『Eternally - 愛しさと刹那さと - 』(前)【ボイスドラマ】
Do Some Call
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音楽ユニットDo Some Call(chacch x kazma tamaki)の楽曲「Eternally」の詞世界をベースに生まれた短編小説「愛しさと刹那さと / 舞濱りん 作」を盟友Tacciの脚本によりボイスドラマ化。
原作:舞濱りん
脚本:Tacci
イメージイラスト : sio
メインキャスト : 琴猫(瞳) / なぐ(トーマ)
キャスト : Tacci(タツヤ) / 神乃ちよ(出待ちの女)
カメオ出演 : chacch & Kikanbo / kazma tamaki
BGM : Do Some Call / chacch / kazma tamaki
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愛しさと刹那さと / 舞濱りん
http://slib.net/48816
https://note.mu/shamu/n/nc96c63416e49
https://note.mu/shamu/n/nb96aaf90cce2
Eternally / Do Some Call
https://soundcloud.com/dosomecall/eternally
https://note.mu/kazma_tamaki/n/n3fe4b32a1c19
https://note.mu/chacch/n/n628afa820dfa
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「えっとなになに…第十八回シチズンフェスティバル、ステージパフォーマンス出演者募集、か…」
リビングの床に置き捨てられていた、いつもなら即ゴミ箱行きのその地域情報誌。
家事を終え、一息つこうとソファに腰掛けた私の足元に、たまたまそれがあったから。
何の気なしにめくっていった最後のページに…その記事はあった。
シチズンフェスティバルとは、秋に開催される市民まつりのことだ。
私の住む町では頻繁にそのようなイベントがあり、それが官と民を結びつけ街の活性化にも繋がり、好循環をもたらしている。
特に音楽には力を入れており、プロアマ問わず、市民に活動の場として提供されていた。
私、真鍋瞳(まなべひとみ)は、その募集要項を食い入るように見ていた。
(ライブかぁ…。懐かしいな…)
そのイベントに足を運んだことはなかったため、スマートフォンで昨年の様子を検索してゆくと…すぐに多くの動画が見つかった。
再生するやいなや、いきなり素人レベルではない演奏が始まり…私は血が騒ぎだすのを感じた。
(……この雰囲気、やっぱり好き。)
ドラムが響く。
それに促されているかのようなヴォーカルの歌声に、ぶるりと震えがくる。
フィナーレを迎え、会場からは拍手喝采。
バンドメンバーも、それを浴びて歓喜の表情を浮かべていた。
(…胸が高鳴る。)
思わず部屋に置いてあるギタースタンドからオベーションのギターを取り出し、チューニングをする。
音楽は常にそばにあった。たとえステージがどんなに遠くなろうとも。
音楽を捨てられなかった。なぜなら、
(それが貴方に通じる道……。)
そう思っていたからである。
駅の構内などで歌っているパフォーマーを見れば、自分もやってみようかと何度も思った。
しかし、どんなに小さくともステージには違いなく、緊張を強いられ、尻込みした。
そして、いつも後ろで弾いていた彼の姿を思い浮かべてしまうのだ。
(貴方のギターは特別……。)
いつも魔法にかけられていると思っていた。
歌声に重なるその暖かい音色は、すっぽりと包み込まれる抱擁そのものだった。
「なあ、瞳」
「ん?」
「…そろそろ一緒に暮らさないか」
彼のその言葉を、いつも聞き流していたのには理由があって。
…プロポーズだとわかっていつつも、何度も聞きたい愛の言葉だったから。
悪いと思いながらも…わざと軽く流していたのだった。
「だーめ。皆に気を遣わせてしまうでしょ?」
「そんなの…関係ないよ」
ずっと一緒にライブハウスで演奏していけると思っていた。そのまま月日を重ねていくものと思いこんでいた。
あの人の才能はそれに留まらないものだとわかっていつつも。
「瞳」
「なに?」
「僕さ」
「うん?」
「…実は、他でヘルプ頼まれたから…来週からちょっと休む」
「…えっ」
トーマから切り出された話…それは、彼がメジャーで活躍するユニットのメンバー入りを果たしたものの、それをずっと私に告げられずにいた、ということだった。
だが、他のメンバーは皆知っていたことだった。よくある話だけど。
飛躍するチャンスがあるならば、もちろんそれを逃すべきではない。
それは各々が掴むものであり、誰かが引き上げてくれるものではなく、それぞれの運と実力のみにだけ訪れるものである。
ただ…それを秘匿される謂れはないはずだった。
「どうして内緒にしてたの…?」
「………」
「隠すことなんてないのに…」
「……なかなか言い出せなかった」
「どうして…?」
「君とは距離を置きたくないと思った。だが、そう考えると身動きが取れなくなって」
「大きなチャンスじゃない。私に遠慮する必要なんてないわよ」
「でも…僕は君とずっと音楽をやっていきたい。君の歌を聴き続けたいんだ」
「……なにそれ」
「君の声に…僕の音を重ねていきたい」
「…やめて」
「僕は…。君と離れたくない」
「やめてよ」
「そばにいてくれ」
「何を言っているの? トーマが離れていくんでしょ?」
「お願いだから。僕のそばにいてほしい」
「そんなの…ずるいよ」
「狡くても何でもいい。離れたくないんだ」
「…卑怯だよ」
「卑怯者だと言われてもいい。とにかく……」
憤りを押さえられなくなり、左の頬を思い切り叩いた。
「私にどうしろというの?」
「僕から離れないでほしい。頼む」
「トーマは、もう、私と一緒にステージに立てないのでしょう?」
「……おそらく制約を受けると思う」
羨望の思いが湧き上がった。
「私はどうやって歌えばいいの?」
「ステージでなくとも歌える」
「どこでよ!」
「……」
「まさかカラオケとか?」
「……」
「誰もいないところで? 公園とか? ねえ、どこよ、馬鹿にしないで!」
「………」
「私にステージに立つなというの?」
「そんなことは言っていないよ。どんどん立てばいいと思う。他のいいミュージシャンとセッションすれば勉強になるし、刺激を受けるよ」
上からものを言われたような気がして、屈辱を感じた。
「だったら…!トーマはいらない!」
「……ヒトミ…」
湧き出てきた嫉妬の感情が抑えきれなかったのである。
どうして自分にはチャンスがない?
