兵庫県知事選はオールドメディアvs民意なのか? 新知事誕生から読み解く-334号-
(※本記事は、兵庫県知事選直後の2024年11月19日の10分記事動画を記事化したものです)
今日は、兵庫県知事選の結果に基づいて、「オールドメディアVS民意」という構造に陥りやすくなっているけれど、しばらくはテレビや新聞をゆったりとした目で見てあげてほしい」というお願いです。
その裏側にある3つの構造をご説明します。後ろに行けば行くほど難しくなるので、「尾原のいつもの話だな」と思って、難しい気持ちを難しく楽しめるのであれば、ぜひ続けていただければと思います。もし、「尾原さん、何言ってるの? 尾原さんも結局、オールドメディア側なのね」という気持ちになった場合は、「お願い」というところ(第一段階)までを聞いていただければです。
兵庫県への思いと今回の選挙
最初に僕の立場を表明しておくと、僕自身、中学・高校が兵庫県でした。何よりも、阪神淡路大震災の時、僕は大学院1年生で被災せず、ほぼ1年間、被災地でボランティアをさせていただいた経緯があります。その時も、神戸市と兵庫県の温度差を感じましたし、そのタイミングですら、兵庫県知事から副知事に伝わっていく体質でした。こういったところから、いろんな憤りを感じています。
はじめに事実関係を置いておきますが、今回、斎藤県知事が復活当選するにあたって、N国党の方が見つけてきたリークの話に関して、リークそのものは事実だと思います。でも、彼がそのあと言っていることに関しては、「NHKをぶっ壊す」ことに異常なこだわりを持ちながらの発言だと、僕は思っています。
まず僕は、兵庫県知事の保守的なところにイライラを持っている人間です。一方で、「インターネットはみんなの自由を輝かすためにあるからわかるんですけど、N国党さん、あなたの『NHKをぶっ壊す』という心情から、テレビのニュースに対して権威性を落としたいのが見えてしまうよ」というところがある。その上で話すと、今回の事案は過去の研究どおりのパターンにハマっているんですよ。ㅤ
選挙報道とリーク情報
今回の話の大前提としてあるのは、兵庫県知事の選挙戦が始まったタイミングで立候補していらっしゃる方が、兵庫県の百条委員会の中でのやり取りの音声データをリークしましたと。これは、事実ですよね。そして、そのリークの事実から、「実は斎藤知事を追い出した既得権益の方々は、いろいろあるんじゃないですか?」という話です。
それに伴って、「なんでマスメディアはこのことを取り上げないんだ?」「辞めるべきとまでは言わないけど、『本当に大丈夫なんですか?』という声をあげていたのはマスメディアじゃないですか。なんで今回の事には、一切反応しないんですか?」ということです。
この3段論法の間には、いろいろあるわけですね。特に3段論法の3番目に関しては、選挙報道に関する公平性があります。ですので、選挙報道する時には、「誰かを取り上げたら、こちらの方も取り上げなければ」ということも大きい。
ましてや、疑義ですよね。事実に基づいて「こういう可能性がありますよね」「あなたはもしかしてこうじゃないですか?」という疑義は、選挙報道中には取り上げにくい。あるいは、いろんなことに敏感になってしまっているマスメディアは、「それを扱ってはいけない」ぐらいにまで思っている。こういったことがあって、今回の構造を引き起こしやすくなっているという、構造的な話が1つ目です。
リーク情報は「気持ちいい」
2つ目に、この構造の中で謳われたリークは、聞き手にとって最も気持ちいいんです。これはトランプ政権の選挙中や、「フォルツァ・イタリア」のように、ものすごく極端な政党が力を持った時、沖縄の与那覇問題の時に、何回も再現されている話なんです。
ある1個の事実を、「まったくもって疑いのない事実です」と伝えられた時に、それとセットで、「ということは、これって、こういうことじゃないですかね?」という、首尾一貫したストーリーがあると、「ああ、そうだったのか」と、目から鱗の状態になってしまいます。そして、「こんな目から鱗の事実を、なんでオールドメディアは伝えないんだ? ということは、オールドメディアも既得権益側の一員であって、信じられるのはニューメディアのほうだ」という構造ですね。これが、今までトランプ政権であり、与那覇問題であり、フランスであり、何回も何回も繰り返している話です。
N国党の方がそうだとは言っていませんが、ナチスドイツも、最初は「メディアはユダヤ人が握っていて、我々こそが真実の報道である」と、ラジオを使いながら急速に支持を得ました。そして、民主主義の中で権力を握って、選ばれた党であるということですね。
繰り返します。僕は今回のリークに関しては、「そうなんでしょうね」と。でも、このリークが権力構造とどう結びついているのか、斎藤知事がパワハラをしていない話とどう結びついているのかについては、僕はまだ保留しています。ましてや、「オールドメディアの方が既得権益と結びついて、いろんな言論をコントロールしているんじゃないか」ということに関しては、何も保留していない状態ですね。
SNSの盛り上がりと"ムカつく僕たち"
この2つの構造をお話しした上で、「SNSが盛り上がったみたいですね。それで、選挙に勝ったんじゃないですか?」といった、一番薄いところのお話です。
実際に、今回の出口調査のアンケート結果を見ると、「マスメディアよりもSNSのほうが参考になった」という話があります。また、50代までは斎藤さんを支持していて、60代、70代の方は、もう一人の方を支持していたという、サポートデータがあるんです。
マスコミが、「みなさん、ファクトチェックをちゃんとしないとダメですよね」「実際にニュースを見た時に、それが本物かどうかをちゃんと確かめないとダメですよね」と、いわゆるフェイクニュースの一般論的な話をすると、逆効果になっちゃうんですよね。
その理由として、少なくともリークは事実だし、インターネットでは、そのことが日々取り上げられていて、リークに関連する追加の検証がたくさん行われています。それなのに、オールドメディアは一切取り上げていなかったじゃないかということです。こういう構造があるものですから、「マスメディアは何もしていないのに、今さら何を言ってるの? インターネットは、こんなに活況じゃないか」と。
ですので、オールドメディアが、「ファクトチェックが大事」とか「ネットのリテラシーを上げたほうがいいよ」と言っても、その話を聞けば聞くほど、「ムカつく僕たち」が現れやすくなるんですよね。
この「ムカつく僕たち」に乗っかっちゃうと、「オールドメディアはもうダメで、既得権益側であって、ネットしか信じられない」となってくる。そうすると、いろいろ危険なことになりやすいので、もうちょっと待とうというお話ですね。
当たり前ですが、オールドメディアの方の中には、気概を待って「今回の事実関係では何が事実で、何が主観的な意見なのか」を丁寧に切り分ける方もいます。また、今回のみなさんの動きがどうなったのかを、丁寧に見ている方もいると思います。何よりも、メディアが偏向報道と言われないために臆病になったことに対して、某N国党の方は、良い悪いを含めてハックが上手だと思います。
そういうことに対して、「『そもそもどうするんだっけ?』と、ちゃんと議論されるには、時間がかかるんですよ。だから、少なくとも1ヶ月は、「オールドメディア、ダメじゃん」と言って、見捨てることを諦めないでほしいというのが、お願いです。これは、解説じゃなくてお願いです。以上が、第一段階です。
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