キャリアって何だ?

キャリアコンサルタントにとっての最重要ワードは何かと言えば、もちろん「キャリア」でしょう。「主体的なキャリア構築をしていきましょう」「キャリアビジョンが曖昧なようです」「キャリアパスは見えていますか」「キャリアマップ」「キャリアアップ」「キャリアチェジ」「キャリア形成」「キャリアプラン」等々


コンサル現場で頻繁に登場する「キャリア」。この言葉は正確には何を意味しているのでしょうか。改めて問われると、すぐに答えが出て来ません。そのことに我ながら驚いてしまいます。

キャリアとは何か。この素朴な疑問が実はキャリア心理学における重要なテーマの1つなのです。名だたる心理学者たちが、その定義づけを行ってきました。

ダグラス・ホールはキャリアとは経験・スキル・学習・転機・アイデンティティーの変化の連続であるとしました。いわゆる、昇進のステップや職業の履歴とは一線を画しています。キャリアを形成するのは組織ではなく個人であり、成功と失敗を評価するのも本人だというのです。

組織ではなく個人によって作られるものである以上、本人の望みによってキャリアは変化していくものだとしました。それをプロティアン・キャリア(変幻自在なキャリア)と呼んだのです。

プロティアン・キャリアが目指すのは、昇進、地位、給与ではありません。個人の満足感や成長実感などの心理的な成功だとしました。

キャリアの発達理論で有名なD.Eスーパーは外的キャリアと内的キャリアという言葉で表しました。他人が理解できるものが外的キャリア。自分が理解でき求めるものが内的キャリアというわけです。

ジョブカードの職務経歴シートを見てみましょう。そこには「職務内容」の欄と
職務で得られた「学び・知識・技能」を書く欄があります。職務内容は外的キャリアであり、得られた学びは内的キャリアということになります。

先日、相談窓口に20代半ばの女性が訪れました。社会人になって5年。ある有名店の店長に昇りつめ、これからと言う時に医療事務職に就きたいと思い立ち、転職を考えたというのです。

名のある店ですから、店長でいればステイタスもあります。人から頼られ、信用もされ、生活も安定します。しかし、本当の気持ちはもっと人の役に立っている実感を得たい。こつこつと書類を作り上げる仕事に喜びを感じる。これからの長い人生を考えると医療事務職に今、方向転換するべきではないかと思っている。そういう悩みです。

人からは認められ、良い生活も得られている。ところが満足できない。なぜ、そういうことになるのか、自分自身でも整理がつかない。どう決めたとしても、その判断が正しいかどうかがわからず、非常に混乱している様子でした。

このケースは外的キャリアと内的キャリアとが一致せず、摩擦を起こしていることから起きる悩みだと思います。

そこで、店長を続けた場合の外的キャリアと内的キャリアがどう作られていくかのシミュレーションをしてみました。
同じように医療事務職に就いた場合をシミュレートし、その比較をしてみたのです。

その結果、医療事務の方が、満足度が高く、成功した時の具体的なイメージが湧いてきました。

このプロセスを経たことで、迷いを振り切ることができ、医療事務の道に全力で向かっていく決心を固めることができたのです。

ここで決め手になったのは、ホールが唱えたように、キャリアが成功かどうかの評価は他人ではなく本人が下すということです。目的を他者の評価にのみにおいてしまえば、転職でさえも他人の目線で行われることになります。その先にあるものは結局、他人の価値感を満たすものでしかありません。

良いキャリアを築いて人生を実りあるものにしたい。その願いをかなえるためには、そもそもキャリアとは何なのかをじっくりと考えてみることも大切なことだと思います。


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