どうして自分の道は広がらない?
どうしてトーマには特別な才能がある?
「トーマなんか…いらない」
ぽろぽろと涙が零れ落ちていった。
「いらないよ…!」
後悔という言葉がどういう意味か…
思い知るほどに言ってはいけないことを言ったのだと、後から後から悔やんだが…。取り戻す術がなかった。
それからというもの、歌を歌おうとしても声が掠れてしまい、次第に歌うことが苦痛になり、アルバイト生活はやめて地元の企業に就職し、歌は会社の飲み会で披露するくらいのものだった。
それで日々は過ぎていった。
幾年とも日々は過ぎていったのだった。
その間には、何人もの男性に口説かれ、結婚を申し込まれて交際もしたが、いずれも長くは続かなかった。
そして、数年前から住み始めた今の街が気に入り、休日は市内で過ごすようになった。
(……ライブ、したい。)
ギターを置き、パソコンに向かい、出演申込書をダウンロードする。
急き立てられるように項目に入力し、プリントアウトする。
持ち時間20分。
一回限りのステージ。
自分の歌を聴いたことがない不特定の路上の観客。
……歌いたい……。
そう思ったら、全身から震えがくる。
歌いたい。
叫び出したいほどの欲求が襲う。頭の中で音が鳴り出す。リズムが溢れてくる。
狂おしいほどの思いが駆け抜ける。
私は…!歌いたい――!
注)chacchの投稿も同内容です。
原作:舞濱りん
脚本:Tacci
イメージイラスト : sio
メインキャスト : 琴猫(瞳) / なぐ(トーマ)
キャスト : Tacci(タツヤ) / 神乃ちよ(出待ちの女)
カメオ出演 : chacch & Kikanbo / kazma tamaki
BGM : Do Some Call / chacch / kazma tamaki
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愛しさと刹那さと / 舞濱りん
http://slib.net/48816
https://note.mu/shamu/n/nc96c63416e49
https://note.mu/shamu/n/nb96aaf90cce2
Eternally / Do Some Call
https://soundcloud.com/dosomecall/eternally
https://note.mu/kazma_tamaki/n/n3fe4b32a1c19
https://note.mu/chacch/n/n628afa820dfa
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「えっとなになに…第十八回シチズンフェスティバル、ステージパフォーマンス出演者募集、か…」
リビングの床に置き捨てられていた、いつもなら即ゴミ箱行きのその地域情報誌。
家事を終え、一息つこうとソファに腰掛けた私の足元に、たまたまそれがあったから。
何の気なしにめくっていった最後のページに…その記事はあった。
シチズンフェスティバルとは、秋に開催される市民まつりのことだ。
私の住む町では頻繁にそのようなイベントがあり、それが官と民を結びつけ街の活性化にも繋がり、好循環をもたらしている。
特に音楽には力を入れており、プロアマ問わず、市民に活動の場として提供されていた。
私、真鍋瞳(まなべひとみ)は、その募集要項を食い入るように見ていた。
(ライブかぁ…。懐かしいな…)
そのイベントに足を運んだことはなかったため、スマートフォンで昨年の様子を検索してゆくと…すぐに多くの動画が見つかった。
再生するやいなや、いきなり素人レベルではない演奏が始まり…私は血が騒ぎだすのを感じた。
(……この雰囲気、やっぱり好き。)
ドラムが響く。
それに促されているかのようなヴォーカルの歌声に、ぶるりと震えがくる。
フィナーレを迎え、会場からは拍手喝采。
バンドメンバーも、それを浴びて歓喜の表情を浮かべていた。
(…胸が高鳴る。)
思わず部屋に置いてあるギタースタンドからオベーションのギターを取り出し、チューニングをする。
音楽は常にそばにあった。たとえステージがどんなに遠くなろうとも。
音楽を捨てられなかった。なぜなら、
(それが貴方に通じる道……。)
そう思っていたからである。
駅の構内などで歌っているパフォーマーを見れば、自分もやってみようかと何度も思った。
しかし、どんなに小さくともステージには違いなく、緊張を強いられ、尻込みした。
そして、いつも後ろで弾いていた彼の姿を思い浮かべてしまうのだ。
(貴方のギターは特別……。)
