仕事の選び方
転職を何度も繰り返してきたけれど、経験してきた業種がバラバラ。こうした問題を抱える相談者は少なくありません。そんな時は、経験職種の一つ一つについて、その仕事を選んだ理由を聞くことにしています。
「給与が良かった」「家から近かった」「福利厚生がしっかりしていた」「平均年齢が若かった」概ね、そんな答えが返ってきます。転職回数が多く、業種に一貫性が無いのは、こうしたことを仕事選びの基準にしているからだという気がしてなりません。上記に挙げたような選択基準に何か問題があるのでしょうか。
仕事をする上で大切なことに、職務満足が得られるかどうかがあると思います。キャリア心理学のハーズバーグは満足の要因は2つあるとしました。「動機づけ要因」と「衛生要因」です。
動機づけ要因とは、達成感や成長の実感、自己実現などに関わるもののことです。言わば内的なことです。一方、衛生要因とは職場環境、上司などとの人間関係、会社の経営方針や企業風土、賃金などに関わることです。外的なことだとも言えるでしょう。
以前、私はある病院に長期入院したことがあります。伝統があり世間的に名の通った病院でした。ところが大きな問題があったのです。建物が古いこと。築60年にも及ぼうかという病棟は、様々な箇所で使い勝手が悪く、入院生活も大変でした。病室の防音性能は極端に低く、隣の病室のいびきが聞こえてくるほどでした。
ナースセンターではひっきりなしにアラームが鳴るのですが、それが病室にまで響いて夜寝られません。エレベーターはドアの下に大きな隙間が空いており、点滴スタンドがつまづいて倒れそうになります。共同のシャワー室は、入口がなぜか斜面になっているうえに表面がツルツルで危険極まりありません。診察室前の椅子は座面が固くお尻が痛くて閉口しました。おまけに通路が狭くて、車いすが一台通るのがやっと。相互通行になった場合は相手が通り過ぎるのを待たねばなりませんでした。
その病院が建て直されたのです。有名だっただけに資金はあったのでしょう。新しい病棟はピカピカで素晴らしく快適になりました。病室もシャワー室もナースステーションも診察室もすべてがゆったりとした贅沢な空間づくりがなされました。危ないところは見直され、防音設備も施されて安眠できます。
しかし、新しくなった病院を訪れながら自分に問いました。
「これで満足しているだろうか」
そうではないと思いました。それは不満が解消されたに過ぎません。
滑って危ないシャワー室へ、うるさい病室、狭くお尻が痛い診察室。それらの不満が新しくなったことで解消されたということです。満足を得たわけではありません。満足とは、医師の治療の腕や看護師のやさしさなどから得られるものでしょう。設備が新しくなっただけでは無理なのです。
「動機づけ要因」、「衛生要因」とはこうしたことを言っています。給与が良い、仕事環境が良い、上司の態度がおとなしくなった、企業風土が自由になった・・・。
これらの要因は不満を解消してくれますが満足につながるものではありません。満足とは人の成長意欲や向上心を満たしてくれるかどうかにかかってくるものです。
仕事をしていれば、不満や苦痛をどうしても抱えてしまいます。転職の目的がその不満、苦痛の回避であった場合、「給与が良かった」「家から近かった」「福利厚生がしっかりしていた」「平均年齢が若かった」といった類の理由での就職になり、それでは職務満足にはなかなかつながっていきません。
結果として、転職を繰り返して業種に一貫性がないということになってしまいます。
そうならないためには、仕事選びの基準を再考してみることです。達成感や成長の実感という観点から選んでみる。その仕事は向上心や成長意欲を満たしてくれるかを考えてみる。
そうして選んだ仕事ならば職務満足をもたらしてくれるだろうし、転職を繰り返す悪循環を断ち切ることにもつながるのではないでしょうか。
求めているのは満足か不満の解消か。それをしっかりと見極めることです。キャリアとは満足を追求した結果で形成されるものなのです。