
 2軒の家が並んでいて、その2つの屋根の間にはさまれたような空間の少し奥で、赤いこいのぼりが風にしっかりとたなびいているのが見える。
 その上にはバイパスのコンクリートの道路が通っている。
 そういう、囲まれたような、すき間で、こいのぼりが、確かに泳いで見えた。
 私にとっては、初めて、泳ぐという言い方がホントだ、と思えた。
 風が吹いていて、こいのぼりは泳ぎ続けていた。

                     (2002年4月19日)


 母親に病院に入院してもらい、ただうつむき加減に通い続け、その病院の看護師の方から声をかけられ、減額措置があることも教えてもらい、ちょっとだけ周囲が見えてきた頃だと思います。
 この2年前、私は、心房細動の発作を起こし、それから毎日、薬を飲んでいました。医師には、「無理して、今度大きい発作を起こしたら死にますよ」と言われていました。この頃、2ヶ月に1度くらい診察してもらっていたのが、母親の入院している病院の、近くにある病院でした。母の病院に行くついでに通えるように、他の病院からかえました。

 診てもらっている循環器科の医師が、自分も心房細動で、という話も聞いていて、そのうちに、若い頃に発作を起こした背景なども聞かされるようになりました。

 その診察が終わって、これから母親の病院に行くまでの時間に見た光景だと思います。
 天気が良くて、風もふいていて、周囲は広く見えて、気持ちよかった記憶があります。

 ただ、心臓の薬は一生飲み続けなくてはいけない、と思っている頃でもあって、そのことを考えると、重い気持ちにもなっていました。


 それから18年がたって、幸運なことに、今は心臓の薬は飲んでいません。

 今日もいい天気でした。
ただ、自分の視野が狭くなっているせいか、人とソーシャルディスタンスをとることばかりに気を取られているせいか、今年、どこかで、こいのぼりを見た記憶が、まだありません。

 うちの庭からは、向こうに伸びる路地が見えて、そこに走る青年がいたのは、先週のことでした。ここをクリックすると、そのことを書いたnoteにリンクしています)。

 今日は午後になってから、路地のこちらから見て、一番奥、40メートルほど先、路地の真ん中に、学校で使うような小さめの机とイスを出して、座っている男性が小さく見えました。マメに何度も、座りかえて、ここからは見えないところへ手を伸ばし、何かをしていました。何をしているかわからないまま、ほんの数分で、机とイスを持って、その男性にとっては、すぐ横の、こちらからは見えない場所へ移動していきました。

 そのまま、いつもの静かな路地に戻りました。
 

 この路地に面した幼稚園が休園になっているようで、ほぼ誰も通らない場所になり、これまでは見たことがない使い方をする人が増えているのかもしれないと思いました。



(他にも介護に関して、いろいろと書いています。もし、よろしかったら、クリックして読んでもらえたら、うれしく思います↓)。

家族介護者の気持ち③「死んでほしいは、殺意ではない」 

『家族介護者の気持ち』 ①介護のはじまり・突然始まる混沌

介護の大変さを、少しでもやわらげる方法① 自然とふれる

「介護books」 ① 介護未経験でも、介護者の気持ちを分かりたい人へ、おすすめの2冊

介護の言葉① 「介護離職」


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越智誠  臨床心理士/公認心理師  『家族介護者支援note』
 この記事を読んでくださり、ありがとうございました。もし、お役に立ったり、面白いと感じたりしたとき、よろしかったら、無理のない範囲でサポートをしていただければ、と思っています。この『家族介護者支援note』を書き続けるための力になります。  よろしくお願いいたします。

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