いつも魔法にかけられていると思っていた。
歌声に重なるその暖かい音色は、すっぽりと包み込まれる抱擁そのものだった。
「なあ、瞳」
「ん?」
「…そろそろ一緒に暮らさないか」
彼のその言葉を、いつも聞き流していたのには理由があって。
…プロポーズだとわかっていつつも、何度も聞きたい愛の言葉だったから。
悪いと思いながらも…わざと軽く流していたのだった。
「だーめ。皆に気を遣わせてしまうでしょ?」
「そんなの…関係ないよ」
ずっと一緒にライブハウスで演奏していけると思っていた。そのまま月日を重ねていくものと思いこんでいた。
あの人の才能はそれに留まらないものだとわかっていつつも。
「瞳」
「なに?」
「僕さ」
「うん?」
「…実は、他でヘルプ頼まれたから…来週からちょっと休む」
「…えっ」
トーマから切り出された話…それは、彼がメジャーで活躍するユニットのメンバー入りを果たしたものの、それをずっと私に告げられずにいた、ということだった。
だが、他のメンバーは皆知っていたことだった。よくある話だけど。
飛躍するチャンスがあるならば、もちろんそれを逃すべきではない。
それは各々が掴むものであり、誰かが引き上げてくれるものではなく、それぞれの運と実力のみにだけ訪れるものである。
ただ…それを秘匿される謂れはないはずだった。
「どうして内緒にしてたの…?」
「………」
「隠すことなんてないのに…」
「……なかなか言い出せなかった」
「どうして…?」
「君とは距離を置きたくないと思った。だが、そう考えると身動きが取れなくなって」
「大きなチャンスじゃない。私に遠慮する必要なんてないわよ」
「でも…僕は君とずっと音楽をやっていきたい。君の歌を聴き続けたいんだ」
「……なにそれ」
「君の声に…僕の音を重ねていきたい」
「…やめて」
「僕は…。君と離れたくない」
「やめてよ」
「そばにいてくれ」
「何を言っているの? トーマが離れていくんでしょ?」
「お願いだから。僕のそばにいてほしい」
「そんなの…ずるいよ」
「狡くても何でもいい。離れたくないんだ」
「…卑怯だよ」
「卑怯者だと言われてもいい。とにかく……」
憤りを押さえられなくなり、左の頬を思い切り叩いた。
「私にどうしろというの?」
「僕から離れないでほしい。頼む」
「トーマは、もう、私と一緒にステージに立てないのでしょう?」
「……おそらく制約を受けると思う」
羨望の思いが湧き上がった。
「私はどうやって歌えばいいの?」
「ステージでなくとも歌える」
「どこでよ!」
「……」
「まさかカラオケとか?」
「……」
「誰もいないところで? 公園とか? ねえ、どこよ、馬鹿にしないで!」
「………」
「私にステージに立つなというの?」
「そんなことは言っていないよ。どんどん立てばいいと思う。他のいいミュージシャンとセッションすれば勉強になるし、刺激を受けるよ」
上からものを言われたような気がして、屈辱を感じた。
「だったら…!トーマはいらない!」
「……ヒトミ…」
湧き出てきた嫉妬の感情が抑えきれなかったのである。
どうして自分にはチャンスがない?
どうして自分の道は広がらない?
どうしてトーマには特別な才能がある?
「トーマなんか…いらない」
ぽろぽろと涙が零れ落ちていった。
「いらないよ…!」
後悔という言葉がどういう意味か…
思い知るほどに言ってはいけないことを言ったのだと、後から後から悔やんだが…。取り戻す術がなかった。
それからというもの、歌を歌おうとしても声が掠れてしまい、次第に歌うことが苦痛になり、アルバイト生活はやめて地元の企業に就職し、歌は会社の飲み会で披露するくらいのものだった。
それで日々は過ぎていった。
幾年とも日々は過ぎていったのだった。
その間には、何人もの男性に口説かれ、結婚を申し込まれて交際もしたが、いずれも長くは続かなかった。
そして、数年前から住み始めた今の街が気に入り、休日は市内で過ごすようになった。
(……ライブ、したい。)
ギターを置き、パソコンに向かい、出演申込書をダウンロードする。
急き立てられるように項目に入力し、プリントアウトする。
持ち時間20分。
一回限りのステージ。
自分の歌を聴いたことがない不特定の路上の観客。
……歌いたい……。
そう思ったら、全身から震えがくる。
歌いたい。
叫び出したいほどの欲求が襲う。頭の中で音が鳴り出す。リズムが溢れてくる。
狂おしいほどの思いが駆け抜ける。
私は…!歌いたい――!
注)chacchの投稿も同内容です。
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